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夏目莉央
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くま🐻☁️
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私は心から湧き上がってくる幸せに、自然と頬が緩んでいた。
そんな私の顔を見た朝倉くんも、ようやく安心したように表情を和らげる。
「いつもの瞳子さんに戻りましたね。やはりプリンが正解でした。では、出勤前に一緒に食べましょう」
朝倉くんがテーブルの上のプリンを指差して誘ってくる。
けれど私は、それとは関係のない行動を取った。
ゆっくりと手を伸ばし、彼の頬に触れる。
指先でその柔らかな肌を確かめるように、そっと手を這わせた。
「もう、スイーツに頼らなくても、とっくにあなたで満たされている」
口にした途端、自分でも驚くほど素直な言葉が出てきた。
胸の奥で抑えていた欲求が、目を醒ましていくのを感じる。
それを感じ取ったのか、朝倉くんが目を丸くした。
「え? あ、あの……食べないんですか?」
滅多に見ることのできない、彼の驚いた顔。
私はそんな表情も大好きだった。
そうよね。
こんなふうに私からあなたに触れることなんて、今まで一度もなかったもの。
いつも距離を縮めてくるのは朝倉くんのほうだった。
だから今度は、私から伝えたい。
「欲しいよ。そのスイーツも。そして、あなたのことも」
頬に置いていた手を下へ滑らせ、彼の胸元に両手を当てる。
そのまま押すと、朝倉くんの身体がソファへ預けられた。
私は躊躇することなく彼に近づき、シャツのボタンを一つずつ外し始める。
さすがの朝倉くんも、戸惑いを隠せない。
「瞳子さんっ、どうしちゃったんですか? こんなこと……ッ」
朝倉くんが焦って身体を揺らす。
昨夜はあんなに意地悪く私を責めてきたくせに、いざ自分が責められる側になると弱気になるらしい。
ボタンを外そうとする私の手を、朝倉くんの熱い手が止めようとする。
そんな反応も可愛いと思った。
でも、それは『子供』だからではなく──
私は邪魔をする朝倉くんの手首を掴み、彼の顔の横へ強く押さえ込んだ。
突然、組み敷かれた彼の顔に、戸惑いとは違う表情が浮かんでいく。
「と、瞳子さん……⁈」
「── あなたは私の『夫』なの」
「は……はい?」
訳が分からないという顔で、朝倉くんが私を見上げる。
私は構わず、そのまま言葉を投げかけた。
「私はすでに、あなたのトリコなの!」
「ぼ、僕のトリコ?」
彼の顔がみるみる上気していく。
そしてようやく、この体勢から私が何をしようとしているのか理解したらしい。
「私も、あなたが欲しくてたまらないの」
私が真上から彼の唇へ近づくと、朝倉くんが唇を固くして、ささやかな抵抗を見せた。
「で、でも、もう……出勤ですよっ⁈」
そうだった。
もう出勤時刻が迫っている。
このままでは仕事に間に合わないことくらい、私だって分かっている。
それでも、どうしても自分の欲求を止めることができなかった。
なぜって、それは──
「愛してるの」
私がそう告げると、朝倉くんの動きが止まった。
彼の、唇の、全身の力がふわっと抜けたのがわかった。
「……瞳子さん……ようやく聞けました」
じわっと、彼の瞳が濡れていく。
「うん……気づくの遅くてごめんね」
私が謝ると、彼は精一杯に頭を振った。
「僕はずっと、ずっと前から、瞳子さんだけを愛してました! だから、嬉しくて……」
溢れそうになる感情を堪えるように、彼の目が細められる。
私は、そっと彼の胸に手を置いた。
今まで、こんなふうに自分の気持ちを素直に伝えることができなかった。
彼の愛情を疑って、勝手に傷ついて、彼まで傷つけた。
けれど、本当はもっと簡単なことだったのかもしれない。
好きなら、好きだと言えばいい。
欲しいなら、欲しいと言えばいい。
「ずっと朝倉くんが欲しくてたまらなかった。だから、したい」
私が正直に告げると、朝倉くんは目を見開いた。
積極的な私の言動が、よほど意外だったのだろう。
「ぼ、僕もです!」
彼の瞳にも、熱が宿っていく。
「あのっ、瞳子さん……こういう有休の取り方って……ありなんでしょうか?」
そんなことを訊ねながらも、彼も私の気持ちを受け止めてくれる。
「有休はリフレッシュのための休暇。だから『あり』よ!」
私はそう教えると、自分の上着を脱いだ。
朝倉くんも私を抱き寄せる。
「瞳子さんが上。こ、この体勢は初めての試みですっ。でも今、これが一番したいです!」
その言葉に、私は思わず笑ってしまった。
「うん。朝倉くんがしたいこと、しよう」
そう言って、私は彼の気持ちを受け止めた。
その時間、私たちは互いの温もりを確かめるように、何度も抱きしめ合った。
心も身体も、少しずつ重なっていく。
身も心も、お互いのトリコになった瞬間だった。
ああ。私に女性としての喜びを与えてくれたのは、朝倉くんが初めてだ。
彼のことが好きで、好きでたまらない。
だから、こんな日があってもいいと思える。
今まで仕事と李人のことばかりを優先して、自分のために時間を使うことなんてほとんどなかった。
けれど今日は違う。
好きな人と一緒にいたい。
その気持ちを、もう我慢しなくていい。
牧野瞳子、二十九歳。
本日、初めて好きな人のために有休を使いました。