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#カンヒュ好きと繋がりたい
八つ橋さん
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八つ橋さん
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#女主人公
coco🌹🫶
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「今度は逃がさないから」
「ホントに、しつっこい女だな、アンタ」
「私からの要求はひとつ。徽章を返して。あれは大切なものなの」
宙を浮く氷柱の数は六本
その標的に自分が入っていることに冷や汗をかきつつ、スバルは無言で彼女たちのやり取りを眺めているしかない
「兄ちゃん。さてはまんまとアタシをはめたな?」
「怪しいとは思ってたんだ。グルだったんじゃねーか」
『これはちょっとマズいよ』
『双方から疑われてる』
「どういうこと?仲間なんじゃないの?」
「小芝居すんなよ」
「あーあ、クソ。騙された!」
「フェルトは徽章を返してやれよ。そんで君は早くこっから出ていく。もう盗られたりしないようにな」
「なんで親身になってくれてるのかわからなくて釈然としないんだけど」
「納得いかねーのはアタシも一緒だよ」
『あ…ヤバい感じがする…昴、エルザだ、』
『パックに防げって、お願い!』
「パック!防げ!!」
嫣然とした微笑みが室内の影を通り抜け、飛びかかる
わずかに身を伏せる偽サテラの後頭部、そこに淡く青に輝く魔法陣が展開
それが叩きつけられる刃を正面から受け止め、凶刃から完全に守り通していた
「なかなかどうして、紙一重のタイミングだったね。助かったよ」
「助かったのはこっちだ。あんがとよ」
『日没前だから、パックも健在なんだよね』
「精霊、精霊ね。素敵。精霊はまだ、殺したことがなかったから」
『おっかない…本当にヤバい、感じ取れてよかった』
元々咄嗟の直感や判断、気配察知などには常人らしからぬ才能がある澪
しかし本来であればエルザクラスに気付けるはずもなかった
それが異世界に来てからは、まさに絶好調と言って良いほど冴え渡っていた
「おい、どーいうことだよ!」
「ここを血の海にしようってんなら、話が違うじゃねーか!」
「予定を変更することにしたのよ」
「この場にいる、関係者は皆殺し」
「あなたは仕事をまっとうできなかった」
「――――ッ」
フェルトの表情が苦痛に歪んだのは、恐怖ではない別の感情に見えた
「てめぇ、ふざけんなよ――!!」
「こんな小さいガキ、いじめて楽しんでんじゃねぇよ!腸大好きのサディスティック女が!!超恐いんだよマジ会いたくねぇんだよ!俺がどんだけ痛くて泣きそうな思いしたと思ってやがんだ!刃物でブッスリやられるたんびに小金貰ってたら今頃俺は億万長者だ!!」
『昴らしい』
「……なにを言ってるの、あなた」
「テンションと怒りゲージMAXでなにが言いてぇのか自分でもわかんなくなってきてんだよ!そんなお日柄ですが皆様いかがお過ごしでしょうかチャンネルはそのままでどうぞ!」
「やっちまえ、パック!!」
「見事な無様さだったね。ご期待に応えるよ」
立ち尽くす彼女の周囲、全方位を囲むのは先端を尖らせた氷柱、それが二十本以上
「ボクの名前はパック。名前だけでも覚えて逝ってね」
直後、全方位からの氷柱による砲撃がエルザの全身に叩きつけられていた
「やりおったか!?」
「はい、ここでダメなフラグ!!」
「備えはしておくものね。重くて嫌いだったけれど、着てきて正解」
白煙を切り裂くようにして、黒い外套を脱ぎ棄てたエルザが飛び出していた
