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うん、いい。
文化祭の準備、練習をする時間は終わり、次々と教室に戻ってくる生徒たち。
その中に雲雀がいないかキョロキョロしてみたら、湊と一緒に教室に入ってくる雲雀を見つけた。
こちらに気付いたのか、笑顔で手を振ってくる雲雀。好き。
手を振ったと同時に、雲雀は湊を置いて素早くこちら側に歩み寄ってきた。隣の席だからかな?
「瑠花!部活お疲れ様!!!」
『う、うん、ありがとう。ひ、雲雀もお疲れ様…!』
「瑠花、緊張しすぎ。ほら、肩の力抜いて」
そう言っていつの間にか私の背後に回っていた湊は私の背中をさすってくれた。
ありがとう、と言って湊と目を合わせていたら、目の前にいた雲雀は再び頬を膨らませていて、思わずクスっと笑みが零れた。
「…」
『えっ、と…。…あ、も、もうすぐ授業始まるから…!す、座ろ?』
「…えっ、あっ、ほ、ホントだ!」
それぞれ席に座っていき、やがて先生が教室に入ってきた。同時にチャイムがなり、授業が始まる。
つまらない授業も残り10分だけとなり、集中も途切れてきていた。
ちら、と横目で隣の席をみると、気持ちよさそうにグースかと寝る雲雀がいる。
小さな寝息を立てて、幸せそうな寝顔をこちらに向けていて、なんだか愛らしさがあった。可愛い。好き。
「えー…じゃあここの問題は…渡会!」
「……んー…?」
『あ…』
何するんだ。せっかく気持ちよさそうに寝ていたのに。寝顔がもう見られないじゃないか。
「えっと…」
(ね、瑠花…、ここ、分かる…?)
すると突然、席を立ったままあたふたしていた雲雀に話しかけられた。
(えっ、と…きゅ、9だよ…!)
「えっと、9っ!!!」
「そうだな。で、ここが……」
無事、先生の問いに答えられてホッとしている私と雲雀。お互い目を合わせて、クスッと笑ってから雲雀に(ありがとう、教えてくれて)と小声で言われた。
好き。
少し時間が経った頃、鐘の音が教室に響き渡る。チャイムが鳴った。鳴った途端荷物を整理始めるクラスメイト達。次々と教室から出ていき、シーンと静まり返っている。
…でも、雲雀だけはまだノートを取っていて、ずっと下を向いているから黒板の字が消されてしまっているのに気付いてない。
いや、ちょちょちょ待って待って。
ノート、とってるんだよね?
少し体を斜めにして覗き込んでみたら、案の定絵を描いていて。思わずぷッと吹き出してしまった。
「っ!?ちょっ、えっ、みっ、見た!?」
『う、うん、ごめん…。そ、その…それ、猫…?』
「違うよ、ライオンだよ!!」
ええっ、これがライオン?
