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帝都で泊まった宿から転移で戻り、今はみんなで作戦会議中だ。
俺は必要ないって?
知ってるよ。俺は晩酌中なんだっ!!
「ふーん。別大陸な。どんなモノが売られているのか気になるけどそれくらいだな。こっちで手に入れられないんじゃ意味ないしな」
うーーん。ドライ!若いのに夢がないねぇ……
「美味しいお菓子があるですっ!?行きたいですっ!!」
いや、お菓子のためだけに行くのは嫌だよ。
「まず行き方はわからなかったよ。もし行けるならもっと簡単に情報が手に入れられたはずだし」
そう。この情報は俺が城に忍び込んで手に入れた書物に記されていた、機密中の機密だ。
二人が情報収集に奔走していたとき…俺は暇だったんだ。
暇だからちょいと忍び込んでみました。
・まずは一人でうろついている兵士を探します。
・その兵士が人気のないところに行ったのを見計らい顔を隠して襲います。
・兵士を縛り、鎧を奪えばあら不思議。帝国兵セイくんの出来上がり。
といった具合で城の中に入り込み、スパイごっこをしていたんだけど、思いの外うまく行ってしまったな。
味を占めてこれから同じことばかりに頼らない様にしないと……
「ホント…私達の苦労って何なんだろうね…」
「そうですね…今に始まった事ではないのですが……」
すまん……悪気はなかったんだ。
多分またする。
「まぁ色々わかったんだ。勘弁してくれ」
「じゃあ…『却下だ』…まだ何も言ってないよ…」
何を言おうとしたのかわからんが、ロクでもないことなのは流石にもうわかるよ。
ちなみにその書物は盗んではいない。
スマホの写真ホルダーの中に記録してある。
あまり大事にしては、気絶させた帝国兵が処刑されてしまうかもしれないからな。
書物の中身には、帝国を築き上げた初期メンバーがここではない別の大陸からやって来た人達だと記されていた。
その初期メンバーを纏めていた人物が皇帝となり、他の人達はそれぞれ貴族になったようだ。
まぁ、そんな昔話はいいとして、本題だ。
「まさか別大陸の技術だったなんてね…なんで気付かなかったんだろう?」
「仕方ないだろ。俺達は転移転生者というキーワードに囚われていたんだからな。
帝国の歴史は古くない。つまり、今の皇帝や貴族の近い先祖が別大陸からこの大陸…なんだっけ?」
「中央大陸です」
さすミラ!
「そう、その中央大陸へやってきた。大陸を移動できるくらいの技術力があったが、やってくるだけで精一杯だったようだな。
恐らく船で来たみたいだが、文献にはそれらしいことは書かれていなかったな」
「来れるけど帰れないか……私はこの世界に行けるなら片道切符でも来てたから気持ちはわかるかも」
貴女は最悪俺を脅してでも、騙してでも来たでしょうね。
まぁ昔の人の考えや気持ちなんて、想像は出来ても理解なんて出来ないからな。
今は憶測では無く現実的な問題をどうするかだ。
「ロープウェイの技術は、恐らく書物で残されていたんだと思う。今回の件が広まれば中止になる可能性も考えられるんじゃないか?」
「そうだね。ロープウェイに関してはそうなっても不思議じゃないね。でも、戦争が起こるかどうかは五分五分じゃないかな?」
五分かぁ…じゃあもっと決定打が必要だな。
「俺の仕事は終わりでいいのか?」
「ロープウェイの破壊工作ご苦労様。そうだね。とりあえず争いになった時はお願いするけど、それまでは大丈夫だよ」
書いてあった通り作ったんだろうが失敗に終わった。
聖奈さんの言う何かしらの事情で時間がなかったんだろうが、それでロクな準備や実験もせずに失敗作だと思わせたロープウェイを作ったのなら、次はもうないだろう。
「ライルくんを取り上げちゃったからマリンちゃんに謝っておいてね。埋め合わせもちゃんとするんだよ?」
「わーってるよ!」
そう言うとライルは部屋を出て行った。
くそがっ!!何が『わかってるよ』だっ!!
こっちには待ってくれる人なんていないんだぞ!!
ぼっちの気持ちも少しは考えろっ!ぶっ飛ばすぞ!!
