テラーノベル
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夜――再び、レイ宅。玄関を開けた瞬間、だぁとマモン、夢魔が目にしたのは――
「平気だよ!! まだ耐えれる! まだ、まだ!!」
リビングの中央で、ネグが顔を真っ赤にしながら叫んでいる姿だった。
その声は震えていて、喉が潰れそうなほどに力んでいる。
「だって、平気だって……無理して表情作らないと……マモンも、夢魔も、だぁも心配するから……心配させたくないから、こうやって嘘の仮面を被ってるのに、なんで、なんで!? いつまで、いつまで、この生活をすればいい…? あとどれだけ耐えれば大丈夫になるの、? ねぇ、教えて、ねぇってば!」
その姿にレイは、もう黙っていられなかった。
ネグの腕をガッと掴み、目をしっかりと合わせる。
「だから、もう被らなくてもいいんだって!! 苦しまなくても良いんだって!! なぁ!!」
けれど、ネグはレイの言葉を振り払うように、声を荒げた。
「嘘だ!! そんなの嘘だよ! だって、こうしなきゃ、なにも変わらないんだもん…! 変わらなかったもん!! わしだけが苦しめば、みんなハッピーだから、幸せになるから……!!」
その言葉と同時に、ネグはレイの胸をポコポコと蹴りはじめた。
力は弱い、だけど感情は痛いほど強い。
「いてっ、いてっ! ……おい、ネグ……!」
だぁとマモンは、すぐにネグに駆け寄り、そっと手を差し伸べる。
けれどネグは、その手を振り払った。
「これ以上、耐えるな! なんて無理だよ……! 見たくない悪夢は見るし、苦しいし、呼吸は出来ないし、、、少し吐き出しても重くなるんだもん……っ、頑張らなきゃって、逃げ出さなきゃって……何度も思ったけど、出来なくて…っ、だから……ひっく……っ」
段々と、ネグの声は途切れがちになっていった。
目から涙があふれ、呼吸が浅くなり――
「はっ、はっ……!」
ネグの身体が小刻みに震えはじめた。
完全に過呼吸状態。
「ネグ! 落ち着け!!」
マモンが背中をさすり、夢魔が優しく肩を抱く。
「大丈夫、大丈夫だよ、ネグ……」
「ここは大丈夫だから、な? 息をゆっくり吐いて、吸って……」
必死に声をかけ続ける2人の声が、少しずつネグに届く。
ネグは涙を流しながら、何とか呼吸を整え、力尽きたようにそのまま眠りについた。
その静けさの中――
レイがゆっくりと立ち上がり、だぁ、マモン、夢魔をリビングへ連れて行った。
「……言っとく。ネグの状態を。」
レイの声は低く、静かで、それでいてどこか痛々しかった。
「ネグは今、ほとんど毎晩悪夢を見る。何とか眠れる日もあるけど、結局途中で起きて、またパニックになったりするんだ。飯は……食える時は食うが、たまに手が止まる。誰かの声や名前を聞くだけで、こうして取り乱すことも多い。特に、すかー……あの名前が一番効く。あいつの声に似た音とかさえ、ダメだ。」
だぁも、マモンも、夢魔も、誰も言葉を発しなかった。ただ、静かに頷いた。
レイはさらに続けた。
「……だから、ネグにあまり余計なことは言わないでくれ。無理させるな。ネグはな、すげぇ頑張ってる。今はただ――それだけを信じてやってくれ。」
その最後の言葉には、いつもの軽さは一切なく、ただただ重みだけが残っていた。
3人は静かに頷き、レイの車で家まで送り届けられた。
その日は、それだけで終わった。
だが、その夜も、きっとネグは――
どこかでまた、嘘の仮面をかぶったまま、眠りについていたのかもしれない。
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