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「野外実習」
――異能学園では、春の始まりと共に毎年恒例の“実践型演習”が行われる。
場所は学園の外縁、霊脈と瘴気が交錯する《第3演習林》。
ランク別で行動班が編成され、Dランク生徒たちは最も“安全”とされる区域へ向かっていた。
◆Scene01:集合と出発
広場には種族も姿もバラバラな生徒たちが集まっていた。
だが、等しく緊張感に包まれている。
学年主任ランゴ:「さて、野外実習を始める。お前ら、自分のランクを忘れんなよ。身の程を見誤れば、死ぬぞ」
列の後方、Dランクの一団の中で、ひときわやる気がなさそうな男がいた。
伊弉諾 林野「……だるい。帰って寝てぇ」
隣の生徒が聞き捨てならないとばかりに睨む。
生徒A「オイ、真面目にやれよ、こっちは命懸けなんだぞ!」
林野「うん、知ってる。でも俺が死ぬ気配はしない」
不穏な空気が漂う中、各班はそれぞれ演習林へと消えていった。
◆Scene02:Dランクの森
第3演習林は、見た目は普通の森。
しかし、空気の層が不規則にねじれ、時折“音”すら反響せずに消える場所がある。
異能が弱い者ほど、そうした“違和感”に鈍感になる。
D班の生徒たちは、慣れない手つきで探索を進めていた。
生徒B「うわっ、魔獣の痕跡……けど小さいな」
生徒C「まぁ、俺たち相手にはその程度が妥当だろ。死にたくねぇし」
その時だった。地響きのような、けれど耳で感じない衝撃が走った。
◆Scene03:異常発生
――空気が、沈んだ。
まるで空そのものが重くなったかのように、
枝葉が下に引きずられ、地面の小石が微かに浮き、
生徒たちの足が地面にめり込んだように感じた。
生徒A「な、なんだこれ……身体が……重ッ!?」
突如飛び出した魔獣――狐のような形をした瘴気の獣――が、
空中で凍った。
そのまま、真下に押し潰されるようにして、地面に叩き潰された。
血も、声も出ない。完全な“沈黙の殺害”。
誰一人として手を出していない。
唯一、ただ立っていたのは――
伊弉諾 林野
その目は虚ろで、だが冷静だった。
林野「……やっぱり、抑えないと出ちゃうか。重力って、うるさいな」
周囲の生徒たちが彼を見る。
誰も、何も言えない。ただ、何か“理解できないモノ”を見てしまった顔だった。
◆Scene04:沈黙
空気が元に戻る。
小鳥のさえずりすら戻らない森の中で、
林野は一歩だけ、前に出た。
林野「このまま進むと、魔獣の巣がある。避けた方がいい」
生徒B「お前、何者だ……?能力、持ってないんじゃ……」
林野は振り返らずに答える。
林野「“この世界には、まだ認知されてないだけ”。それだけさ」
風に揺れる枝。
その上に、葉が一枚、宙に浮いたまま止まっている――
次回予告:第7話「野外実習【中編】」
> 「魔獣の気配が……変わった?」
「何かが群れを押し出してる。縄張り争いか、それとも――」
> 「伊弉諾 林野。お前、どこまで知ってる?」
「……知らないよ。ただ、聞こえるんだ。重力の“流れ”が。」
> 次回、『野外実習【中編】』
見えない重圧が、森を覆う。
誰かが震え、誰かが目を覚ます。