第9話 犬は追いかける、猫は逃げる?
翌日――。
ひよりは朝からそわそわしていた。
(昨日、桐生くんにあんなこと言われて……)
思い出すだけで顔が熱くなる。
「お前は俺のもんだから」
あの低い声、真剣な目、ほんの少し意地悪そうな笑み――全部が頭から離れない。
(な、なにあれ……! ずるい!)
それなのに、今朝の桐生はいつも通りのクールな態度だった。
いや、むしろ、昨日よりもそっけないくらいだ。
「おはよ……」
「ん」
ひよりが挨拶しても、桐生はそっけなく一言返すだけ。
目も合わせようとしない。
(え? え? なんで?)
昨日あんなこと言ったのに、今日は何事もなかったみたいに振る舞うの?
もしかして、またからかわれただけ……?
ひよりはじわじわと不安になってきた。
「桐生くん……」
休み時間、意を決して桐生に話しかける。
けれど、彼はひよりの声が聞こえなかったかのように、携帯をいじっていた。
(あれ? ほんとになんで……?)
このままじゃ、気持ちが追いつかない。
犬はまっすぐだから、遠回しな態度には耐えられないのだ。
「桐生くん!」
放課後、ついにひよりは桐生の腕を掴んだ。
「……なんだよ」
ちょっと驚いたように桐生が振り向く。
「なんで避けてるの?」
「別に避けてねぇ」
「避けてる! 絶対避けてる!」
「……うるせぇ」
桐生は小さくため息をついた。
「お前さ、あんまりベタベタすんなよ」
「えっ……?」
まるで急に突き放されたような言葉に、ひよりの心臓がギュッと縮む。
「……昨日と言ってること、違くない?」
「別に」
冷たい口調。でも、その目はどこか迷っているように見えた。
(もしかして……)
ひよりはふと、桐生の態度の理由に気づきかけた。
でも、それが正しいのかは、まだわからない。
(だったら……)
確かめてみるしかない。
ひよりは、ぐっと桐生の腕を引いた。
「えっ、おい!」
「逃がさないよ!」
今度は、犬が猫を追いかける番だ――!







