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※空放/学パロ
空目線
暖かい風の香りがする春のことだ。
その人は、俺の前にあの頃と変わらない姿で現れた。顔も、声も、俺に触れるあたたかい手だって覚えているのに、君の口からはあり得ない言葉が漏れた。
放「…ごめん、誰?僕と君が恋人?ふふっ、笑える。人違いじゃないかな」
俺を見るその目は冷えきっていた。
俺より少し小さい背と、幼い顔立ちのわりに大人びた喋り方。
「旅人、」
――全部知ってる。
夢じゃない。
夢じゃない。
空「…ねぇ放浪者」
縋るように俺は言う。
放「なに?僕これから用事あるんだけど。君とお話する時間はないんだよね」
空「俺、旅人だよ。空。空って言うんだ。…ねぇ、これだけでいいから覚えて帰ってよ。それで、それで…――」
言葉が詰まった。
俺の存在を覚えていない放浪者に、どう思い出させればいいかわからない。
もう、あの頃みたいに笑いあうことはできないんじゃないか…?
放「…はぁ、いかにもな雑魚だね、君。恋人だのなんだの言ってるわりにはよそよそしい」
空「だって…!…いや、ごめん。本当にそうだと思う。俺…なんか自信なくなってきちゃった」
俯きながら俺は小さくつぶやく。放浪者の表情はわからない。
呆れられているかもしれない。
“友達”にすらなれないかもしれない。
沈黙に耐え切れず、気まずい空気を破ったのは放浪者が先だった。
放「自信なくなったって…君が僕に話しかけてきたのは今日が初めてだよ?もうはや自信なくしてどうすんの。そんなんじゃ僕も付き合ってられないよ」
空「…うん、うん。ごめん」
放「だから、どうすんの?僕は君を覚えてない。だけど君は僕を知ってる。思い出させる気があるんだったら何か言ってほしいんだけど」
あぁ、やっぱりそうだ。
嫌がりながらも完璧に拒むことはできない性格。
こういうところが、好きだった。
空「…まずは友達からでいいから、俺と一緒にいてほしい」
少しの沈黙の後、放浪者が口を開いた。
放「友達、ねぇ…。それじゃあ旅人、僕と一緒に下校でもするかい?」
思わぬ返答にパッと顔を上げ、目をパチパチさせる。
空「いい、の…?」
放「いいから言ってるんだよ。僕の気が変わる前に早く帰るよ」
ついてこないなら置いていく、と言う放浪者の足は、俺のことを待っているかのように小さな歩幅で進んでいた。
空「ははっ…」
放「なに、急に笑わないでよ怖い」
空「ううん、好きだなぁって」
空を見上げた俺の隣で、放浪者が少し頬を赤らめたように見えたのは、俺の都合のいい妄想だろうか。