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若井はゆっくりベッドから立ち上がり、
俺の肩を軽くポンと叩いた。
「……お前がまた薬やったら、
俺、泣きながらフラフープ回すからな」
「え、それ脅しの方向おかしくない?」と涼ちゃんが突っ込む。
「いや、想像してみろ。
このガタイのオッサンが号泣しながらフラフープだぞ?
地獄だろ」
俺は吹き出しそうになって、慌てて口を押さえた。
さっきまで冷たく感じていた引き出しが、
今はただの木の箱にしか見えなかった。
涼ちゃんが腕を組みながら、にやっと笑った。
「じゃあ若井さんがフラフープ回すときは、
私が横でカスタネット叩きます」
「お前ら、俺を何の芸人にする気だよ」若井が眉をしかめる。
「じゃあ俺は…」元貴が少し考えてから、
「泣きながら後ろで縄跳びでも飛んでおきますか」
3人で顔を見合わせて、ふっと笑った。
笑い声が響く部屋の中で、
さっきまで胸を締めつけていた衝動が、
少しずつ小さくなっていくのを元貴は感じていた。
笑い疲れたあと、ソファにもたれて深呼吸する。
窓から入る夜風が少しだけ心地いい。
「……でも、本当に助かったよ」
元貴はぽつりとつぶやいた。
涼ちゃんが首を傾げる。
「助かったって?」
「衝動、結構やばかった。
でも、お前らがふざけてくれたから、
ちょっとだけ…飲まれずにすんだ」
若井が目を細め、わざと軽口をたたく。
「おう、感謝料はビールでいいよ」
「お前病み上がりだろ!」涼ちゃんが即ツッコミ。
3人の笑い声が、再び小さく部屋に広がった。
夜が更けて、若井も涼ちゃんも眠りについた。
元貴は一人、窓際に座り外の静けさを見つめていた。
冷たい夜風がカーテンを揺らす。
胸の中に小さなざわめきが、まだ消えずにいる。
「まだ完全には抜けきれてないんだな……」
そう呟きながらも、今日の自分を少しだけ褒めた。
薬に手を伸ばしかけて、でも止められた。
それだけで、少しだけ強くなった気がした。
孤独はまだそこにあるけれど、
あのふざけた夜の笑い声が、
ぼんやりと光のように胸を温めていた。
「明日は、もう少しだけ…大丈夫でいられますように」
静かな夜に、小さな願いをこめて、元貴は目を閉じた。