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王宮の夜は静かで、まるで時間そのものが止まったようだった。書斎に差し込む月明かりの中、ハイネは机に向かっていたが、不意に背後から気配を感じて振り向く。
そこには、ヴィクトール国王がいた。
「……こんな時間にどうされましたか、陛下」
「お前がまだ灯りを消さぬからだ、ハイネ」
ヴィクトールはそう言いながら、静かに歩み寄る。
彼の目はどこか憂いを帯び、ふと机の上の書類に目をやったあと、再びハイネを見つめた。
「お前が隣にいると、私は…つい、余計なことまで考えてしまう。国王としてあるまじきことだと、分かっているが」
ハイネは少し目を伏せたあと、ゆっくりと立ち上がった。
言葉では拒まず、ただその瞳に揺れる葛藤だけを見せる。
ヴィクトールはその沈黙を受け止めるように、そっと手を伸ばし――
触れるか触れないかの距離で、ハイネの頬に指先を添えた。
「一度だけだ。それで忘れる…だから、許してくれ」
そして唇が、そっと触れた。
それはまるで、長い夢のなかでやっと辿り着いた真実のように、静かで、そして確かだった。