テラーノベル
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ここだ…。
若様の部屋の前まで来る。
番人が、値踏みするような視線で俺を睨んだ。
ただでさえ緊張していた身体がピリッとする。
K「失礼致します」
ス…ッ
襖を開ける。
薄暗く、蝋燭の明かりが静かに揺れる部屋。
月明かりが優しく差し込み、不思議と落ち着くような雰囲気だ。
白い寝間着を身に纏った、 若様の姿を捉える。
こちらへ向いた眼差しに思わず息を呑んだ。
R「あ、きたきた 」
俺の気持ちをよそに、若様はまるで友人が来たような様子で迎える。
K「…何か、ご用でしょうか」
R「あぁ、うん………っ… 」
若様がふいと顔を背けた。
そして、肩を小さく震わせ始める。
K「…っ」
昼間の剣を思い出したのだと、すぐに分かった。顔がみるみる熱くなる。
R「っ…悪い、思い出してしまった」
若様が払うように手を動かし、深呼吸をして体勢を立て直す。
R「昼間は勢いで誘ってしまったが…、用なら、ちゃんとあるぞ」
胸元に手を入れるとあの時の本が出て来た。
R「これ、返しておいてくれ。それで、また何か見繕ってきてくれないか?」
K「若様、それは…」
もし見つかってしまったら、俺はこの城には居られなくなるだろう。そして、若様も何らかの罰を受けることになる。
R「…断れば、謀反になるぞ」
迷っている俺を見て、追い打ちをかけてきた。
そんな言い方、卑怯だ…。
R「行ってこい、早く」
本を、胸に押し付けるように渡される。
K「…はい」
城の夜番に勘付かれないように、顔色を変えないよう書庫へ向かう。
できるだけ刺激のない内容を選んで若様の部屋に戻った。
K「こちらで、よろしいでしょうか…」
R「うん、まぁ、何でもいい」
若様が目を細めながら、本をパラパラとめくった。
その様子を見て年齢相応だな、と心が少し緩む。
R「お前…恋をした事があるか?」
不意に聞かれ、目を瞬かせた。
K「……恋、ですか?」
何と答えるのが正解なのか、そればかり考えてしまってなかなか答えられない。
R「なんだ、その顔…。あるのか、無いのか」
K「あり…、あります」
そう言った瞬間、若様の瞳がきらきらと輝いた。
R「どんな恋だったか、聞かせてくれ」
続きを急かすように、身を乗り出す。
若様の意外な姿に驚きながらも、昔の記憶を辿った。
K「もう、子どもの頃の話です…」
ーー相手は、武家の娘だった。
俺の一方的な一目惚れで…、身分が違いすぎてはなから期待なんてしてなかった。ただ、見かけるだけで嬉しかった。
でも、一度だけ言葉を交わし、遊んだ。そうなると 、会えない時間が急に苦しくなった。
また会いたい。
自分に向けられた笑顔ばかり、何度も思い出してしまう…。
K「そんな時に城へ仕える事になり、その子の事はいつの間にか忘れていました…」
あの時の淡い気持ちを思い出すと、胸が温かくなり、もう過去の事なんだなと自覚する。
R「好きと伝えなかったのか?」
K「え…?」
そんな事、一度も考えた事がなかった。
叶わない恋だと分かっていたから…。
温かかったはずの思い出が、急に遠く霞んだ。
もし、ちゃんと伝えていたら何か変わっていただろうか。
思考が巡って沈黙してしまう。
R「ふーん…秘める恋もあるんだな」
俺の様子を見て、若様は小さく口角を上げた。
R「なんだその顔。今さら惜しくなったか?」
K「…分かりません…」
分からないといって誤魔化したいだけかもしれない。
そう思っていると、
R「で、その娘は美しかったのか?」
若様がさらに前のめりに、聞いてきた。声色が少し弾んでいる。
すごい、興味津々…。
K「容姿は…」
スス…ッ
襖が開く音がして振り向くと、若様の側近ーー爺が立っていた。
爺「若様、まだ起きていたのですか?」
R「あ…うん」
怒られた子どものように、肩を落とす。
爺「早くお休み下さい、明日は遠征です」
爺の視線がこちらに流れる 。
爺「そなたは、若様に近付き過ぎないように」
若様に向けるのとは違う、低い声。
咎めるような視線に背筋が伸びた。
K「失礼しました…、では私はこれで…」
深くお辞儀をして、立ち上がろうとした時、
R「続き、また聞かせてくれ」
場の空気など読まない、明るい声がした。
爺「若様…!」
爺が牽制するように名前を呼ぶ。
R「少しくらい、いいだろう」
若様は、拗ねたように頬を膨らまし、ふいっとそっぽを向いた。
こんな顔もするんだ…。
これ以上長居すると何を言われるか分からない。再び頭を下げ、逃げるように部屋を後にした。
あんなに緊張していた若様との時間は、意外と肩の力を抜いて過ごせるものだった。
それに…、
こんな身の上話、少し楽しそうに聞いてくれた。
それが、思いのほか嬉しかった。
さちこ
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コメント
1件
あー、これめっちゃいい雰囲気…!若様と主人公の距離感がじわじわ縮まってく感じ、胸あったかくなったわ。特に「恋したことある?」からの下り、若様の目がキラキラしてて年相応な可愛さが出てて好き。爺がピシャッて入ってくる緊張感も効いてるし、最後の「続き聞かせてくれ」がまたズルいよね。続き読みてえ〜!