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「透くん、これ合格祈願の御守り。頑張ってね」


「わざわざ準備してくれたんだ。ありがとう、ばあちゃん」


「あまり根を詰めないようにね。観光に行くぐらいの気楽さで行ったらいいのよ」


「姉ちゃんもありがとう。精一杯やってくるよ」


今日俺は、玖路斗学苑のある都市……『日雷ひがみなり』に向けて出発する。ここに至るまで色んなことがあったせいか、時間が流れるのをあっという間に感じた。


「それにしても……試験まで後10日あるのよね。さすがに早く行き過ぎなんじゃない?」


「うーん……なんか東野さんが当日までにやっておきたいことがあるとかでさ。俺もよく分かんない」


「東野さん、風変わりな方だったけど……まさか透くんの受験する学校の関係者だったなんてねぇ」


「驚いたよね。しかも透の受験を全面的にサポートするって言ってくれたんでしょ。透が川に落ちた時も助けてくれたし、見た目はアレだけど良い人よね」


「うん……いくらお礼を言っても足りないよ」


俺を含めて河合家の東野への好感度は爆上がりしていた。実際とても感謝している。

東野のおかげで一度は諦めかけた試験を受けることができるのだ。彼が便宜を図ってくれなければ、泣き寝入りするしかなかった。


東野は自身の身の上についてはあまり詳しく教えてはくれない。『東野』という名前と学苑に所属している魔道士であること……俺が今知っているのはこれくらい。顔だってやはりずっと隠したままなのだ。


それでもここまでして貰えば鈍い俺でも察しはつく。東野は玖路斗学苑の中でもかなり立場が上の人物だ。何の実績もない俺みたいな子供を無理やり推薦枠に捩じ込むことが出来るのだから。

もしかしたら学苑の運営に直接関わるぐらいのレベルの人なのかもしれない。東野本人が何も言わないので俺の妄想でしかないけど、かなり的を射ているのではないだろうか。


「9時55分か……そろそろ来る頃ね、東野さんが手配してくれたっていうお迎え」


「日雷への送迎に加えて滞在費まで学苑側が工面してくれるなんてねぇ。透くんをひとりで行かせるのは心配だったから、東野さんがついていて下さるのは頼もしいけど……こんなに全部お世話になっていいのかしら」


「俺もそれ言ったけど、推薦人がやって当然のフォローだから気にするなって」


東野は俺の推薦人になった以上、万全の態勢で試験に臨ませると宣言した。試験会場である学苑までの交通費や宿泊費……その他諸々にかかる費用全てをバックアップしてくれるらしい。この東野の至れり尽くせり大盤振る舞いっぷりも、彼が地位の高い人物であると思わせる要因だったりする。


「あっ、透くん。あの車かしら」


午前10時……東野と約束した時間になった。これから彼が準備してくれた車に乗って試験会場に向かうのだ。祖母が指差す方向を見ると、一台の車がうちに向かってやってくるのが確認できた。


「すげー……何これ外車?」


車種とかは分からないが、艶々ピカピカの高級車が店の前に横付けされた。今日が定休日で良かった。こんな車が店にいたらお客さんを驚かせてしまう。


「……お待たせ致しました。河合様」


車の運転席から若い男性が姿を現した。東野の知り合いだからマスクで顔を隠しているのかと思いきや……彼は普通に素顔を晒していた。服装は東野と似た系統で、きっちりとしたビジネススーツ。加えて前髪を後ろに撫で上げたオールバック……いかにも仕事出来るって感じの人だな。


「私、美作みまさかと申します。本日は河合様を安全に日雷にお連れするという任を仰せ付かりました。どうぞよろしくお願い致します」


「えっと……こちらこそ、よろしくお願いします。美作さん」


美作は俺に向かって深く礼をした。こっちがお礼をいう立場なんだけどな……

あまりにも仰々しいお迎えに、祖母と姉は愕然としている。それでもなんとか言葉を捻り出したのは祖母だった。


「孫をよろしくお願いします、美作さん」


「お孫さんは私が責任を持って日雷までお連れしますので安心して下さい」


美作は祖母に向かって笑いかけた。堅苦しい見た目とは裏腹に笑顔は優しい。美作の表情を見て緊張が解れたのだろう。祖母はほっと息を吐いた。


「それじゃあ、ばあちゃんに姉ちゃん。行ってきます!!」


ふたりに挨拶をして、俺は美作と共に車に乗り込んだ。祖母と姉の前だから強がっていたけど、いざ出発するとなると不安な気持ちが押し寄せてくる。玖路斗学苑……どんな所なんだろう。そして、俺は東野の期待に応えることができるのだろうか。










「あの、美作さん。そういえば東野さんは……?」


車に乗っていたのは美作だけだった。てっきり今日も東野が来てくれるものだと思っていたので意外だ。


「しっ……あ、失礼致しました。生憎ご主人様は急な仕事が入ってしまいまして……。それがなければ私と一緒に河合様のお迎えに行く予定だったのですが……」


美作は東野がいない理由を教えてくれた。仕事か……それならしょうがない。てかさ……ご主人様ってなに!? 東野のこと!!?


「大変残念そうになさっておられました。でも、我々が日雷に到着する頃には終わる予定です。それで、少し遅い時分になってしまいますが、河合様と昼食を共にしたいと仰っておられましたので……是非」


「あっ、そう……なんですか。昼飯……喜んで……」


「ありがとうございます。ご主人様は河合様のお好きな物をご馳走すると仰せです。到着までに何を召し上がるか考えておいて下さいませ」


「……はい」


学苑の偉い人じゃないかとは疑ってたけど、なんかこれ……別方向にヤバい感じするんだけど。東野は何者なんだよ。美作の東野に対する態度も畏まり過ぎてて怖い。

もしかして俺は、とんでもない人と関わりを持ってしまったのではないだろうか。

最強無敵の仮契約!?

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