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「ディオン、おはよう」
「……あぁ」
リディアが食堂に行くと、ディオンは直様席を立った。皿を見ると明らかに半分以上残されている。まだ食べ終えていない事は明白だ。
「ねぇ、まだ残って……」
だがディオンは早々に食堂から出て行ってしまった。
あの日を境にディオンから避けられている。リディアは朝はディオンが屋敷にいる時間に早起きをして、夜は帰って来るのを遅い時間まで寝ないで待っている。休みの日を調べてわざわざ休みを被せたりもしていた。
だが先程の様にディオンのリディアへの態度は頗る冷たく、目すら合わせてくれない。呼び止めても無視される事が殆どで、どうする事も出来ない。
ため息を吐きリディアは兄の座っていた隣の席に腰を下ろした。
「……」
少し前までは一緒に食事を摂って、他愛無い会話をしてたまに喧嘩して……。まだそんな経っていない筈なのに酷く懐かしく感じた。
ディオンは今、完全に逃げに走っている。兄が一体何に怖気付いているのかは分からない。やはり血の繋がりがなくとも兄妹である事で引け目を感じているのか、それとも別に何かあるのか……。
何にしてもリディアは譲る気は毛頭ない。覚悟は決めた。これからディオンとどうしたいかなんて、正直分からない。だが自分の気持ちから、兄の想いから逃げたくない。絶対にディオンの口から本心を言わせてやる。それからこれからの事を二人で話せば良い。
「それで……いいよね」
兎に角、先ずは逃げ回る兄をどうにかする事が先決だ。これでは話す事もまともに出来ない。さて、どうやって捕まえようか。リディアは頭を悩ませる。
「剣術大会?」
その日の昼休み、シルヴィとお茶をしていたリディアは目を丸くした。
「そうなの。毎年騎士団内で開催してるらしいんだけど、見物する事も出来て……。私これまで全然興味なくて見に行った事はなかったんだけど、兄……フレッドがどうしても見に来て欲しいらしくて……。なんでも彼、友人がいないから応援してくれる人がいないそうなのよ。可哀想よねー。だから、その」
何処か余所余所しいシルヴィに違和感を感じながらもリディアは二つ返事で了承をした。
「うん、いいよ」
「え、本当に? 兄さ、じゃなくてフレッドも喜ぶわ~……」
剣術大会なんて初耳だった。ディオンと真面に話す様になったのも最近だし、噂話に疎いリディアには知る由もなかった。
「剣術大会、か……」
無論ディオンも参加するだろう。
幼い頃はお遊び程度に剣の稽古を一緒にしていた事もあったが、大人になってからはディオンが剣を振るう姿を見た事はない。
思わず喉を鳴らす。物凄く興味がある。きっと、絶対強くて格好良い……と思う。想像しただけで顔が熱く感じた。
「聞いた話だと意外と見物人は女性が多いらしいのよね。なんでも団長二人が目当てとか」
瞬間一気に冷めた。確かにディオンは女性に人気がある。何処ぞの令嬢等からの黄色い声が、兄を応援する姿が目に浮かぶ。想像しただけで苛っとしてきた。
暫し苛々が収まるまで黙り込んでいるとある事に気が付いた。
「シルヴィちゃん、大丈夫? 顔色が悪そうだけど体調でも悪いんじゃ」
「え、ううん! だ、大丈夫よ。ありがとう、リディアちゃん。ふふふ」
やはり何時ものシルヴィとは違う様に感じる。風邪でも引いたのではないかと心配になった。
「明後日の剣術大会愉しみね」
誤魔化す様にシルヴィがそう言って笑った。