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「ボス、ボス宛にお届け物です」 リンセンの言葉に、積まれていた書類の山から顔を覗かせるクラピカ。その表情は疲労ばかりで、もう何日も寝ていないことがうかがえる。見ている人を不安にさせるような不健康さが、クラピカの隈によく表れていた。
「私に? 誰から」
徐々に浄化されているノストラードファミリーには、少しではあるが感謝の意と共に贈り物が届くことがある。
収入減を用心棒と賭博に絞るというのは、それなりに難航した。元々繋がりのあったマフィアや、下請けのチンピラに襲われたり、、それらの対応は全てセンリツとリンセンに一任していたため、クラピカが実際に目にすることはほとんどない。
それに、ノストラードファミリーの変化に気がつく人間はいれど、実質の支配権を握っているのがクラピカだと知っているのはごく少数だ。ノストラードファミリーにクラピカ宛の届け物など、それこそ他の組による脅しか果たし状がほとんどで、それらの処理も、よっぽどの事情でない限り他の組員に任せている。
クラピカの誰からか、という問いには答えず、リンセンは置いときますねといって窓辺にそれを置いて本当に部屋から出てしまった。
贈られたのはスイートピーを基調としたピンクの花束。
心当たりの全くないクラピカは、一度席を立ち、その花束に近寄る。
罠、いやそんな気配はない。そもそもセンリツやリンセンが安全だと判断して持ってきたのだ。だが、誰が。
花束を持ち上げると、一片の紙が滑り落ちた。
「うかった キルア・ゾルディック」
それだけが書かれた簡素なメッセージカード。
「そうか、受かったのか」
そこにノストラードファミリー若頭としてのクラピカは無く、ただ、仲間の知らせを喜ぶ青年がいた。
気がついたら傍にいた。
キルアへの第一印象はあまり濃くない。
同い年のゴンと年相応にじゃれたかと思えば、齢十二にしては冷徹な哲学を持ち、かと思えば反抗期のような態度をとる。言葉に起こせば強烈なそれも、キルアと接するうちは至極自然だった。
もっぱらゴンとじゃれていたキルアだったが、時折レオリオをからかったり、ほか試験者をおちょくったりと、友好的とは言わないまでも人見知りのない性格であることがわかった。それだけに、そういった子供らしいところを私の前では見せてくれなかったことが、当時は少しだけ寂しかった。
代わりに、視線だけをよこされることがたびたびあった。
特段意味は無いのだろう。感情の乗っていないそれはあまりにもささやかで、最初は見られているとすら気がつかなかった。
ふとあたりを見回すと、かなりの確率でその青い瞳と視線がぶつかった。疚しさはおろか、意味さえないキルアに目を逸らす理由はない。こちらから見つめ返すことはないから分からないが、きっとそうなったとしても、キルアは真っ直ぐ瞳に私を捉えただろう。
意識してみれば気がついた以上にキルアはこちらを見ていた。
だからといって何かが変わることはないが、これも友好の証かもしれないと前向きに捉えれば、幾分か気が楽だった。
冷徹で悪戯好きで、猫みたい。
それがキルアに対する印象の全てだった。
だからこういった報告とともに花が送られるのも、キルアらしいといえばキルアらしい。別に情に薄いわけではないのだ。ただ、その発露の仕方が子供らしく不器用で、傍から見たら突拍子に見えたりするのだろう。
いま、彼らは楽しく過ごせているのだろうか。
思い、祈ることしかできないが、それが私たちの距離感だった。
ゴンに言われた通り、一本杉を目指して歩くと、確かに小屋の明かりが見え始めた。日は暮れ、自然が有する不気味さが一層深くなる時間帯。キルアは温かみのある木造の扉をノックした。
「ゴンに言われてきたんだけど」
「ゴン!?」
喜びを隠しきれない狐が勢いよく飛び出してきたかと思うと、キルアの顔を見て一瞬で怪訝な表情に変わる。だがそれもまた一瞬で、キルアからゴンの匂いを嗅ぎ取ったキルコは、すぐにキルアを客人として招き入れた。
一応、なにをされても対応できるように構えていたキルアだったが、流石のこれには呆気にとられ、ゴンってば変なやつに懐かれやすいよな、とかってに結論付ける。
「でさ、ゴンったらそこでライセンス売っちまったんだよ!」
促されるまま、キルアはこれまでの旅路を語った。逆に、キルアが一次試験で出会う前の三人の話しもキルコから語られ、相変わらずだなと呆れながらもどこか羨ましいなと思ったりもした。
「レオリオとクラピカは一緒に行動してねえのか?」
「ああ、レオリオは医者になるって勉強してて、クラピカは知らね。最後に会ったときはマフィアの用心棒的なことしてたけど、それもまだやってるかは分かんねえしな」
「はーん、意外とお前さんらってドライなのな」
別に、なんてことない一言だった。いつもなら他者からの見え方なんて気にしない。だが四人の関係がドライだと言われたことに、多少なりとも納得いってない自分に驚いたキルアは、でもわざわざ訂正することは無かった。
キルコの家で一夜を明かし、試験会場に送ってもらったキルアは、ゴンらとの出会いの場に懐かしさと、少しの寂しさを抱いていた。
ドライなのだろうか。
昨晩のキルコの言葉が、まだどこかに引っかかっている。確かに傍目からは分かりずらいかもしれない。だからといって目に見える仲良しこよしをする気は無い。
俺らには俺らの距離感ってものがあるの、と半ばやけくそな結論を出したキルアは、その場にいた試験者を全て倒して合格をもぎ取った。
グリードアイランドに戻る途中、花屋が目に入った。
何気ない日常に彩りを(メッセージカードつき!)
別に、わざわざ報告する気は無かった。会ったときに必要があれば言ったりするかもしれないが、お互いが遠く離れた今、報告する必要はどこにもない。
必要はどこにもないが、報告しない理由も特別あるわけではない。物として残るのはなんだか気恥しい、ぐらいのものだ。
キルコに言われたからではない。別に誰に認めて欲しいわけでもない。だが、クラピカやレオリオにも同じことを思われるのは、なんとなく癪だった。
戸を開いたキルアは、花の香に包まれる。