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郁不-いふ-
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次の日の朝
遅くなったが、うちの兄貴は大学生や。やからコイツはこんな自由なんや。もっと真面目に勉強しいや。
っていつもなら言うけど、最近は兄貴に冷たくする意味がない気がしてきたからな。
保「ほな、行ってくるな〜」
一「おう。気ぃつけて行きや」
ぐらいの会話はする。
ガチャ
鳴「おはよ、宗四郎」
保「おはよう弦くん!」
僕たちは並んで歩き出す。すると、弦くんが話題を振ってくる。
鳴「宗四郎はゲーム、しないのか?」
保「んー…たまに暇つぶしでやったりはするけど、めっちゃやり込んだことはないな」
鳴「お前それ、本気で言ってるのか…!?人生半分以上損してるぞ!」
保「…いや、流石に半分は言い過ぎちゃう?」
鳴「そんなことはない!今日の放課後、ボクの家に来い!このボク様が!ゲームの全てを、直々に教えてやる」
ふと、弦くんが静かになった。
保「ん?どうしたん、弦くん」
鳴「いや…… 」
いつもは饒舌な弦くんが珍しく言葉を濁した。
鳴「…なんでもない。忘れろ」
保「忘れろって言われても…」
鳴「いつか話す」
保「……分かった」
そう言いながらも、僕は見逃さなかった。弦くんが悔しそうに手を握りしめたのを。
それから学校まで、僕たちの間に会話はなかった。
?「鳴海く〜ん♡」
不意に声がした。妙に甘ったるい、いわゆるぶりっ子っていうヤツの声や。しかも、そいつの後ろには取り巻きと思わしき女子が3人いる。
女子「おはよう、鳴海くん♡」
そいつは僕ら、いや、弦くんの元まで来ると、何か包みを取り出した。
女子「これ、昨日鳴海くんの為に焼いたクッキーなの♡受け取ってほしいな〜♡」
……ようこんな毎回語尾に♡つけれるな。
んなことどうでもええねーん!
その女子は、ようやく僕の存在に気付いたのか
女子「ねぇ、鳴海くん♡なんでこの人と一緒にいるの〜?♡」
と言った。言葉は優しいが、暗に「なんでこんなヤツなんかと」と言いたいのが透けて見える。
女子2「そうだよ〜♡この人とじゃなくて、私たちと行こ〜?」
女子3「この人より私たちとの方が楽しい「うるさい」
そろそろ我慢がならなかった僕が口を開く前に、僕の隣から静止がかかった。
鳴「ボクはお前が作ったものなんかいらないし、お前らとも行かない」
弦くんは女子たちのことをバッサリ切った。
弦くんは女子との距離を一歩詰めて、
鳴「お前ら今、コイツよりお前らとの方がいいって言ったな?じゃあ、お前らのどこがコイツより良いのか、具体的に言ってみろ」
と言った。
…一応『コイツ』は僕のことや。多分。
女子「えっと…私、この人より面白い話、沢山持ってるよ♡」
鳴「後は」
女子「後は…私、ダンス出来るよ♡」
鳴「それだけか」
弦くんは心底興味なさそう。そらそやわ。弦くんは聞くより話す派やし、ダンスなんかほんまに興味ないやろうしな。
女子「えっと…」
女子は必死に僕に勝てるとこを探しとる。僕かて、そんな完璧人間ちゃうんやから、もうちょいあるやろ。
女子「こんなおかっぱより、私みたいにおしゃれな方がいいでしょ?♡」
コイツ、とうとう見た目について言うてきたぞ。とはいえ、そう言う女子の髪は、僕にも分かるぐらい綺麗に整えられていた。毎朝頑張ってはるんやろな、としか思わんけどな。
鳴「宗四郎、行くぞ」
女•保「…え?」
鳴「ほら、早く行くぞ。コイツらといると気分が悪くなる」
弦くんに手を引かれ、僕は半ば強引に弦くんについて行く。もちろん、それを見た女子たちが何もしないはずがなく。
女子「ちょっと待ってよ鳴海くん!」
語尾の♡が消えた。相当焦ってるみたいやな。
弦くんはそんな女子に対して足も止めずに
鳴「うるさい。ボクに話しかけるな」
とだけ言った。
そんなことを言われた女子の行動は決まっている。
女子「ひどいっ…!鳴海くんひどいよ…っ!」
地面にうずくまって泣き出した。取り巻きたちは必死に慰めている。そのうち、野次馬が集まってくるやろうな。
酷いんはどっちやねん。どうせ野次馬には「鳴海くんにひどいことされた」とでも言うんや。ほんでそれを聞いた奴らは鳴海はひどいヤツという認識になり、弦くんは避けられるか、ネットで叩かれるとか……
保「なあ、弦くん。あの言い方はあかんって」
鳴「……お前も、アイツの味方なのか」
弦くんは足を止めて呟いた。
保「…は?んな訳ないやん。なんで僕があんなんの味方しなあかんの」
鳴「じゃあなんであの言い方はない、とか言うんだよ!」
弦くんが振り返った。弦くんの顔は、純粋な困惑と恐怖、絶望で染まっていた。
保「それは「…言うな」
僕が理由を説明しようとすると、弦くんに遮られた。
鳴「…聞きたくない。どうせボクを非難することだろ」
保「だからちゃうって…」
鳴「…もういい」
弦くんが僕に背を向けた。
鳴「お前なら、ボクの味方になってくれると思ってた。でも、そんな訳ないよな」
自虐的に喋り出す弦くん。
鳴「ボクの味方なんていないんだよな、最初から。もうお前もボクに関わるな。他の友達と一緒にボクの悪口でも言っとけ」
そう言って、弦くんが歩き出した。僕は、弦くんを止めなきゃと思うのに、何を言っても薄っぺらくなる気がして、結局何も言えなかった。
保「…どうしよ」
僕の呟きは、誰にも届かなかった。
コメント
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ふたりの距離がちょっと縮まったかと思った矢先の事件、切なかったな…。弦くんが「もうお前もボクに関わるな」って言ったときの絶望感がひしひしと伝わってきて、胸が締め付けられたよ。保くんが何も言えずに立ち尽くすラストも、リアルで辛い。次、どうなるんだろう…。続きが気になる!