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広い庭園をそぞろ歩くうちに、日がやがて傾いてきた。
「暗くならないうちに帰ろうか」
彼に頷いて、連れ立って邸内へ戻る。
部屋でまた、本を一緒に見るはずだったのだけれど、途中からページをめくる彼の手が遅くなりやがて止まってしまい、ふとその横顔に目をやると、うとうとと眠ってしまっているらしかった。
「やっぱりよっぽど疲れていて……」
そっとソファーを立って、持って来たブランケットを掛けると、ちょこっと彼の頬を指先でつついてみた。
「こんなにも無防備で、眠っちゃてて……」
さっきの初めての”あーん”の話じゃないけど、こういうまどろむ姿も私だけに見せてくれる特別なのかな……なんて思うと、小さくふふっと笑みがこぼれた。
「貴仁さん、ゆっくり休んでいてくださいね」
声をひそめて囁きかけ、彼の掛けていたメガネをそーっと顔から外しテーブルに置くと、ふとした思いつきがあって、私は源治さんの元を訪ねた。
「──あの、少しお願いがあって」
源治さんを見つけて声をかけると、「どうかされましたか?」と、気づかうように訊き返された。
「さっき貴仁さんに聞いたんですが、源治さんは美味しいカモミールティーを淹れられるって。それでぜひ淹れ方を教えてもらえたらと」
「ああ、そういうことでしたら、お任せください」笑顔で頷いた源治さんが、「ところで坊ちゃまは、どうされていて?」心配そうに首を傾げた。
「……眠っちゃったんです。とてもお疲れみたいだから、それでハーブティーを淹れてあげられたらって」
「そうでしたか、それではとびきり美味しいのを伝授させていただきますね」
「はい! それともし良ければ、もう一つお願いしたいことがあるんですけど……、」
源治さんへ、秘密でそう頼んでみると、「承知しました」と二つ返事で請け負ってくれた。