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下級構成員の織田作之助が死んでから太宰は変わった。




太宰。手前はいつも何処か遠くを見ていた。街の向こう、山の向こう、海の向こう。手を伸ばしても届かない。一目見ようとも其処に光はなく真っ暗闇。






太宰。手前は何がほしい。何が見たい。何を望む。もうない何かをいつまで見続ける?手前は欲張りだな。いい加減










『俺を見ろ』










皐月半ば。梅雨で雨のやまない日が数日続いた。今日、俺と太宰は任務がないので一日中だらっとするつもりだったが、雨が一番強い時に太宰が傘を持たずにでかけた。恐らく増水した川で入水するなんだろう。まぁでも。一回も成功していないし、泥だらけで戻ってきて熱でも出して3日寝込むのが落ちだろう。




あいつが熱を出すと、俺の仕事が増えて胃が頗る不健康になる。だから傘を片手に異能を発動して雨に濡れないようにし空中から太宰を尾行した。




しかし太宰が向かったのは川ではなく、誰もいない、墓標が並んだ墓地だ。


太宰が大きな木の下にある墓標に近づき、墓標に背中を預け空をぼーとっ見始めた。何を言ってるのかはわからない。ぼそぼそと昔話を話すような口調で墓の下の誰かに話しかけるように太宰は続けた。




『ねぇ。中也!何時までそこで浮いてるつもりなの?』


『人の話を盗み聞きして愉しいのかい?随分悪趣味だね。』




太宰は声を張ってそういった。いつバレたのだろう。そんなことも考えながら太宰の近くの地面に足をつけた。


『手前がまた傘を持たずに出掛けたから持ってきたんだ。さっさと帰ってこい。書類整理が残ってるぞ』


母が子に勉強するようにしろと促すように太宰に話しかけた。


すると手首を握られた。太宰の異能で俺の異能が解け一瞬でコートは重く冷たく濡れた。




『ははっ中也もずぶ濡れだ』


子供特有の無邪気な笑顔を浮かべた太宰の頭を一発。


『いったぁ。何すんの!』


幼稚な悪戯をする青鯖野郎にげんこつを一つくれてやった。こいつに何時も振り回され、虎の餌にされ、上空1000mから突き落とされ、普段の報復と云っちゃあなんだがそんな感情を込めて頭にもう一つ入れてやった。


『織田の墓参りか?』




太宰は静かにうなずいた。ただ雨の音が響く。車の排気音も人の話し声もかき消して。




『帰ろっか』




そう云った太宰は濡れた頭を左右に振り、髪をかきあげてさっそうと立ち去った。其の背中はひどく寂しそうにしていた。








太宰はこれまでずっと形のないものを追っかけてきた。




生、死、時、過去、未来、恋、愛。どれも不確かで不安定で不透明なものばかり。そして人間は皆これらに振り回され、騙され、時に助けられ生きている。




然し太宰は其れに抗おうとした。生まれたときからずっとだ。そして彼はいま、生と死。時と愛に振り回されている。




時間は人を待たずとも進む、残酷で美しいものだ。何人たりとも時には抗えない。死は、美しく儚いもの。愛は川の底に沈む汚らしくて輝くように美しい呪い。生は誰でも抗い、反抗し、操れる、神様からの細やかな美しいプレゼント。




此等に振り回されればどんな超人でもあっという間に廃人と化す。迷い悩み辿り着く先は無。


太宰は抗いつつも着々と其れに向かっている。織田から目を離さなければ。何れ彼も…戻らぬ人となってしまっても、もう可笑しくない。だから太宰の目を覚ましてやりたかった。




