ふぁあああ!大きなあくび一つして、さらに大きなのびをして起きた。
「…か…」「やっぱり、動物たちのためにはこれが一番かと」ん?わたしは耳をぴくんと震わせて顔を起こした。みんなは聞こえた?今、ソフィアと話している男の人が、『ポーランド』って言ってたよ。『ポーランド』なんか聞いたことがある。なんだっけ?「里緒奈とママが目指していたところだ‥」もしかしたらそこには里緒奈たちがいるかもしれない。里緒奈はわたしの飼い主の少女で、わたしのクラウンっていう名前を新しく、りりにしてくれた優しい飼い主さんなんだ!「で、そこに犬たちを移動しようと思います。今はポーランドの受け入れ態勢も完全に整っていますし。」「だよね。犬たちの幸せを考えるならこれが一番、だよね…分かった。そうするよ」もしかしてわたしたち、ポーランドに行くの?「どうしたのう?りり」寝ぼけた声がすぐとなりから聞こえた。「クラウディア、おはよう」隣の寝ぼけた黒い犬はクラウディア。胸元だけ白い毛が混じっているんだ。まだ生後2〜3ヶ月の子犬だよ。「もしかしたらわたしたち、ポーランドに行くかもよ」「ぽぽおらんど?なにそれ?おいしいの?」「違う!ポーランド!どこをどうしたらそんな聞き間違えるの?耳に虫でもいるのかしらね。もう」「そのポなんとかっておいしいの?」「ポーランド!隣国だよ!ここウクライナの隣の国なの!」「へえ〜。ってその国っておいしいの?」だめだこりゃ。こんなてんて物知らずなやつは見たこと無いや。「もう、いいです…」もう諦めた。
ある日のこと 「みんな。みんなとは今日でお別れになるの。みんなは、ポーランドっていう国へ行って少しでも幸せに過ごしてもらうの。わたしたちはウクライナで活動を続けるわ。このカルルさんがみんなを守ってくれるから安心だよ。」ソフィアが言った。ソフィアとマテリーナの目は涙で潤っていた。「はじめまして!カルルです。別の保護団体のリーダーです。よろしく!」晴れやかで優しい声で挨拶した。そして昼が終わる前にわたしとクラウディアを含めた約280匹の犬たちを車に乗せ、走っていった。外を見るとソフィアとマテリーナが手をふっている。わたしは手をふる代わりに「わおーーーーーーん!」と、一回遠吠えをした。クラウディアは自分の口についたおやつを舐め取るのに必死だった。ソフィアたちが見えなくなるとクラウディアに話しかけた。「もう。クラウディア。さっきからなにをしてんの。いじきたないよ、全く。」「うん?おいしいから、一滴残さず食べたいの」「そう」これだけで終わった。
🐾ついにポーランド国境へ
次の日の朝、車は来たことのある場所で止まった。「ひっ…」隣の白い垂れ耳の犬が小さく悲鳴をあげた。 「ここって…」わたしは慌てて周りを見渡した。人はいるがわたしが一番会いたい人、里緒奈の姿が無い。ため息をついた。でもここは見たことあるような。「国境?…」里緒奈と離れ離れになったあの国境付近だ!でもここは少し平和そう。
晴れ渡る空の匂いもする。ガチャ。車の後部座席の方から音がした。そして光が差し込んできた。「みんな、おつかれ。ここがウクライナとポーランドの国境だよ」カルルがにかっと笑う。「きみたちがポーランドに行くためには『動物パスポート』っていうパスポートが必要なんだ。これから発行する手続きをするからね。」カルルは言った。そこにはたくさんのテントが立ち並んでいた。その中には動物が保護されているテントもあった。わたしたちはカルルたちに連れられてテントに入った。このテントは動物パスポート発行のため、ワクチンを打つテントなんだ。動物たちは順番にワクチンを打たれていた。次の次の次はわたしの番だ…前、里緒奈の家に行ったばかりの頃、里緒奈に連れられ、動物病院に行った。その時、ワクチンを打たれ、とても驚いた。しかも痛かった。でも里緒奈と離れ離れになった苦しみと、飢えや乾き、ウィーナの件より痛みはずっとずうっとマシだ。あ、もうわたしの番だ。チクリ。いった!前のワクチンと同じぐらいの痛みだ。「泣かなかったね!偉いよ!」そう看護師さんに言ってもらえ、撫でてもらえた。でも前の白い子犬兄妹はそろって鼻をぴすぴす鳴らし、すねている子までいた。きっと初めてのワクチンが痛かったんだな。そう思ったその時、「いったー!痛いよ!これ!」という幼い声が耳をつらぬいた。「クラウディア!静かにして!」わたしは少し苛立って叫んだ。「だってえ、痛いんだもん」クラウディアが鼻をぶーぶーと鳴らしてこっちへ来た。「心臓がどうなるかと思ったわ。ほんと」「ごめーん」「もう。まったく」
それから検査をして、いろいろやって…「これがりりの動物パスポートだよ!」「こっちは君の。名前はとりあえず今日は曇りだし、クラウディアにしたよ」カルルが言った。まさかカルルが考えた名前と名前が一致した!クラウディアも驚いている。青い表紙のパスポートだった。「これがあればヨーロッパの国だったらだいたい出入りできるからね」これが、ワクチン済み、検査済みですっていう証になるんだね。
🐾想いを乗せて
ふたたび車に乗った。今度は別の車だった。「ようこそ、ポーランドへ!」少し眠たそうなカルルがわたしたちのケージをおろしてくれた。「ここが、ポーランド…」わたしは一歩、一歩とポーランドの地へ足を下ろした。空を見上げるときれいでさわやかな水色の空が映った。そんなわたしを風が揺らした。その風に乗って戦争の音がわずかに聞こえた気がした。いつか、絶対里緒奈に会いたい。またあの優しい笑顔とぬくもりを取り戻したい。そのためにも絶対にわたしは生き抜こう。遠く、お互いの位置が知らなくても、同じ空の下で、生きていればきっと会える。戦争はいつ終わるかなんて誰にもわからない。いつ死ぬかだって、わからない。でも、どんな暗黒の暗闇の中でも、勇気の灯火と希望の光はなんだろうと絶対に捨てない。里緒奈に会う。そう全てに誓って広い青空を力強く見上げた。そして静かに息を吸い込んだ。力と希望と、想いを乗せて、わたしはさらに力強く空へ向かって吠えた。「わおーーーーーーーん!わおーーーーーーん!」里緒奈、絶対にわたしは会いに行くからね。待っててね、大好きな里緒奈。 わたしの想いと声が里緒奈の耳と心に伝わるように、希望を信じてずっとずっと力強く吠え続けた。
コメント
7件
里緒奈に会えると良いね