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🎧「平気なふり」
朝。
目が覚めた瞬間に、思い出す。
(……やば)
昨日のこと。
額に触れた感触。
あの距離。
あのまま、ソファで寝たこと。
琉夏「……はぁ」
顔を覆う。
(なにやってんだよ)
別に、たいしたことじゃない。
看病しただけ。
それだけ。
でも。
なんか、違う。
リビングから、音がする。
小さなギターの音。
(起きてんのかよ)
ため息をついて、部屋を出る。
冬星が、いつも通りソファに座っている。
ギターを軽く鳴らしてる。
変わらない光景。
……のはずなのに。
琉夏「……おはよ」
少しだけ声が硬い。
冬星「おはよ」
普通に返ってくる。
(普通すぎるだろ)
逆に困る。
少しだけ沈黙。
琉夏「……もう平気?」
冬星「平気」
短い返事。
それだけ。
なのに。
なぜか、少しだけ意識してしまう。
距離。
視線。
声のトーン。
(いや、気にしすぎだろ)
自分に言い聞かせる。
キッチンに行く。
冷蔵庫を開ける。
中身は、いつも通り。
琉夏「なんか食う?」
冬星「なんでもいい」
(またそれかよ)
いつも通りのやり取り。
なのに。
なんか、落ち着かない。
適当に準備する。
皿を置く。
琉夏「ほら」
少しだけ距離をとって座る。
……気づく。
(いやなんで離れてんだよ)
自分で自分にツッコむ。
でも、詰めるのもなんか違う。
変な空気。
無言で食べる。
途中。
ふと視線が合う。
すぐ逸らす。
(なにこれ)
気まずいわけじゃない。
でも。
いつもと違う。
冬星「……なんか変」
ぽつりと言われる。
琉夏「は?」
冬星「今日」
図星すぎる。
琉夏「変じゃねえし」
少しだけ早口になる。
冬星が、少しだけ目を細める。
冬星「昨日のせい?」
(…は??)
一瞬、思考が止まる。
琉夏「なにが」
分かってて返す。
少しだけ、強めに。
冬星「触ってた」
ストレートすぎる。
琉夏「あれは確認だろ」
即答。
冬星「確認ね」
少しだけ、間があった。
冬星「じゃあ今もする?」
一瞬。
完全に止まる。
琉夏「……は?」
冬星「熱」
何でもない顔で言う。
でも。
ちょっとだけ、意地悪。
琉夏「……もうねえだろ」
冬星「一応」
沈黙。
(なにこれ)
試されてる感じ。
でも。
逃げるのも、なんか違う。
少しだけ迷って。
手を伸ばす。
額に触れる。
昨日より、普通の温度。
でも。
距離が、近い。
(近いって)
すぐに手を引く。
琉夏「……ない」
それだけ言う。
冬星「そ」
短い返事。
でも。
ほんの少しだけ、空気が緩む。
さっきより、自然になる。
琉夏「……満足かよ」
冬星「別に」
いつものやり取り。
でも。
どこか違う。
少しだけ沈黙。
でも、もう変じゃない。
琉夏「……今日暇?」
ぽつりと聞く。
冬星「まあ」
琉夏「スタジオ行く?」
自然に出た言葉。
冬星が、少しだけ頷く。
冬星「行く」
それで決まる。
特別なことは何もない。
でも。
昨日より、少しだけ。
距離が近いまま。
そのまま、続いていく。
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