「脱ぐことで身軽になる感じの展開!?」
「それも面白いのだけれど、私の外套は一度だけ、魔を払う術式で編まれていたの」
低い姿勢からエルザが刃を正面へ、 そこに立つのは大技を放ったばかりの偽サテラだ
「精霊術の使い手を舐めないこと。敵に回すと、恐いんだから」
多重展開された氷の盾が、エルザの刃を易々と食い止めていた
一撃を止められたエルザは即座に回避
それを追うように地面に突き立つのは、氷柱の連撃、それはパックによるものだ
「アレが精霊使いの厄介なところじゃ」
『まあ、ラインハルトくんやエルザには敵わないものの、相当強い感じの子だよ』
『パックを含めて、の話だけど』
「ところで、爺さんはなにをしようとしてんだ?」
「機を見て、助太刀をな」
「やめとけ!右腕と首を切られてやられんのがオチだ」
「具体的な負け予想するでないわ!」
無数の氷塊が次々と生み出され、室内を縦横無尽に乱舞しているが エルザは身を回し、重力を無視した回避行動をとる
「戦い慣れしてるなぁ、女の子なのに」
「不憫なくらい強いもんだね」
「精霊に褒められるなんて、恐れ多いことだわ」
物量によって攻勢はパックが押しているが、決定打に欠けるのは事実だった
「このままだとMP切れして負けるんじゃねぇか?」
「えむぴーとやらがなにかはわからんが、精霊使いの戦いでマナが切れる心配はいらん」
「マナが切れる心配がないっつーのは……」
「精霊使いが使うのは己の中でなく、外にあるマナじゃからな。世界が枯渇しない限り、弾切れは存在せん」
「なんたるチート」
「だが、精霊抜きじゃと、一気に形勢が傾くかもしれんぞ」
「……そろそろ五時とか回るか!?」
『こんだけ激しい戦いをしてるんだから…不安的中かも』
「あ、今ちょっと寝ながら戦ってた」
「ちょっと、しっかりやってよっ」
「……はっ!寝てない!寝てないよ!」
「楽しくなってきたのに、つれないわ」
「もてるオスの辛いところだね。女の子の方が寝かせてくれないんだから」
「そろそろ幕引きといこうか。同じ演目も、見飽きたでしょ?」
「…足が」
エルザの右足が凍結した床に縫い付けられていた
「無目的にばらまいてたわけじゃ、にゃいんだよ?」
「……してやられたってことかしら?」
「素直に賞賛してくれていいとも」
両手が前に突き出され、そこに魔力が集中
純粋な破壊のエネルギーとして発射された
直撃を受ければ氷像となるのは免れない
『…はぁ…本当に、エグいよこのお姉さん』
「嘘、だろ……」
「嘘じゃないわよ」
「……そういうのはボク、感心しないなぁ」
魔法の射線上からわずかに離れ、素足で立つ彼女の右足からはおびただしい出血が見られる
「早まって切り落とすところだったわ」
「それだけでも、痛いだろうに」
「痛いわ、素敵」
「ちょっと動きづらいけど、十分よ」
『…やっばぁ…この人不死身かなんかかも、多分再生力が尋常じゃないよ、昴』
澪の人の本質を見抜く力も、元々はジャンケンで相手が次に出す手が3割の確率でわかる程度だったのだ
しかし、この世界に来てからは遥かに精度が上がっていた
「パック、いける?」
「ごめん」
「あとはこっちでどうにかするから、今は休んで」
「なにかあれば、オドを絞り出してでもボクを呼び出すんだよ」
「ああ、いなくなってしまうの。それはひどく、残念なことだわ」
ククリナイフを構え直し、エルザは偽サテラへ向かう
氷柱が次々と生み出されるが、手数はパックが放ったものに比べればだいぶ減っている
「そろそろ、ただ見てるだけってわけにはいかんな」
「加勢なしの勝算はもうわからん。なら黙って見とるのも機を逃すだけじゃ」
「わかってるっつーの」
「さっきはなんだ……ちょっと、救われた」
「…はい?」
