さて、私のつまらない昔話は終わりとしましょう
ここからは、”僕”からサーニャへ伝えたいことを残します。
僕の過去は、大抵の人が聞けば「不幸」と思うでしょう。
でも、サーニャは、そうは思わないでしょう。
サーニャ、僕と初めて会った日のことを覚えていますか?
サーニャを初めて見た時、僕は天使かと思いました。人間離れした美しさと羽を持ち、教会に舞い降りた君は、僕に名を聞いた。
僕の名前を聞くと皆「叶える」や「叶う」などの良い意味を思い浮かべ由来を聞きます。
そして、僕が答えると皆申し訳なさそうな顔をして謝るのです。
皆悪気はないのです。
しかし、サーニャは何ともないような顔をして「いい名だな」と言いました。
今まで僕の名を聞いて、「いい名」なんて言ったのはサーニャだけでした。
あの時、僕はずっと縛られていた呪いが解けたような感覚になりました。
サーニャが、僕にまとわりついていた呪いを解いて僕を解放してくれたんだよ。
そこから、僕とサーニャはチェスと紅茶を飲む回数を積んでいきました。
僕は、久しぶりに声を出して笑い、人種は違えど年齢の差も違えど、生きる世界さえも違えど、ただの友達として話すことができました。
サーニャと話すのは楽しかった。
君は、吸血鬼で魔族であるのにも関わらず、誰よりも純粋で真っ直ぐで少しぶっきらぼうなところもあったけれど、心優しい吸血鬼だった。
そんな君は、僕にとって初めての親友だったんですよ。
こんなふうに僕も誰かと笑ってチェスをできる日が来るとは考えていませんでした。
サーニャと出会えてよかった。本当によかった。
そして、そんな親友であるサーニャへ僕からの最後の願いをきいてほしい。
これは、僕のわがままだと思ってもいい。
サーニャは、今きっと巫との戦いでかなりの体力を消耗しているでしょう。もしくは、身体のどこかに怪我を負わされていると思います。
今の僕は、サーニャが回復が間に合っているかもわからない。
だから、僕の血を飲んで少しでも回復をしてほしいんです。
実はサーニャと初めて出会った時から、吸血鬼について何度か本で調べました。
僕の調べた情報によると吸血鬼は、血が足りないと回復が遅れたり、貧血になり、攻撃も出せないと。
以前、その事をサーニャに聞くと「俺は血をあまり飲まなくても生きていけるんだよ」と言っていましたが、流石のサーニャも戦いで体力を消耗し、血がほしくなるはずです。
僕は、少しでも回復をしてサーニャに生きてほしい。
こんなこと言ったら、サーニャを縛ることにもなるかもしれないし、重しになるかもしれませんが、僕の分までサーニャに生きてほしいんです。
サーニャには、言っていませんでしたが、僕は元々心臓があまり強くなく長時間動けないんです
どっちみち、早死にする運命でした。
だから、僕のことは気にせずにサーニャらしく前を向いて生きてください。
そして、何十年、何百年、何千年後に僕がもう一度この世に生まれ変わったとしたら、絶対に見つけ出して、また、親友としてでも、どんな関係であってもいいので、隣にいてください。
サーニャが隣にいてくれれば、それだけで僕は十分幸せになれるのです。
前世の僕の話をするのもしないのも、どう接するのかもすべてサーニャにまかせます。
僕よりもサーニャの方が経験を積んでいることでしょうし、頭のキレる君は上手く対応すると思います。
未来の僕を頼みましたよ。
そして、今までありがとうございました。
サーニャのおかげで最高な今世を過ごせたと思います。
サーニャにとっては、一瞬でも僕にとっては一生の思い出でした。
最後までわがままばかりを押し付けてしまってすみません。
でも、そのくらいサーニャとまだ話したいし、チェスをしたいです。
あと、最後に一つだけ。
___僕のこと忘れないでくださいね
追記:百合の花が咲く頃になりました。
僕が死んだ後ロトは、自由にさせてください。外に行きたそうでしたら、外に。教会で暮らしたそうでしたら、僕の部屋に。
面倒事を嫌うでしょうから、嫌かもしれませんがこれだけはよろしくお願いしますね。
叶より
꒰ঌ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈໒꒱
静かに手紙を戻し、机の上に置かれた花瓶に入れてある花を手に取る。
花瓶には、昨日入れ替えたばかりであろう水が半分程入っていた。
「みゃーん」
黒猫が窓の縁に飛び乗り黄色い目をキラリと光らせた。
「生き残ったのか」
「にゃ」
「それはそうか」
「にゃー」
「叶は、相当お気に入りだったようだな」
鼻で笑うようなノイズがした。
「ソレハキミもダロう」
黒猫はそれ以上なにも言わなかった。
「じゃあな、時渡りの猫又。またの名は、
__ラグエル 」
「みゃーん」
