テラーノベル
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そのままではいけない気がして、慌てて鞄を持つ自分の手元に彷徨わせるようにして視線を逃がした。
「……わ、私、携帯の契約が終わったら、健二さんに連絡してみるつもりです」
意を決して彼の方を見つめてそう言うと、「契約後一番最初に電話をする相手は僕じゃないんですか?」と渋い顔をされる。
「あ、そ……それはっ、もちろんそのつもりですっ。健二さんへのお電話はその後の話で……」
慌ててそう言ったら、クスクスと笑われた。
「ごめんなさい。分かっていて言いました」
眼鏡のつるを片手で押し上げながらそうおっしゃるのへ、小さな声で「意地悪……」とごちてから、
「修太郎さんの方は大丈夫なんですか?」
今まで聞きたくてもなかなか言えなかったことを思い切って聞いてみる。
「僕の方?」
私の言葉に得心がいかないと言うお顔をなさるのへ、中本さんからお聞きしたお話をする。
「修太郎さんにも、決められた方がいらっしゃるのでは――?」
聞いてはみたものの、はっきりとしたお答えを聞くのは怖くて、思わずうつむく。
そんな私の頭を再度優しく撫でていらっしゃると、修太郎さんが静かな声音でおっしゃった。
「そのことでしたら大丈夫。……日織さんは気にしなくていいことです」
修太郎さんが、お相手の存在を否定なさらなかったことにショックを受けてしまった私は、とても自分勝手だと思う。
自分にも健二さんがいて……もしも修太郎さんが私と同じように思っていてくださるのだとしたら……修太郎さんにとって健二さんの存在は間違いなく心憂いものになっているはずだと思うのに。
(私ばっかり傷ついた気になるなんて、いけないことなのです……)
私は修太郎さんに見えない角度で鞄を握る手にギュッと力を込めると、気持ちを切り替える努力をした。
「――じゃあ私、そろそろ行きますね」
薄く微笑んで修太郎さんを見つめたけれど、うまく笑顔になれていないかも。
でも、幸いなことに私は太陽を背負う形になっていて、修太郎さんは私のほうを眩しそうに目を眇めて見返していらした。
それをいいことに、泣きそうなのを誤魔化すようにくるりと踵を返したら、腕をギュッと捕われて引き留められた。
「しゅう……」
何事かと彼のお名前を呼ぼうとしたら、修太郎さんにグイッと引き寄せられて、口付けられてしまい――。
「……んっ」
誰かに見られてしまうかも……という思いは、彼の舌が私の舌を絡めとるように吸い上げた途端、瞬く間に霧散していた。
紅に染まる夕陽を背に、私は修太郎さんと、周りのことが全て消し飛んでしまうような、うっとりするキスをした――。
***
携帯事情に疎すぎて全く知らなかったのですけれど、スマートフォンには大きく分けてアンドロイドとアイフォンの二種類があるんだとか。
で、どちらにしたらいいのかが全然分からなくて悩んでいたら、doconoのショップ店員さんに「お客様に親しい皆さまは、どんなのをお使いですか?」と問いかけられた。
意識したことはなかったけれど……店頭においてある機種を見てみると多分修太郎さんのは――。
「後ろにりんごのマークがあるのって……」
「アイフォンですね」
そんなわけで、私もアイフォンになった。
「お客様、お若いからきっとすぐに慣れますよ」
そう言われて、一通りの使い方を教えていただいた私は、スケジュール帳から、修太郎さんと両親、そして健二さんと職場の電話番号をショップ店員さんに習いながら登録した。
あとは……電話帳から修太郎さんの連絡先を呼び出して、電話をかけるだけ。
(できるでしょうか?)
考えただけで、自分が小鳥になったみたいに心臓がせかせかと忙しなく鼓動を刻んでいるのを意識させられてしまう。
***
全ての手続きを終えてdoconoショップを後にすると、外はすっかり薄闇に包まれていた。
私は少し迷ってから、通りに面していて割と明るい街区公園に寄り道をした。
街灯そばのベンチに腰掛けると、ドキドキしながらアドレス帳を開いて、修太郎さんのお電話番号を呼び出す。
たどたどしい手つきで通話ボタンを押すと……ちゃんとコール音がして……。
『もしもし……?』
(わわわ、どうしましょう! 通じてしまったのです!)
耳元へ直接聞こえてくるような修太郎さんのお声に、そういえばお電話でお話しするのは初めてだったとドギマギする。
「あ、あの……修太郎さん。ひ、日織です」
電話で相手に自分の名前を名乗るだけのことが、こんなに照れ臭いなんて思わなかった。
あまりに緊張しすぎて、スマートフォンを握る手が冷たくなってしまう。
コメント
2件
通じてしまったのです、に笑ったよ、ひおりちゃん(笑)
読んだよ〜!このエピソード、日織ちゃんの初スマホデビューと修太郎さんへの電話チャレンジ、めっちゃドキドキしたわ。夕陽を背にしたキスのシーン、情景が浮かぶみたいで綺麗だったし、電話越しの声に緊張しまくる日織ちゃんの純真さが尊すぎる。修太郎さんが「意地悪」って笑うのも、ああいう距離感がたまらんね。次、無事に話せるのか気になる!応援したくなる30話だった🔥
#極道
鷹槻れん

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