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翌日――。
ひよりは朝からそわそわしていた。
(昨日、桐生くんにあんなこと言われて……)
思い出すだけで顔が熱くなる。
「お前は俺のもんだから」
あの低い声、真剣な目、ほんの少し意地悪そうな笑み――全部が頭から離れない。
(な、なにあれ……! ずるい!)
それなのに、今朝の桐生はいつも通りのクールな態度だった。
いや、むしろ、昨日よりもそっけないくらいだ。
「おはよ……」
「ん」
ひよりが挨拶しても、桐生はそっけなく一言返すだけ。
目も合わせようとしない。
(え? え? なんで?)
昨日あんなこと言ったのに、今日は何事もなかったみたいに振る舞うの?
もしかして、またからかわれただけ……?
ひよりはじわじわと不安になってきた。
「桐生くん……」
休み時間、意を決して桐生に話しかける。
けれど、彼はひよりの声が聞こえなかったかのように、携帯をいじっていた。
(あれ? ほんとになんで……?)
このままじゃ、気持ちが追いつかない。
犬はまっすぐだから、遠回しな態度には耐えられないのだ。
「桐生くん!」
放課後、ついにひよりは桐生の腕を掴んだ。
「……なんだよ」
ちょっと驚いたように桐生が振り向く。
「なんで避けてるの?」
「別に避けてねぇ」
「避けてる! 絶対避けてる!」
「……うるせぇ」
桐生は小さくため息をついた。
「お前さ、あんまりベタベタすんなよ」
「えっ……?」
まるで急に突き放されたような言葉に、ひよりの心臓がギュッと縮む。
「……昨日と言ってること、違くない?」
「別に」
冷たい口調。でも、その目はどこか迷っているように見えた。
(もしかして……)
ひよりはふと、桐生の態度の理由に気づきかけた。
でも、それが正しいのかは、まだわからない。
(だったら……)
確かめてみるしかない。
ひよりは、ぐっと桐生の腕を引いた。
「えっ、おい!」
「逃がさないよ!」
今度は、犬が猫を追いかける番だ――!