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「ふーん、そうなんだ。ところで、君のことはなんと呼んだらいいのかな。名前はあるけど、まだ名乗っていないんだろう? あっ、ごめん。自己紹介がまだだったね。ぼくの名前は……なんだっけ?」
「おいおい、大丈夫かよ。君の名前が思い浮かばないなら、おれが代わりに考えてやるぜ。うーん、そうだなぁ。例えば……」
「おっ、なんか思いついた? どんな名前がいいかな?」
「いや、あんまり期待しない方がいいと思うぞ。なにせ、今のおれには適当な言葉がなかなか出てこないんだ。えっと……」
「どうだい、これなら言えるんじゃないか? ほら、早く言ってみてよ!」
「お、おう! それじゃあな!」
男は、それだけ言って去って行った。
「……」
私は黙ってその後姿を見送った。……一体なんだったんでしょうか? さっきの男の顔を思い出してみると、かなり動揺していたように見えたんですけどね。……まぁいいでしょう。どうせまた会うことになるのですし、その時に直接聞けば良いだけの話です。
私は小さく息をつくと、再び歩き始めました。
しばらく歩いていると、やがて人通りの少ない路地裏に入り込みます。……おかしいですね。確かここら辺に目的の店があったと思ったのですが……。あぁ、ありました!ここです、ここです!!えーっと……お店の中はどんな感じなんでしょうね
こ、こんな所で殺人事件!?
あっ、どうやら死体ではないようですよ。よく見ると生きてるようですし。
えっ、どこですかって? ほら、あそこです。あの壁際で倒れてる男ですよ。いえ、僕もまだ遠目でよく見てませんけどね。
ただ、倒れ方とか血の流れ具合なんかを見ると、まず間違いないかと思いますよ。
ああいう状態の死体というのは、なかなか見る機会はないんですが、やっぱり死んでる人間とは雰囲気が違うんですよねえ。生きている人間は生々しい感じがしますが、死んでいる人間は妙に無機質で人工的な印象を受けるものです。だから、一見してあれが死体だと思えないわけですね。
しかし、こうして改めて観察すると、やはり完全に呼吸していないようですし、脈拍もないみたいだし、顔にも血色がありません。やはりあれは完全に死体でしょう。少なくとも生きた人間の格好ではないことは確かですね。ただね、僕自身死体を見た経験が少ないものですから、実はあれが本当に死んだ人の姿かどうか自信がないんですよ。
なんせ僕は生まれてから一度も心臓麻痺を起こしたことがないんで(笑)。まあそれは冗談としても、どう見てもあれは普通じゃなかったですよ。だって、あんなふうに手足を縛られて吊るされてるなんておかしいじゃないですか。しかも全裸で。だから、もし仮にあの人が本当に死んでいて、なおかつ服を着ていなかったら、僕の目の前にあったのは本物の死体ということになるわけですけど、まあその可能性はかなり低いんじゃないかと思いますよ。
まず間違いなく、あれは何らかの理由で服を脱いで拘束されているだけであって、実際に死んではいないと思うんですよ。まあでも、さすがにそれは考えすぎかもしれませんがね。いずれにせよ、死体を見るのが初めてだったせいもあるかもしれませんが、僕はしばらくのあいだ、あの人を生きてる人間だと思い込んでいました。
だってそうでしょう? あんなところで裸になって縛られてたら、そりゃ生きてはいないだろうと誰でも思いますよねえ。だから、いくら声をかけても反応がなかったり、ちょっと触っただけで簡単に倒れたりするわけでしょ?
それでようやく「おや?」って思うじゃないですか。そしてさらによく見てみたら……っていう状況ですよ。ところが、それでもまだ半信半疑だったわけですよ。だって、「こんなところに裸の女がいる」って考えるよりも、むしろ「こいつ、本当はもう死んでんじゃねぇのかなぁ」と考えた方がはるかに現実的だと思うんですよ