テラーノベル
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if世界線 死ネタ
「っ…はぁ、はぁ……」
全てが逆だった。追うのも、追われるのも。
「おいおい若い兄ちゃんよぉ、最初はあれだけ威勢が良かったくせに、今は逃げるって、弱っちいなぁ」
既に腕が抉られて、大量の血が流れている。そのせいで血が足りていないのか、視界が少しぼやける。
一瞬の判断ミス…いや、一瞬の恐怖心だった。一発、たった一発撃てば出来たことなのに。手が震えて引き金が引けなかった。
「どこに隠れてるんだよぉ、なぁ、おぉ〜い」
自分を呼ぶ声。そして、手元にあるのは残り一発の銃とベルトに刺した一本のナイフ。勝ち目はよく見積もっても二割…といったところだろうか。二度はない、今物陰から出れば殺すか殺されるかだ。それに、相手は快楽殺人犯。殺しに慣れている。少しでも判断を誤れば死ぬ。
「あ、そこかぁ、見つけたぜぇ」
居場所がバレた。今しか、ない。
「っ…!」
痛む腕を力なく垂らしながら僕は相手の脳天目掛けて弾丸を放つ。貧血で照準がブレた。当たるかどうか、もう分からない。
「ブレブレだなぁ、それじゃ殺せないぜぇ?」
当たり前かのように、弾丸は相手を掠めることさえなかった。まずい、まずい、頼みの綱さえも呆気なくちぎれてしまった。
「ははっ、ボロボロだなぁ、俺はお前みたいなやつを嬲り殺すのが好きなんだァ」
ジリジリと後ずさる。ベルトに刺したナイフを取り出し、せめてもの護身として相手に向ける。
「…っ来るな…」
手が震えているのが分かる。どうしてだ、どうしてこうなってしまった。
「いただくぜェ!!」
釘の付いた鉄バットを振りかぶり、男が一直線に駆けてくる。 ――ああ、死ぬ。
「アナ——」
視界が、暗転した。
__________
駆けつけた時には、もうぜんぶ遅かった。目の前にあるのは、血塗れになって、横たわるアイツの姿。標的も居ない。ここにいるのは、私だけ。
「カト…ラー……?」
駆け寄って、座り込んで、肩を揺する。動かない。
「ねぇ、起きて……起きなさいよ…こんな、ところで………ねえ…?どうして…?」
頭が理解を拒んでいる。理解したくない、分かりたくない。
「なん、で……なんでよ……やくそく、したのに…なんで……なんで……」
頬に、温かいものが伝う。涙だ、泣いているんだ。
「いっしょに、しぬって、いっしょだって、いったのに…っ!ひとり、で、いかないでよ…っ!」
目の前にあるそれを抱きしめる。もう既に冷たくて、余計に理解させようとしてくる。
「ごめん、なさい……わたし、が……おそかった、からぁ…」
涙が止まらない。自分のせいだ。もっと早く来ていれば。キツく、キツく抱きしめる。今思えば、好きだったんだ。アイツのことが、カトラーのことが。
「いっしょに、いたかったのに…っ!」
私は、ずっとずっとひとりで泣き続けた。
少し経てば、涙は自然と止まり、自分の心には悲しみではなくて、犯人に対する怒りが渦巻いていた。
「……あいつが……あいつが、あいつが……」
まだ、近くにいる。足音でわかる。彼の遺体を囮にして、私を誘き出す……それが犯人の作戦。私は、彼の遺体を優しく離して横たわらせる。
「また、来るから」
もう聞こえないというのに、そんなことを呟いて立ち上がった。手に持つのは…いや、手にはめたのはスタッズグローブ。手加減なんてしてあげない。彼を痛めつけて殺したように、私もあの犯人を痛めつけて殺してやる。
足音が止まった。真後ろに、居る。
「今度は女…まだ生きてたんだなァ?」
後ろに振り向けば、血塗れになった釘バットを持った男。
「なかなかいい悲鳴だったぜェ?さっきのヤツ」
何かが切れたような気がした。気づけば、私はその手にはめたグローブで男に殴り掛かっていた。
「チッ、やりやがったなクソアマ!」
鼻血を垂らしながら立ち上がる。バットを振りかざし、殴ろうとしてくるが、私はそれを片手で掴んだ。
「こいつッ?!」
釘付きのせいで、少し手に血が滲むが、今はそんなことどうでもよかった。
「…黙れ」
自分でも驚くほど、冷たい声だった。
「お前が、アイツを語るな」
バットを握る手に力が入り、ミシリと鉄が軋んだ。そしてそのままバットを奪い取る。それを投げ捨てて、グローブで殴る。殴る。殴り続ける。
「や、やめてくれ…っ!!俺が、悪かっ——」
最後は倒れ込んだところを、ヒールで踏みつける。グリグリと強く踏めば、ヒールは服や皮膚を突き破り、肉に刺さる。
「…返せ」
一発、また殴る。
「返せ」
また、一発。
「返してよ。全部返して」
骨が砕ける音も、男の悲鳴も、もう私には聞こえない。
「全部返して。返して、返して」
どれだけ殴っても、どれだけ痛めつけても、何も戻らない。何も返ってこない。アイツは帰ってこない。私の手だけが血で紅く染まっていく。その事実だけが、酷く、酷く残り続ける。
月はあんなにも綺麗だったはずなのに、今の私にはもう、綺麗には見えなかった。ただ、悪夢のようにしか見えなかった。
コメント
1件
うわっ……これ、本編のifというかパラレルなんですね。重い……すごく重いけど、惹き込まれました。 まず「追う側と追われる側が逆転している」っていう設定の時点でゾッとしたんですが、カトラーくんが恐怖で引き金を引けなかった瞬間の描写が生々しくて。ああ、彼も人間なんだなって……そしてその選択が死を招いた。 そしてアナ。発見したときの「ひとりでいかないでよ」が胸に刺さりました。約束を反故にされた喪失と怒り、復讐に変わる流れ、すべての動きが自然で。「返して。全部返して」って、もう何も返ってこないのに繰り返すその空しさ……痛いほど伝わってきました。 最後の「月が悪夢にしか見えない」という一文で、全てが腑に落ちました。美しかったものが歪んで見えるほど心が壊れてしまった、その描き方が本当に巧みで……。素晴らしかったです。ありがとうございます。
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紅葉@物語作成中
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#能力
めんだこ
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