びっくりして目を見開く。彼の芸術はなんというか…独特で、あまり私には伝わらなかった。
「もう、瑠花は分かってないなぁ。」
『これは分からないよ…でも、ノートちゃんと取ってはいたんだね…』
「そりゃね!あんまよく分かんなかったけど。」
そう言って照れ隠しに頬をかく雲雀。計算が苦手なのは元々知ってて、授業寝てたのもそうなのかなって思ったけど、ちゃんとノートはとるんだ。偉いな。
そういうとこも好き。
「…ていうか、みんな帰るの早いね」
『…わ、ほんとだ。…あれ、湊いない』
いつも私が準備終わるまで待っててくれる湊が、教室にはいなくて、本当に二人っきりだった。
湊を探そうと思いスクールバッグを持ったら、雲雀が不思議そうにこちらを見た。
「どこ行くん?」
『え、み、湊を探しに行こうと思って…』
「あー…。わっちさん今日バイトあるからって言ってたよ。そういえば瑠花に伝えてって言われてたな…」
『あ、そっ、そうなんだ…!なるほど…』
なら今日は一人で帰るのか。
少し寂しい気持ちを心に閉ざして、椅子から立ち上がる。
すると、雲雀に腕を掴まれた。
『えっ、なっ、なに、…なに、?』
「…えっ?あっ、あぁ…。…えっと…」
『…??』
口をもごもごと動かしながら何か言いたげに黙り込む雲雀。片付けるの、待ってて欲しいのかな?少し期待をしてしまってる自分の心に(違う)と言い聞かせて、そう思うことにした。
『…えっと…て、手伝おうか…?』
「え?な、なにを」
『え…か、片付けるの。』
「あっ、ああ〜。いや、大丈夫っ…ほら!すぐ終わったっしょ?」
瞬きをする間にパパパッと机の上にあったものをバッグに詰め込んで、彼は笑顔で私を見た。
『あ…じゃあ、また、明日…』
「えっ?ちょっ、ちょちょちょ!!!」
再び腕を掴まれた。次は少し強めで。
『な、なに…?』
「その…。る、瑠花は部活あるの?」
『え?ま、まあ…5時まであるけど…』
チラ、と時計を見たら16時になっていた。
あと1時間しかない!
「…俺、今日部活あるからさ、その…5時だよね?終わったら、一緒に帰らん?」
『…え、』
顔がボッと熱くなる。
「顔赤。」
『いっ、いや、その…』
「もー、何回一緒に帰ってると思ってんの!早く慣れてよ」
『な、慣れないよ…』
何故、こう、彼は女子慣れをしてるのか。
恥ずかしさで胸がいっぱいになる。
『じゃ、じゃあ…また、後で。』
「ん!手芸部まで行くよ。」
『えぇえ?…わ、わかった…』
そう言って、お互い手を振りながら別々の廊下を歩いた。
『ふー…。…あ、』
文化祭の学校の装飾のために人形や飾りを作っていたら、あっという間に5時になっていて、周りは片付け始めていた。私も片付けようと編んでいた人形を袋に入れようとしたら、トントンと肩を叩かれる。
「日森ちゃんお疲れ様!片付けは私たち先輩がやるから、帰っていいよ!」
『え、いいんですか?すみません…鷹宮先輩』
彼女は鷹宮リオン。2年生で、手芸部の先輩である。唯一私がまともに話せる先輩。
何かと私に良く尽くしてくれる大好きな先輩で、私も彼女のことが大好きだ。だから、たまーに私の恋愛相談をプライベートでしてたりしている。ちゃんと私の好きな人もバレているわけで。
「それに…」
『はい?』
「君の連れ、ドアで待ってるよ?」
『えっ?………あっ…!!!』
鷹宮先輩の目線の先に目をやると、雲雀がドアに持たれて私をじーっと見ていた。
声、かけてくれればよかったのに。
『ひ、雲雀…!ごっ、ごめん、待たせて…』
「いいよ!じゃあ、帰ろ〜」
うん、と頷いて雲雀の方に向かう。ナイスポーズをする鷹宮先輩に軽くお辞儀をして、手芸部から出ていこうとしたら。
「なんか、日森さんって四天王と仲良いよね。」
「分かる〜。顔いいからかな?」
「顔いいだけじゃん。手芸もそこそこだし…」
「媚び売ってるとか?」
「有り得る〜」
ヒソヒソと、私の陰口が耳に入ってきた。同じ手芸部の子で、隣のクラスの子達。
イロアスと同じクラスの子達か…。
「…っ」
拳を握りしめて、唇を噛む雲雀がチラッと見えた。
『雲雀…?』
「…あ、いや、かえろ。」
『えっ?ぅわっ!』
腕を掴まれたと思ったら、思いっきり廊下を走る雲雀。
ひばりっ、足速い…!!!
息を切らしながら追いかけてたら、急に立ち止まってぶつかりそうになる。
『ひ、雲雀…?どうしたの、さっきから…』
「……瑠花は、あんなこと言われて平気なの?」
あぁ、聞こえてたのか。