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泣いてしまいます
あれから、、あの日から、約150年が経った。
長いようで短い時間だった。
あれから、何度か転生したあいつに出会った。
新しくあいつがこの世に命を落とした時には、必ず黒猫の鳴き声が聞こえた。
まるで、あいつを餌に俺を呼び寄せるような感覚だった。
俺はまんまとその餌に食らいついた。
あいつは、生まれる度に俺と出会い友となった。
「初めまして、僕は叶。君の名前は?」
毎度同じ挨拶を交わした。
俺にとっては、聞き飽きた何度目かの挨拶でも叶にとっては初めての挨拶だった。
俺はその挨拶をする度に、胸が強く縛り付けられるような気持ちになった。
叶は、転生するごとに容姿や性格が変わった。
俺よりも背丈が高かったり低かったり、病弱であったり、気が強かったり。
しかし、落ち着いた声と優しいことだけは変わらなかった。
誰よりも優しい奴。
ガラス玉のような儚い瞳の中で俺を映し出していた。
「葛葉、君は一体何者なの」
叶は俺の正体に気づくことも、気づかないことも、知ろうともしないこともあった。
「何者でもいいだろ、俺は俺だ」
叶は、俺が何者であっても、腹の内がわからない奴であっても決して突き放したりなどしなかった
俺は時折その優しさに甘えた。
「そうだね、葛葉は葛葉だ。」
出会えば必ず別れがきた。
何度も何度も目に焼き付く程見てきた。
俺が何をしようと叶は、毎回俺の前から姿を消してしまう。
身体が弱く早死してしまったり、他国との戦争で命を落としたり、長くまで生き寿命を迎えたりと消えていく理由はさまざまだった。
結局、俺は叶を永遠に生かすことも助けることもできないただの吸血鬼だった。
そう、ただの無力な吸血鬼だった。
叶は、毎度絶対に俺の目の前で消えていった。
俺は、そんな弱っていく叶を見届けることになる。
そして、その度黒猫と再会した。
叶が消えたあと、俺を見て一鳴きし、姿を現した。
「また、お前か。」
黒猫は、何もかもわかっているような顔をしていた。
黄色い目が光っていた。
俺は、今にも黒猫をできるだけ残酷に殺したい気分だった。
でも、それはできなかった。
あいつが俺よりも遥かに強者だった。
「いつまでこれを繰り返すんだ」
棺の中で安らかな顔をした叶を眺めながら、後ろでただ何も言わずに座って俺見つめる黒猫にそう問いた。
黒猫は、そっぽを向いた。
俺は、ただ叶を見つめていた。
また、いつ生まれ変わるのかもわからない叶を。
最初の頃は、とてつもなく苦しい酷い気分だったがいつか慣れる日が来ると思っていた。
しかし、いつまで経っても叶の死に慣れることはなかった。
他の人間が死んでもなんとも思わない。
だが、叶は例外だった。
あいつは、俺の中で特別な存在になっていた。
「ラグーザ殿」
何度目かのある日、ついに黒猫が口を開いた。
叶は、俺の腕の中で冷たくなり横たわっていた。
最後の時間が終わった直後に黒猫が現れた。
いつものような、鳴き声を発しずにそこにいた。
「そろそろ、その人間を諦めようとは思わないのですか」
俺は、叶の肩を抱きながら黒猫の方に振り返った。
黒猫は、いつものように行儀よく座っていた。
「薄々気づいていたはずです」
子供を宥めるような落ち着いた声の黒猫は、俺よりも遥かに経験を積んでいて、貫禄のある話し方をした。
俺は、何を言われようと叶を手放したくなかった。
「彼は、元天使。言うなれば、堕天使にあたる者です。」
叶の体は、硬直し始めていた。
俺は、叶の体を丁寧に抱き抱えて立ち上がった。
「あぁ、失礼、挨拶がまだでしたね。私は、彼の監視役である者です。」
叶をなるべく綺麗な状態のまま戻せるように、教会に向かって歩く。
その後を黒猫が話しながら追ってくる。
「そうか。俺は、アレクサンドル・ラグーザだ。」
黒猫は、俺の横につくと顔を上に向け俺の視界に入ろうとする。
「貴方様のことは認知しております。ラグーザ殿。彼を気に入っていることはわかりますが、そろそろ彼をこちらに返して頂かなければいけません。」
返す?、
「……っなよ、」
「ラグーザ殿」
「叶を返せ?こいつは、物じゃねぇ、人だ。生きてんだよ。天使だろうがなんだろうが物みたいにこいつを扱うな」
自分でも驚くほどの大きく低い声が出た。
一瞬で我に返り冷静になったが、一度出してしまった言葉はしまうことができない。
「すまない。取り乱してしまった。」
黒猫は、反論することや俺の態度に怒ることもなく黙って聞いていた。
そして、数秒程沈黙が流れた。
「そうですね。ラグーザ殿の言っていることは正しいのかもしれません。」
俺は、何も言わずに叶の安らかに眠る顔を見た。