「ちょっとだけだけどな。アタシはこれでも十五だ。兄ちゃんとほとんど変わんねーだろ」
「……俺は今年で十八だ」
「見えねー!顔がガキすぎ」
ロム爺は腕力で、フェルトは脚力で、偽サテラはその魔法力で戦いに臨むことができる
だが、エルザの異常性はそれらを凌駕していた
「押され始めたの」
「行くぞ――ッ!」
雄叫びを上げてロム爺が戦線に参加する
「あら、ダンスに横入りなんて無粋じゃないのかしら」
「そんなに踊りたければ最高のダンスを躍らせてやるわ!」
しかし
「なん、じゃそらぁぁ!!」
「あなたが力持ちだから、こんなこともできたのよ」
突き出された棍棒の先端、そこに軽くつま先を乗せたエルザの姿があり、 刃が真横に振られる
「させっかーっ!」
カインッ、と横一文字の斬撃を叩いたのは投擲された小型のナイフ
「悪い子」
身軽に着地して、視線だけで振り返るエルザがフェルトを見た
「覚悟も戦う力もない。ならばせめて部屋の隅で、小さくなっているべきだったのに」
踏み込みの音は高く、エルザの黒影は一瞬で滑るようにフェルトの眼前へ
『昴、後悔しない選択を!!』
「はいだらぁぁぁぁぁぁーーっ!!」
とっさにその小柄な体を抱きかかえて飛べたのは、スバルだった
振り返ると、驚いた顔をして立ち尽くしているエルザ
エルザは動きかけたが、背後から氷柱の連射に防御へ移行
「大丈夫か!?」
「どうして」
「体が動いたんだよ!!もう後悔はしたくねえ!!」
「よし、空元気でも元気、蛮勇も勇気」
「兄ちゃん……」
「よく聞けフェルト」
「俺は今からどうにか隙の一個でも作ってみせっから、その間にお前は逃げろ」
「アタシにケツまくって逃げろってのか!?」
「そうだ、逃げちまえ」
「お前が一番年下、お前が生きる確率が一番高いとこを選ぶのが当たり前だ」
「な、んだよそれ…」
「俺の勇気がもつ間に、とっとと逃げろや」
「一発、牽制ぶちかましてやれるな。……無駄にでかい素振り用の竹刀、毎日振ってて正解だったぜね」
『タイミングは私が掴む、合図したら無我夢中で棍棒振り下ろしてね』
「おーけーおーけー、あんがとな!」
大きな氷柱を切って落とし、エルザの視界が完全にこちらを死角に入れた瞬間
『今!!』
スバルは棍棒を振り下ろしていた
「ふし!」
火事場の馬鹿力が出たのか、振られる棍棒の速度は予想以上の加速度
「狙いは上々。でも、殺気が出過ぎてて見え見えなのが残念」
「それの制御方法は知らねぇや!」
真後ろからの打撃に対し、エルザは刃の峰で棍棒を叩き、軌道をそらして回避を実行
「今だ!フェルト!!」
「――――ッ!!」
速度はトップスピード、まさしく目にもとまらぬ速さで出口を目指す
「行かせると思う?」
それを阻むのは、エルザが懐から抜き放った投げナイフだ
『テーブルを蹴って!』
「行かせてほしいなってのが願いだ!!」
指示通りに真横にあったテーブルを蹴り上げて、スバルはそのナイフの進路を阻んだ
「すげぇ!……ぶふがるっ!?」
長い足に側頭部を蹴り飛ばされて、壁に激突させられる
「珍しく、少しだけ腹立たしいと思ったわ」
「ははーん、ざ・ま・あ・み・さ・ら・せ!逃がしてやったぜ!」
立ち上がって気丈に振舞い、エルザの注意を惹くように挑発
「いいわ、乗ってあげましょう」
「こっちの相手も、忘れないでよねっ!」
正面からの相対、それを背後から急襲する氷をことごとく打ち落とすエルザ
「そろそろ見飽きたのだけれど……まだ私を楽しませられそう?」
「秘められた真の力とかがあるなら、今のうちに出しといた方がいいと思うぜ」
「……切り札はあるけど、使うと私以外は誰も残らないわよ」
「まだやれる!まだやれるよ!」
「やらないわよ。一生懸命、あなたが頑張ってるのに」