黒猫は一声鳴いて、忽然と姿を消した。
窓の外を見る。
「もう朝か」
部屋に新しい光が差し込み神父の手に握られたネックレスに反射する。
差し込んだ光は、包み込むように柔らかく神父の体を照らしていた。
吸血鬼は、繊細なガラス細工に触れるように神父の頬を触り、儚いものを見るように目線を向けた。
吸血鬼の胸元には、似合わない十字のネックレスが下げられていた。
永遠の眠りについた神父の手には、純白の百合の花が握られていた。
「そろそろ、戻るとするか」
徐々に人が動く音が増えていく。
きっと時期に叶も見つけられる。
百合の花畑に移動をした。今姿を見られても帰るため困ることはないだろう。
堂々と花畑の真ん中に立ち、叶の姿を思い出しながら、真似て花に水をかけた。
光に照らされ、輝く百合の花を一輪摘んだ。
「じゃあな、叶」
魔界の門を開き、森に住み着いた魔物を全て魔力で吸い寄せ門の中に入れ、俺とともに魔界へ入り扉を開かぬよう、固く閉めた。
これが俺と叶の初めての出会いと別れだ。
この後、監視役兼情報通達係のりりむによると、俺が魔界に帰ったあと、朝になり、叶の行方がわからなくなったことで教会は、混乱。
その中で、叶を捜していた孤児の一人が叶の部屋に入り、亡きものとなった叶を発見。
天使の羽のように白い百合の花に囲まれ、穏やかな顔の叶をシスターや孤児、叶を慕っていた村人達が泣きながら、葬儀を行ったらしい。
そして、叶が、、いや、叶だったものが、焼かれる直前。
「シスター!しんぷさまの首に傷があるよ」
まだ人が死んだということも理解出来てないであろう無知で幼い、ある孤児が指をさして言った。
「なにかしら、これは、、噛み跡?」
シスターが目線を送ると
神父の首元には、小さな噛み跡のような直線上に並んだふたつの小さな穴の跡が残っていた。
「ねぇ、サーニャにゃん」
りりむが、報告書を眺めながら俺に話しかけた
「その名前で呼ぶのやめろ」
上機嫌に赤い羽を羽ばたかせている。
当たり前のようにここにいるりりむは、今回の巫事件の報告書をまとめているところに、事件後の観察書を届けに来た。
「えー!だって、その方がかわいいじゃん!!」
「へいへい」
相変わらず、わがままお姫様気質のりりむを適当に交わしながら、書類を進める。
「あ、そうだ!ねー、葛葉」
「んあ」
前のソファにちょこんとりりむが腰をかける。
「この、噛み跡って葛葉でしょ」
ニヤニヤしながら、報告書の写真を指さし俺の方をみる。
「んなわけねぇだろ、誰が飲むか」
「絶対葛葉じゃん!嘘つき〜」
「うるせぇぞ、がきー」
「あー!いいんだ、ぱぱに言っちゃっうよ?」
「いやー、ほんと、りりむ姫はお心が寛大でお優しい」
「そうでしょ〜」
そう言って、満足そうにあははと笑い「あ!りりむ、ロアちゃんと遊ぶんだった!!じゃあね、葛葉!!お仕事がんばってね!!」と慌ただしく観察書を置いて俺の部屋を出ていった。
「はぁー、報告書だりぃー」
積み上がった書類を横目で眺め、あいつの調査書と観察書を手に取り目を通す。
とにかく、見にくい観察書だがないよりはマシ。
さて、夢の中のような時間も終わった。
再び、魔界の世界で現実と向き合い生きなければならない。
あいつの手紙に書いてあったことの、大体は知っていた。
人間なんてせいぜい100年生きられれば良い方の下等生物で、脆く弱い。
あいつが、病にかかっており、死が近づいていることもわかっていた。
心臓の音が動きが、段々と弱まっていることも気づいていた。
その度、寿命の違い、種族の違い、生きる世界の違いを思い知らされた。
「こいつは、ただの人間で、俺は吸血鬼。」
「こいつは、ただの被食者で、俺は捕食者。」
最初は、ただの保存用食料として使おうと思っていたのだが、いつの間にか情が湧き、友人、いや、親友、、になっていたのかもしれない。
人間とは、恐ろしいものだ。
魔物である吸血鬼に、情を湧かせる。
まぁ、何はともあれ問題は解決。
あとは、あの黒猫、か。
ーーー
作者 黒猫🐈⬛
「哀情」
百合の花
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※この物語は、本人様と関係ありません
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ー続くー
コメント
7件
毎回号泣させられます ほんとにこれを読めてて幸せです 続き楽しみです
初コメ失礼します めちゃくちゃ良かったです!!!!! もう号泣でしたッ 神です
ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!良い!!! 今回も神作です…!ほんとにもう…黒猫様、神すぎるんやぁぁ!!