生きている人と死んだ人の時の流れは全く違う…


太宰は織田が死んだときから『自分』の時間をちいとも進めようとしなかった。生に取り憑かれ、死を待ち望み、時を止め、愛に飢える。


ずっとだ2年もだ。其れを近くで見る俺も、いい加減にしてほしい。


俺の気持も知らずに…いない人を追いかけて…




そして今宵の24時太宰をビルの上に呼び出した。








『なあに。中也。こんな時間に呼び出して。私は明日の早朝に任務を組み込まれたから今日は早く寝たかったのだが。それは無理そうだね。』




相変わらず口は達者のようで。おめでたい。


太宰が何か云おうと居たところを俺は遮った。




「太宰。手前は何時まで止まる気だ。」


そう云った途端、太宰の目から光が消え、闇に飲まれた。




『私が、止まっていると?』


『何時!?私が止まったと?!』

少々取り乱しているようで、口調が荒い。俺の話を全て否定し続けた。




『私がどうして止まっていると思ったの?ねぇ中也っ』




あまりにも生意気な口を聞くものだからガツンと云ってやった。


『手前は織田が死んでからずっと止まりっぱなしだ!物事を前に進めようとせず、過去にとらわれてばかりで!』


『織田はもう居ないッッ。いい加減目を覚ませ!』


『は?』




しまった。言いすぎてしまった。今太宰はどんな顔をしている?わからない。見たくない。




『中也…どうして中也はそんな事云えるの?』




太宰の震えた声が脳裏に刻まれた。同時に俺は恐怖感と得体のしれない何かを覚えた。




『中也…織田作は…彼は、まだ私の中で生きてるよ?そして私を愛してくれてるんだよ?私に!愛してると云ってくれた唯一の人なんだよ。』


『どうして。どうしてそんな事云えるの。ねぇ中也答えてよ。ねぇっ!』




顔をあげると太宰は子供のように泣きじゃくり地面に膝をついてまっすぐ俺を見ていた。


わかってもらえなかった…太宰の目はそう語っていた。




『太宰。お前は、生きているんだ。死んだやつがお前の中で生きていたとしても、お前と織田の時間は違うんだ。生きている限り、時間は止まったり待ってくれたりはしない。』


『太宰を愛していたとしても、お前を愛していた織田と、生きている手前はもう。あのときの織田と太宰じゃない。其れは手前が一番よく知っているだろうが…』




今の太宰にこんな事を云える自分か気持ち悪くてしょうがない。虫酸が走る。吐き気がする。そして嫉妬する。




霧が晴れたように自分の気持ちがわかった。俺は太宰が好きなんだ。好きで好きで堪らないんだ。そして、愛しているんだ。愛に飢えている此の少年を自分のものにして気が済むまで愛してあげたい。其のためには此奴の意識を織田から切り離す必要がある。今の俺なら、どんな残酷なことだって云える気がした。




嗚呼…泣きじゃくる太宰が愛おしい。ないものを何時迄も追いかける惨めな太宰を誰にも見せたくない。俺だけの物にしたい。




『太宰。お前はとことん莫迦なやつだな。死んでるのに手前の事なんざ愛してくれるわけねぇだろうが。其れは手前の思い込みだ。阿呆。』




『違う!思い込みなんかじゃない‼彼は、織田作は朝から晩まで私を愛してると云ってくれてる‼』




更に取り乱す太宰に快感を覚えた。もっと、もっと。惨めで可愛らしくて、莫迦な太宰が見たい…




『それは本当に織田がお前に面と向かって、愛してると云ってるのか?違うだろ?体でお前に愛してると伝えてくれるのか?ちがうだろっ』




ナイフのような言葉が太宰を何回も何回も刺す。血のように流れた太宰の涙は、静かに屋上の地面に落ち、明る灰色が暗い灰色に変わった。


そして弱わしく、今にも消えそうな声で太宰はこう云った。


『私は…ただ愛されたいだけだ…』




と…




『織田作は私を愛してくれた筈だ…』


『織田作がもう居ないことだって、わかってる。だけど!!私は誰かに…』




。。。愛されたい。。。




こ此れは太宰の本音。親から愛情を注いでもらえず、冷淡に育った少年の本音。


ならば厭と云うまで、いいや厭と云ってもその意見を尊重しよう。


『俺じゃ駄目か?太宰。俺は手前を愛しちゃぁいけねぇか?』




勢いよく太宰は顔を上げた。先程の、闇に落ちたような目ではなく、キラキラと輝き、希望に満ちた目をしている。この目を俺は独り占めしたい。


恐る恐る太宰は口を開いた。




『こんな…こんな私を愛してくれるのかい?君は何処までもお人好しだね。』




優しく微笑む太宰を押し倒し、頭を支え身動きの取れないように、手首をしっかりと掴んだ。そして、太宰の首元に淡い赤色の印をつけ、口付けを交わした。




『当たり前だ。なんだって俺はずっと、ずっと前から手前のことを愛していたんだからな。』


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