「さっきの俺の言葉はなし!全部なし!マジ燃えてきた、やってやるぜ!!』
『やってやろうか、私と昴に敵無しってね!』
直感、分析、その場の判断に優れており、その上で武の道を歩んできた澪は戦闘指揮に向いているだろう
加えて瞬発力はピカイチの昴だ、相手がエルザのような規格外で無ければ基本的に勝てるだろう
最も、タッグの真価を発揮できるのはお互いが覚悟万全で全力で暴れる体力があり、命の危機で研ぎ澄まされた感覚と火事場の馬鹿力がある時と限られているのだが
「元気が有り余っているようね」
「俺と澪のタッグ、舐めんなよ」
「あら、あなたも精霊使いかしら?」
「似たようなものだ!」
スバルは思いっきり棍棒を振り回し、 豪風は横殴りにエルザに襲いかかる
容赦ゼロのフルスイングは直撃すれば一部挽肉になってもおかしくない威力だが
「そんな簡単には勝てねえよな!」
エルザは慣れた動きでさらに姿勢を低くし、回避してきた
「蜘蛛女が!」
「糸に絡め取られたのは間違いないけれどね」
伸び上がってくる刃が見えて、とっさに体を後ろへ倒す
『大丈夫、走馬灯とか考えなくて良いから!』
「氷の盾、ナイスカバー!!」
「狙ったところに作るのは得意じゃないの。危うく、氷の彫像ができるところだったわ」
「俺じゃなくてエルザのだよね!?」
氷の弾幕がエルザへの牽制を再開する
「羽虫がそろそろ目障りになってきたわ、落とし所かしら」
「虫けら舐めんなよ!!」
「安全地帯からものすごーく、えらっそうね」
『今出たら氷に当たってバッドエンドだから、出ないでね』
『即席のチームワークの無さが原因』
じり貧の状況に変化はなく、 次第に切り傷が増える
『致命傷はなんとか避けてるけど、浅い傷まで全部防げる指示は出せなかった…ごめん』
「だいじょうび!致命傷防げてる時点で澪はすごく優秀だから!!」
そう叫んだ直後に回し蹴り
「はい、掴んだ」
「げ」
ククリナイフはスバルの上がった足の付け根を狙っていた
「ぬおおお!燃え上がれ俺の中のなにか!!」
『昴、ちょっと切れる可能性はあるけど昴の想像通りにはならないよ』
『断言しようか、もう大丈夫だって』
『絶対的勝利フラグの気配がするから』
「信じるぞ!!信じるからな!!」
斬撃が容赦なくスバルの足に到達するかしないかの瀬戸際
「そこまでだ」
屋根を貫き君臨する炎に、 エルザすらも動きを止めた
『エルザよりもエゲつない、ラインハルトくんの登場です』
「危ないところだったようだけど、間に合ってなによりだ」
ただひたすらに純粋な、『正義感』を空色の瞳に映した青年が、かすかに微笑み
「舞台の幕を引くとしようか」
風に乗った体は入口を通り抜けた瞬間に絶望から解放されたのを感じ取っていた
戦いは続いているのだ、 逃げ去り、なにもかもを置き去りにしたとしても
「なにを考えてんだ、アタシは」
「そーさ、逃げよう」
貧民街の道の中でも、ここを根城にしている人間しか知らないルートを選べばいい
今頃は死んでいるかもしれないスバルだって、自分を逃がしたのだから、逃げ切ってもらった方が浮かばれるに決まってる
決まってるのに、
「誰か、誰かいねーのかよ!」
フェルトの足が駆け抜けるのは大通りへ繋がる貧民街の本道だ
あの殺人者に対抗できる力を持った誰かでなくてはならない
フェルトはこの土地で決して好かれている存在ではなく、 厄介事を抱えている彼女を受け入れる相手など、ロム爺以外にはいない
そのロム爺や、 フェルトを逃がそうとしたスバルがこのままでは殺されてしまう
おかしな感情で、意味がわからない
ロム爺ならともかく、あんな出会ったばかりの少年が死んだところで何が悪い
でも、 少年の行動に何かを感じてしまった自分がいるのだ
だから、フェルトは走った
