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あの日、教室には、鉄の匂いと、誰かの叫び声が充満していた。
鈴太の指は震えていた。握った包丁の刃先には、赤黒く変色した血がこびりついている。刃の根元には、肉片。薄い皮膚を無理やり裂いた名残が残っていた。
目の前には、りなの体。
喉をざっくり裂かれ、声すら出せないまま床に崩れている。血はまだじくじくと流れ、白い制服を黒に染め上げていく。彼女の目は、鈴太を見ていた。睨んでいるのでも、怯えているのでもない。ただ、虚ろだった。
「なんで……おまえが……」
その言葉を最後に、りなの唇は閉じられた。頬を一筋の涙が滑り落ちる。
「これで、終わりだよ」
鈴太は囁いたが、自分の声すら遠く感じた。
「人間は、最終的に殺し合うんだよ」
最初にそう言ったのは、ちさとだった。彼女の目には、異常な光があった。
この廃校で始まった『ゲーム』は、最初はただの悪ふざけだった。だが、それはすぐに地獄へと変わった。
ルールはただ一つ。「最後まで生き残れ」
血の夜、裂けた口
その晩、みえはるなと揉み合いになった。
るなが最初に仕掛けた。金属バットを手に、無言でみえの背中を殴りつけた。鈍い音。骨が砕ける音。みえの体は宙に浮き、壁に叩きつけられた。歯が一本、床に転がった。
「やめ……やめてよぉッ!」
みえの叫びは、夜の廃校に反響する。しかし、るなの顔は笑っていた。
「弱いね、やっぱり」
そして、彼女は次の一撃を放った。今度は顔。頬の皮膚が裂け、左目の下から口元まで赤い線が走る。血が吹き出し、みえの体が痙攣する。
ーーー
「……やめろ」
血塗れの廊下を走ってきた鈴太が叫んだ。だがその時、彼の手もまた、既に血まみれだった。誰のものか分からない血が、指の間に入り込み、ぬるりとした感触だけが残っている。
「鈴太……あんたもやるの? 誰かを殺した?」
みえがかすれた声で訊いた。彼女の顔は原形をとどめていない。腫れ、裂け、涙と血でぐしゃぐしゃだ。
鈴太は口を開こうとしたが、声が出なかった。代わりに、吐き気が込み上げた。
その瞬間、背後から誰かが襲いかかった。
ちさとだった。彼女の手にはナイフ。光すら反射しないほど黒く、鋭い。
「お兄ちゃん……ごめんね」
そう囁いたかと思えば、鈴太の左肩にナイフが深く突き刺された。
肉が裂ける音が、耳の奥で響いた。熱い。燃えるような痛み。鈴太は叫び、よろめいた。肩から腕へ、血が溢れ、指先まで麻痺したような感覚。
だが、次の瞬間、彼は反射的にちさとの喉を殴った。
骨が砕ける音。ちさとは痙攣し、口から泡を吹いて倒れた。
終わりのはじまり
その日、最終的に生き残ったのは、鈴太とるなだけだった。
どちらも全身血まみれだった。るなの手には、ナイフ。鈴太の手には、鉄パイプ。
「じゃあ、どうする? 殺す?」
るなが笑った。目は虚ろで、瞳孔が開いていた。
鈴太は何も言わなかった。ただ一歩、彼女に近づいた。
「私を殺して、鈴太。じゃないと、終われないよ」
その言葉に、鈴太の手が震えた。息が荒く、胸が焼けるように痛い。
「お願い、終わらせて……こんなの、地獄だよ……」
鈴太はゆっくりと、パイプを振り上げた。
翌朝、廃校の中央には、二人の遺体が転がっていた。
鈴太の喉には、自ら突き刺したガラス片。るなの顔は潰れ、判別不能だった。
そして、その中央には、子供のような筆跡で書かれた紙が置かれていた。
「これが僕達の鬱物語。読んでくれてありがとう。」