「ホントにうまく行くのか…?」
聖奈さんの提案に珍しく同意できない。
「大丈夫だよ!失敗してもこっちにはなんの不利益もないんだから、するだけ得だよ!」
何だか情報商材を押し売りする営業マンのセールストークにしか聞こえないんだが……
「……笑われたら立ち直れないかも」ボソッ
「大丈夫です。セイさんを笑った者は私が処刑しますから」
うん。励ましてくれているんだろうけど…そんな事で処刑してたらホントに独裁者って言われるからやめてね?
ミランは今でも時々時間を作っては訓練・鍛錬をしているみたいだ。
俺に内緒なのは、いつかまた俺がミランを連れ出した時に驚かせる為なんだとか。
かわゆす。
しかし、そんなミランが処刑するとなれば…殺られた相手は見えない位置からの狙撃1発なわけで……
死んだことにも気付かないのだろうな…こわっ!
作戦会議も昨夜遅くまで行い、今は帝都の宿だ。
作戦には最後まで抵抗していたがしなきゃ無駄に命が散ってしまうので、背に腹はかえられない。
ドーーーンッ
帝都に爆発音が響き渡った。
「目標の破壊を確認」
ミランが懐かしくも伝えてくれた。
「汚ねぇ花火だ」
「人は爆発してないからなっ?」
どこぞの戦闘民族の王子のセリフを引用した聖奈さんは、得意満面な表情だ。
ブイッちゃうねん。妹キャラはやめろ。
「さっ。これで向こうはどうでるかな?」
「俺はまだ気が進まないぞ。すぐに転移で逃げるかもしれんからな?」
「それはいいよ。セイくんに何かあれば、私もミランちゃんも生きていけないから」
うん…そういうことをさらっと言うのやめよ?
年齢イコールはすぐに勘違いしちゃうから。
この日三度目の爆発で、帝都の周りと城壁の一部はボロボロだ。
予定通りなら今晩作戦決行だ。
三度の爆発により、普段賑やかな帝都内は騒然としていた。
「何だか悪い事をしたみたいに感じちゃうね」
「無差別テロみたいなもんだから悪い事だろ。武力行使はいかんよ」
「口で言ってもわからない人が多すぎます。まぁセイさんの良さがわからないのは、ライバルが少なくて助かりますが」
ミランが非行少女になってしまった…しかも何気にディスられたし……
中には家財道具を荷車に積んで街を出て行こうとしている人達もいる。
もちろん治安上や運営上それを国が黙認するなんてことはなく、門で追い返されているようだが。
騒がしくなっている帝都の中を、何をするでもなくブラブラと歩いているのには理由があった。
それは爆発物を設置し終わった後。
『起爆が完了したらどうするんだ?予定は夜までないだろ?』
『そんなのデートに決まってるよ!』
もちろんすぐに断ろうとしたさ。
揶揄われるのには慣れたからな。でも……
『ホントですか!?じゃ、じゃあ一度王都に送って頂けますか?!おめかししなきゃ…』
俺が発していい言葉は『はい』か『イエス』だけだ。
こんな呑んだくれのどこが良いのか、頬を染めてはしゃぐミランを聖奈さんがヤバい表情で視姦していた。
ミランが俺に恋をしているのではなく、恋に恋していると気付いた時、俺は大丈夫なのだろうか……
やはりそれまでに可愛くて美人で家庭的で優しくてナイスバディで甘えさせてくれて何でも出来る奥さんを作らなくてはなっ!!
『か、金だけはあるからっ!』が決め台詞だ!!
パパ活かな?
言ってて自分の魅力が金(聖奈さんに稼いでもらった)しかないことを今更ながら気付き、虚しくなった……
デートは二人きりではない。
ミランは残念がったが、どうせミランと二人きりでも不審者に後をつけられるだけだ。
それに個別にデートする時間もないので、今回は3人で帝都散策をすることになった。
俺は聖奈さんの選んだ服に着替えて、二人は街人では着ないであろう高価なドレスに身を包んでいた。
恐らく聖奈さんがミランに着させたかっただけだろうが、この世のものとは思えないくらい可愛いのでグッジョブ聖奈!
俺は日除け用の薄いシースルーのコートのようなものを羽織り、中は紺色のシャツに紺色のパンツだ。
聖奈さんは赤いタイトなドレスでスカートの先にフリルがあしらわれていた。
ミランはクリーム色の可愛いワンピースドレスを着ていた。
まるでお人形さんみたいだ。
いや!それ以上だ!
デートといってもすることは分からず、女性陣に丸投げでショッピングや食事、散歩を楽しんでから宿へと戻ることに。
そして、夜を迎えるのであった。