そして、駆け抜けた先で彼女は
「お願い、助けて」
「わかった。助けるよ」
赤い炎のような青年と出会った
「 遅れてすまない」
「それだけ特徴があれば見間違えたりはしない。君は『腸狩り』だね」
「なんだその超物騒な異名……」
「その殺し方の特徴的なところからついた異名だよ」
「ラインハルト…騎士の中の騎士。『剣聖』の家系、すごいわ、楽しい相手ばかりだなんて」
「投降をお勧めしますが」
「飢えた肉食獣が我慢できるとでも?」
「仕方ない。スバル、少し離れていて。できればあの老人を安全圏へ」
「かしこまり……化け物みてぇな女だから、油断しないでな?」
「幸いなことに、怪物狩りは僕の専売特許でもあるんだ」
「――しっ」
鋭い呼気を放ち、エルザが手にしたククリナイフを首目掛けて一閃
スバル相手の手加減を失い、空気すら殺し尽してラインハルトの細い首に襲いかかる
『あ、言っておくけど』
『ラインハルトくんに心配とかしたら終わりだからね、昴』
「女性相手に、あまり乱暴はしたくないんですが……」
「失礼」
踏み込みで床が破裂し、衝撃波が発生するほどの蹴りがエルザを吹き飛ばしていた
「いやいやいやマジかよ……」
『だから言ったじゃん、本当にエグいって』
「お前のセンサーの正確性に驚かされるよ」
『それに関しては自分でも驚いてるけどね、今は絶好調なんだ』
「噂以上の存在なのね」
「その腰の剣は使わないのかしら。伝説の切れ味、味わってみたいのだけれど」
「この剣は抜くべきとき以外は抜けなくてね」
「安く見られてしまったものだわ」
「僕個人としては困らされる判断ですよ」
『昴、そこの両手剣ラインハルトに投げて』
いや、オンボロだぞ!?
『それで充分』
おーけー
「ラインハルト、これ使え!!」
「ありがとう、スバル」
「素敵だわ。楽しませてちょうだい、ね!」
獲物を握ったラインハルトに対し、先制するのは身を横に回したエルザだ
四本の投げナイフが射出され、 弾道の違いが回避行動の妨害を生んでいる
「当然、生じた隙には乗じさせてもらうわ」
「すまないが、飛び道具は僕には届かない」
呟きの直後、物理法則が狂う。 直線上にラインハルトの身を置いていた投げナイフ、それが軌道を変えたのだ
「生まれながらに与えられたものでね」
ナイフは牽制の役目すら果たさず、続く交差は真っ向からの一騎打ちと化す
斬撃に跳躍の速度を乗せるエルザ、それを受けて立つラインハルトは剣を真下から上へと振り抜く構えだ
彼の手の中にあっては、粗悪品の刃ですら、まるで伝承に語り継がれる名剣のような輝きを放ってみせる
刃は狙い通りにククリナイフの刃元に命中、エルザの手から刀身を舐めるように奪い去っていた
「武器を失ったのなら、投降をお勧めします」
スバルはいそいそと戦場から距離を置き、 倒れているロム爺の側に近寄り、巨体を引きずってどうにか壁際へ
「ロム爺、ロム爺。おい、ハゲ、コラ、生きてんのか?」
「うぅ……誰が……ハゲ……」
「あんたに決まってんだろ、他にいるか」
弱々しいながらも返答をする額を叩いて、スバルは安堵の吐息をこぼす
「その人、大丈夫そうなの?」
彼女は昏倒するロム爺のケガの具合を確かめて、「これは治療しないと」と呟き、淡く青い輝きを掌にまとい始めた
「おいおい、言っとくけどこの爺さん。お前の徽章を盗んだ一味だぜ?」
「これも私のための行為よ」
そのやりとりの横で、澪はただ見惚れていた
膝を屈したままのエルザの表情は見えないが、ラインハルトは彼女から戦意を奪ったと判断したのだろうか
ボロ剣を持つ手を下げたまま、無防備にエルザに歩み寄る
『一応二本目の忠告』
「二本目があるぞ、ラインハルト!」
エルザの腰から引き抜かれた二本目のククリナイフが、のけ反るラインハルトの赤い前髪をわずかに切り捨てる
