テラーノベル
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🎧「触れない距離」
昼過ぎ。
部屋の空気は、いつもと同じだった。
でも。
少しだけ、違う。
琉夏「……動けんの?」
ソファに寝転がりながら聞く。
冬星「まあ」
キッチンで水を飲みながら、短く返す。
声はもう普通。
熱も下がってる。
でも。
どこか、まだ完全じゃない。
琉夏「今日リハやめとけよ」
冬星「行ける」
琉夏「行けてもやめとけ」
少しだけ強めに言う。
冬星が、少しだけこちらを見る。
冬星「なに」
琉夏「ぶり返すだろ」
それだけ。
でも。
少しだけ、空気が変わる。
冬星「……じゃあやめる」
あっさり引く。
その素直さに、少しだけ驚く。
琉夏「……珍し」
冬星「別に」
短い返事。
でも。
理由は、なんとなく分かる。
少しだけ沈黙。
テレビはついていない。
音はない。
でも。
静かすぎない。
琉夏「なんか食う?」
立ち上がりながら聞く。
冬星「なんでもいい」
琉夏「一番困るやつ」
冷蔵庫を開ける。
中身は、相変わらず適当。
適当に作る。
簡単なやつ。
皿に盛る。
テーブルに置く。
琉夏「ほら」
冬星が座る。
少しだけ、距離が近い。
無言で食べる。
でも。
途中で、ふと気づく。
食べるスピードが、少し遅い。
琉夏「……まだだるい?」
冬星は、少しだけ間を置いて。
冬星「ちょっと」
正直な答え。
琉夏「だろうな」
それ以上は言わない。
でも。
無意識に、手が伸びる。
冬星の額に、軽く触れる。
一瞬。
時間が止まる。
琉夏「……まだあったけえな」
すぐに手を引く。
(……なにやってんだ)
自分で少し驚く。
冬星も、少しだけ固まっている。
でも。
何も言わない。
少しだけ沈黙。
でも。
さっきまでと違う。
空気が、ほんの少しだけ変わる。
琉夏「……無理すんなよ」
ぽつりと落とす。
冬星が、わずかに頷く。
冬星「……うん」
その一言が、少しだけ柔らかい。
食べ終わる。
ソファに移動する。
なんとなく、隣に座る。
少しだけ距離がある。
でも。
前より、近い。
何も話さない。
でも。
離れない。
琉夏「……寝れば」
冬星「ここでいい」
短い返事。
そのまま、少しだけ体を預ける。
ほんの少し。
触れるか触れないかくらい。
琉夏は、何も言わない。
でも。
どかない。
時間が、ゆっくり流れる。
窓の外、夕方の光。
静かな部屋。
音はない。
でも。
ちゃんと、満ちている。
“いなくてもいい”
“でも、いた方がいい”
その距離が。
少しだけ、近づいた。
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