俺が「起きろ」と声をかけたら、目を擦りながら眠そうな声で「おはよう、サーシャ」とでも言うのではないかと思った。
「それなら、」
「しかし、決まりというものがこの世にはあります。それは、変えることのできないものです。わかっていらっしゃるとお思いですが、彼はあくまで天界の者です。元堕天使でも、人間として一生を終え、更生したからには、天界の務めを全うする使命があるため、ここにいるわけには。」
俺の声を遮るように話す。
そんなもん俺だってとっくの昔からわかってる。
でも、俺の奥底のどこからが湧き出る感情。人間で言う「こころ」がそれを無視する。
「ですが、そこまでラグーザ殿が彼と居たいと願うのではあれば私と3つ約束をしていただきたい。」
「、、約束?」
黒猫は、頷き小さな猫の指を3つ立てた。
「えぇ、約束です。それを守るというのならば私は一時的に彼を君に貸します。おっと、失礼。この言い方はよくないのでしたね、、んん、任せます。」
小さく咳払いをして、俺の返事を待った。
「約束が何かによる」
黒猫は、もう一度咳払いをし黄色の目を俺に向けた。
「約束1つ目、彼に彼の本当の正体を教えないこと。」
指を1つ折り曲げる。
「2つ目、私の正体を彼に伝えないこと」
もうひとつ指を折り曲げた。
「私は、彼の監視役と先刻言いました。私はこれからも彼を監視しなければなりません。姿を見えないようにして監視することになると思いますが、貴方が私に気づいたとしても彼に伝えることはしないように。」
「なぜ」
「私の正体や彼自身の正体を彼が知ると、今までの全ての消えるべき記憶がパズルのピースとなり元に戻ります。そうなった場合、彼は強制的に元の姿に還り、二度とこちらの世界に戻ることが無くなると思われます。貴方としてもデメリットになるかと。」
「記憶が戻るって、俺との記憶も全て、?」
「はい、ラグーザ殿との今までの記憶、すなわち思い出も全てが刹那にして彼の元に戻ります。」
「じゃあ、だったら、」
そう言い続けようとすると、黒猫が左右に頭を動かした。
「残念ながら、ラグーザ殿が思っているようにはなりません。この事には、注意点があります。一瞬のうちに全てがその時の体に戻るため負担に耐えられるかどうか、そこは彼の運次第です。たとえ、彼が記憶を失った元天使だったとしても、もし、彼がそれに耐えられたとしても精神的なダメージは大きく廃人状態のようになってしまうかもしれません。」
「つまり」
「はい。そのまま亡くなり、二度と目覚めない、生き返らないかもしれせん。もちろん、天使にも悪魔にも人にもです。」
「この世から、完全に消えるってことか」
黒猫は、黙って肯定の表情を向けた。
「確率はかなり低いですが、リスクなく断片的に記憶が戻ることもあります。」
「神次第ってことか」
「私には到底分かりませんがね」
「最後に3つ目の約束事です。」
3つ目の指を折り曲げた。
「彼にかけている何度でも生まれ変わり、必ず貴方と出会い死ぬ運命を持つ呪いを解いてください。」
やはり、バレていたか。
「いつから気づいていた」
叶を黒い棺の中にそっと寝かせる。
魔法で百合の花を出しそっと叶の手に握らせた。
「ずっと前からですよ。」
叶の周りに隙間を埋めるようにして白い百合を敷き詰めた。
「何故途中で言わなかった」
「何故でしょうね」
黒猫は、そっと俺に近づいた。
「しかし、貴方様の呪いは強力なものですね。彼の魂が揺らぐ生まれ変わる直前を狙って解除しようとしたのですが、できませんでしたよ。」
「強大な魔力を感じました。」
その場を立ち上がり、近くにあった椅子に腰掛けた。
「そりゃ、どうも。特殊な呪いをかけたかいがあったようだ。」
「ふふ、もしかして魔界にある禁止の書物を使いましかね。」
黒猫がその場に座り下から俺を見る。
「いーや。そんな、恐ろしいことはしない。古い知り合いに一人娘のお嬢サマがいてな、そいつの親に少し協力してもらっただけだ。」
黒猫は「なるほど」と勘づいたように頷きふふっと笑った。
「そういえば、怖いお父様をもった可愛らしいお嬢様がいましたね。」
「流石のあんたでも解くのは難しいだろ」
「ええ、とても私には。どんな代償を支払ったのでしょうか。」
黒猫が黄色く光る目を細める。
「よしみってやつだよ」
黒猫は、ふふっとまた笑い、そして、俺にどうするのか聞くような視線を送った。
「期間は」
「数百年程ですかね」
「そうか」
答えはもう決まっていた。
俺にとって一番都合のいい提案だ。
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作者 黒猫
「哀情」
秘密の呪い
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※この物語と本人様の関係は一切ありません。
ーつづくー