「よくわかったわね」
「実体験があったんでな!」
「ただし、牙は二本だけではないの」
「全ての武器を切り落とせば、満足してもらえるかな」
「牙がなくなれば爪で。爪がなくなれば歯で。歯がなくなれば骨で。骨がなくなるのならば命で。それが戦闘狂というものよ」
腰から三本目のナイフを抜き、二刀流を構えるエルザが再び跳躍する
彼女は部屋の重力を無視した機動でラインハルトの攻撃を集中させない
「まさかラインハルトですら、決め手に欠けるってんじゃねぇだろうな……」
『さっきロム爺が言ってたじゃない、精霊術師は周囲のマナを扱うって 』
『ラインハルトくんの化け物ぶりからして、本気を出すとマナが全部そっちに行くから、治療が終わるまで本気が出せない』
『かな?と思ってる』
「…こっちに、気を遣ってるのよ」
「私が精霊術を使ってるから、彼は本気が出せないの」
『ほらね』
「なるほどな」
「そろそろ治療が終わる。合図したら、彼に声をかけて」
「りょーかい」
次第に血の跡や傷口が消えてゆき、感嘆するスバルの前で偽サテラが深い息を吐いた
「お願い」
「ラインハルト!やっちまえ!」
彼はかすかに顎を引いて応え
「なにを見せてくれるの?」
「アストレア家の剣撃を」
直後、盗品蔵の中の空間が引き歪むような感覚をスバル達は得た
「は?」
視界に入る大気が歪む
「え、あれ、おい」
「ごめんなさい……ちょっと、肩を貸して」
寄りかかってくる銀髪の少女を、スバルはわたわたと慌てながら支える
「どうした、急に体調でも悪く……」
「違うの。マナが……わかるでしょ?」
「あ、あぁ」
『わかってないでしょ』
黙っとけ
『にしても、凄いね…これは』
部屋の中央で、ラインハルトが両手剣を構える
「『腸狩り』エルザ・グランヒルテ」
「『剣聖』の家系、ラインハルト・ヴァン・アストレア」
すさまじい剣気が室内を押し包み、向かい合う二人の戦意が大気を震わせる
黒衣の殺人者と軽装の英雄が向き合い、打ち合う鋼は血に濡れた短刀と古びた両手剣
互いに名乗りを上げて、これから一騎打ちに臨もうとする二人
「――――ッ」
息を詰める叫び、それが誰のものかはわからないが、 その結果だけは三人のいずれもが見た
極光が屋根を失った盗品蔵を引き裂き、空間ごと真っ二つに切り裂いた
ずれた空間が元に戻ろうと収束を始め、大気が歪曲するほどの威力の余波が部屋の中を暴風となって荒れ狂う
「なんじゃ、こらぁ!?」
『…あぁ、恐ろしいほどに美しい」
『百億回戦っても勝てる気がしないね』
「なにが化け物狩りは自分の領分だ。お前のが化け物じゃねぇか!」
「そう言われると、さすがに僕も傷付くよ、スバル」
そして彼の手の中の両手剣は…
「無理をさせてしまったね」
鋼の刃が朽ちるほどの一撃、それを受けたエルザは
「肉片ひとつも残ってねぇのか?」
世界ごと切り裂くような斬撃のあとには、何も残っていない
「でもこれで……」
「無事に、終わったの?」
「ああ、どうにかな」
「じろじろと、どうしたの?』
「手足はもちろん、首もちゃんとついてるよな」
「……当たり前でしょ?」
「そうだな、当たり前だよな」
「そういや、ラインハルト。まだ礼を言ってなかった。マジ助かった。俺の心の叫びが聞こえたのかよ、友よ」
「それができたなら僕も胸を張るんだけどね、友達くん」
肩をすくめるラインハルトが示した先には、 金髪の少女がいた
「彼女が必死で僕に助けを求めたおかげで、僕はここに来れた」
「あの子は……」
「ここは俺の顔に免じて、氷の彫像の刑は見送ってくれよ」
「そんな乱暴しないわよっ。というか、あなたの顔に免じてって……」
そんなこちらのやり取りを見て、ラインハルトは小さく嫌味なく笑うが、
