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ー僕の鬱物語ー


あの日、教室には、鉄の匂いと、誰かの叫び声が充満していた。


鈴太の指は震えていた。握った包丁の刃先には、赤黒く変色した血がこびりついている。刃の根元には、肉片。薄い皮膚を無理やり裂いた名残が残っていた。


目の前には、りなの体。


喉をざっくり裂かれ、声すら出せないまま床に崩れている。血はまだじくじくと流れ、白い制服を黒に染め上げていく。彼女の目は、鈴太を見ていた。睨んでいるのでも、怯えているのでもない。ただ、虚ろだった。


「なんで……おまえが……」


その言葉を最後に、りなの唇は閉じられた。頬を一筋の涙が滑り落ちる。


「これで、終わりだよ」


鈴太は囁いたが、自分の声すら遠く感じた。





1週間前


「人間は、最終的に殺し合うんだよ」


最初にそう言ったのは、ちさとだった。彼女の目には、異常な光があった。


この廃校で始まった『ゲーム』は、最初はただの悪ふざけだった。だが、それはすぐに地獄へと変わった。


ルールはただ一つ。「最後まで生き残れ」





血の夜、裂けた口


その晩、みえはるなと揉み合いになった。


るなが最初に仕掛けた。金属バットを手に、無言でみえの背中を殴りつけた。鈍い音。骨が砕ける音。みえの体は宙に浮き、壁に叩きつけられた。歯が一本、床に転がった。


「やめ……やめてよぉッ!」


みえの叫びは、夜の廃校に反響する。しかし、るなの顔は笑っていた。


「弱いね、やっぱり」


そして、彼女は次の一撃を放った。今度は顔。頬の皮膚が裂け、左目の下から口元まで赤い線が走る。血が吹き出し、みえの体が痙攣する。

ーーー


鈴太の決断

「……やめろ」


血塗れの廊下を走ってきた鈴太が叫んだ。だがその時、彼の手もまた、既に血まみれだった。誰のものか分からない血が、指の間に入り込み、ぬるりとした感触だけが残っている。


「鈴太……あんたもやるの? 誰かを殺した?」


みえがかすれた声で訊いた。彼女の顔は原形をとどめていない。腫れ、裂け、涙と血でぐしゃぐしゃだ。


鈴太は口を開こうとしたが、声が出なかった。代わりに、吐き気が込み上げた。


その瞬間、背後から誰かが襲いかかった。





破壊と崩壊


ちさとだった。彼女の手にはナイフ。光すら反射しないほど黒く、鋭い。


「お兄ちゃん……ごめんね」


そう囁いたかと思えば、鈴太の左肩にナイフが深く突き刺された。


肉が裂ける音が、耳の奥で響いた。熱い。燃えるような痛み。鈴太は叫び、よろめいた。肩から腕へ、血が溢れ、指先まで麻痺したような感覚。


だが、次の瞬間、彼は反射的にちさとの喉を殴った。


骨が砕ける音。ちさとは痙攣し、口から泡を吹いて倒れた。





終わりのはじまり


その日、最終的に生き残ったのは、鈴太とるなだけだった。


どちらも全身血まみれだった。るなの手には、ナイフ。鈴太の手には、鉄パイプ。


「じゃあ、どうする? 殺す?」


るなが笑った。目は虚ろで、瞳孔が開いていた。


鈴太は何も言わなかった。ただ一歩、彼女に近づいた。


「私を殺して、鈴太。じゃないと、終われないよ」


その言葉に、鈴太の手が震えた。息が荒く、胸が焼けるように痛い。


「お願い、終わらせて……こんなの、地獄だよ……」


鈴太はゆっくりと、パイプを振り上げた。





エピローグ


翌朝、廃校の中央には、二人の遺体が転がっていた。


鈴太の喉には、自ら突き刺したガラス片。るなの顔は潰れ、判別不能だった。


そして、その中央には、子供のような筆跡で書かれた紙が置かれていた。


「これが僕達の鬱物語。読んでくれてありがとう。」







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