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でも、それでもいいかなって思ってしまって……。
(まずは健二さんとお話させて頂いてからなのです)
お父様やお母様、そしてあちらのご家族へは健二さんとお話が済んでからでも遅くないはず。
私の言葉を黙って聞いていらしたお父様が、「わかった」と言って立ち上がられた。
そうしていつも持ち歩いていらっしゃる手帳を紐解いて、健二さんの連絡先が記された箇所を指し示してくださる。
私はそれを自分のスケジュール帳のアドレス欄にメモしてから、もうひとつ言わねばならないことがあるのを思い出した。
「あの、お父様……。もうひとつお話が……」
それを言おうとしたら、健二さんの連絡先をお聞きした時よりも緊張してしまったのは何故だろう。
「なんだい?」
お父様が穏やかな目で私を見つめてくださって……私はそのことにほんの少し安堵して、思い切って口を開く。
「あの……貯金を少し下ろして携帯電話を契約しても構わないでしょうか?」
今までお友達が手にしているのを見ても、さして必要性を感じなかったそれを、生まれて初めて欲しいと思ってしまった。
私も人並みに、修太郎さんとメールをしたりお話をしたりしてみたい。
修太郎さんは特に何もおっしゃらなかったけれど、歓迎会のあったあの日、私に御自身の連絡先を渡してくださってから、私が携帯を持っていないことを知ると、少し驚いていらした。
そうして「日織さんらしいですね」と微笑まれたのを覚えている。
(私が携帯を持つとお話したら、修太郎さんは驚いたりなさるでしょうか)
修太郎さんの反応を想像したら、何だかワクワクしてしまった。
「日織ももう成人してるんだし、そんなに私たちに気を遣わなくても、したいようにしていいんだよ?」
お父様は私が気を遣っているとおっしゃった。
その言葉は、どこか携帯のことに関してのみに向けられているのではない気がして、私は思わずお父様のお顔をじっと見つめ返してしまう。
「今回みたいに何か言いたいことやしたいことが出来たら、遠慮なく言うんだよ? わかったね?」
お父様はそう言って私の瞳をじっと見つめ返していらっしゃると、付け加えるように
「携帯、番号が決まったら、私と母さんにもちゃんと教えてくれるかい?」
そう、おっしゃった。
私は「もちろんなのです」と即答する。
でも、ごめんなさい、お父様。一番最初に番号をお教えしたいのは修太郎さんなのですっ、と心の中で謝罪して、
(――そのあとはお父様とお母様への報告もきちんといたします)
そう付け加えた。
***
翌日、私は終業後に修太郎さんに、彼が使っていらっしゃる携帯電話のことをお聞きした。
#極道
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どうせ持つのなら、修太郎さんと同じ会社――通信キャリアというみたい?――にしたいと思ったから。
修太郎さんは、ご自身のスマートフォンを私に手渡してくださいながら、「僕のはdoconoのこれです」とおっしゃった。
スマートフォンには保護のためにカバーをつけるものだと勝手に思い込んでいたけれど、修太郎さんのそれは裸のままで。
サラサラとした機種本来の手触りを好もしく思いながら、シンプルなブラックが修太郎さんに似合っているなと、そんなことにすらときめいてしまう。
(私はおっちょこちょいだからカバーをつけないとダメでしょうけれど)
剥き出しなのに、傷のほとんどついていない修太郎さんのスマートフォンを見て、彼の卒のなさを垣間見た気がした。
「ありがとうございます」と機種を修太郎さんにお返しすると、彼はその画面の時計表示にチラリと視線を落とされてから、「ご一緒しましょうか?」とおっしゃった。でも、私はそれには丁寧にお断りを申し上げる。
「ごめんなさい。――今回は……全部自分の力でやってみたいのですっ」
そう言ったら、頭をクシャリと撫でられた。
人目から隠れるように、私と修太郎さんは階下へ降りる皆さんと逆走する形で、最上階の屋上を目指した。
庁舎の屋上は庭園のようになっていて、所々にベンチが置かれている。
「本心を言うとね、日織さんは僕の彼女です、とみんなに見せつけたいくらいです……」
まっすぐ私を見つめて告げられた修太郎さんの言葉に照れてしまった私は、赤くなった顔を隠したくてうつむいた。そんな私の耳元へ、修太郎さんが唇を寄せておっしゃる。
「――そうすれば、悪い虫も寄ってこないでしょう?」
「しゅっ、修太郎さんっ」
さすがにお互い許婚のことが解決していないのに、それは良くないと思う。
吐息を吹きかけられてぶわりと熱を持った左耳を押さえて、思わず一歩後ずさる私を、修太郎さんは楽しげに微笑をたたえて見つめていらした。
私は彼に見つめられただけでドキドキと胸が苦しくなってしまう。
コメント
2件
自分で頑張りたいって大きな成長じゃないかな。
ああああもう!!日織ちゃんが携帯ほしいって決意するところからもう尊すぎて泣いた😭💕 お父様に「したいようにしていい」って言われて「でも最初に教えたいのは修太郎さんなんです!」って心の中で謝るの、可愛すぎかよ…! 屋上で「彼女だと見せつけたい」って言う修太郎さん、甘々で反則級にときめいた〜〜!!✨ 次話も楽しみすぎる!!