『昴…!!』
「スバル!」
ふいに響いたラインハルトの叫びと澪の緊迫した声に、窮地を脱していなかったことを悟る
「――――ッ!!」
廃材が跳ね上げられ、 ククリナイフを握りしめながらエルザは、無言で疾走する
「てめぇ――ッ!」
『狙いはあの少女…1発防げればラインハルトくんが対処できる』
『昴、腹、大怪我覚悟して棍棒でガード、あの子を守るのが最善』
その声の途中で、澪の真意に気付いたかのようにスバルは動いていた
「狙いは腹狙いは腹狙いは腹ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
偽サテラを庇い、棍棒で腹の上をガード…そして衝撃
衝撃で地から足が離れ、世界が百八十度回転
どれだけ飛ばされたのかもわからないまま、壁に激突する
「この子はまた邪魔を」
ぶっ飛んだスバルを見ながら、エルザが悔しげに舌を鳴らす
「そこまでだ、エルザ!」
「いずれ、この場にいる全員の腹を切り開いてあげる。それまではせいぜい、腸を可愛がっておいて」
彼女は廃材を足場に、建物を飛び越えて行った
「ご無事ですか」
「私のことはどうでもいいでしょう!?」
偽サテラは倒れているスバルの側へ向かう
「無茶しすぎよっ」
「…ら、楽勝楽勝。無茶する場面だ…あいつが狙う場所も当てがあった」
「今度はもう、完璧にいなくなったよな?」
「すまない、スバル。さっきのは僕の油断だ」
「そっから先は言及無用だ」
謝罪を口にしかけるラインハルトを制止して、スバルは笑みを向ける
それから振り向き、自分を見上げる銀髪の少女と視線を合わせた
左手を腰に当て、右手を天に向けて伸ばし、スバルは高らかに声を上げる
「俺の名前はナツキ・スバル!まず聞こう!」
「な、なに…」
「俺ってば、今まさに君を凶刃から守り抜いた命の恩人!ここまでOK?」
「おーけー?」
「よろしい?ってこと。ってなわけで、OK?」
「お、おーけー」
「命の恩人、相応の礼があってもいいんじゃないか?!」
「私にできることなら」
「俺の願いはただ一個だけだ」
「うん」
歯を光らせて、指を鳴らして、親指を立てて決め顔を作り、
「君の名前を教えてほしい」
「ふふっ」
「エミリア」
「え……」
「私の名前はエミリア。ただのエミリアよ。ありがとう、スバル」
と彼女は手を差し出した
スバルも笑い、エミリアの手を握り返したのだった
と、ここで終わっていればいい話で終われたのだが
「それにしてもスバル、よく無事だったね」
「それがなきゃ、今頃は胴体真っ二つだ」
「そうだね。これがなければ」
ラインハルトは何気なく落ちていた棍棒を拾い、
「あれ」
その手の中で、棍棒は滑らかな切断面をさらして鈍い音を立てて落ちた
スバルは嫌な予感を感じ、ジャージの裾をまくる
ふいに、横一線に赤い筋が引かれた
「これ、俺にも先が読めた」
『うん、私にも読めた』
次の瞬間…スバルの腹部が横一文字に裂け、大量に鮮血が噴出
「スバル!?」
すぐ近くで、エミリアの切羽詰まった声が聞こえる
ラインハルトが焦りを浮かべ、エミリアがその整った面に悲痛な表情を象っている
焦ってたりしててもマジ可愛いな、異世界ファンタジー
そんな感想を最後に、スバルの意識は途絶えた
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いやっほおおお!!🔥🔥 第10話、めっちゃ熱かったーー!!😭💕 スバルくんがフェルト逃がすとことか、エミリアちゃんに名前聞くシーンとか、キュンが止まらんかった…! 最後の展開にはマジで「えっ!?」って声出たわ💦 ラインハルトくんの強さもカッコよすぎて鼻血出そうだったよ…! 続きが気になりすぎる…!!✨