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朝方、レイが目を覚ました時――ネグはもう起きていた。
リビングの片隅、窓際でぼんやりと外を見ていて、目の下にはうっすらと隈。
何も言わず、ただ静かに息をしていた。
昨日の夜のこと――またあんなにも泣いて、苦しんで、眠った後。
だが、その面影をまるで忘れたかのように、ネグは静かだった。
レイは、そっと声をかける。
「ネグ……」
その声に、少し沈黙が流れた。
けれどネグは、トコトコと小さな足音を響かせてレイの方へ近寄ってきた。
「だい、じょーぶ、だいじょーぶ。」
ぎこちない笑顔。
ヨシヨシと、逆にレイの頭を撫でるネグ。
レイの手を掴んで、そのまま外へと引っ張り出した。
まるで――あの日の散歩を、もう一度やり直すように。
外は静かで、風が心地よかった。
ネグは無理やり作った笑顔を浮かべ、ぽつぽつと他愛もない話を続けた。
「ほら、あれ、かわいいね……」
「空、青いね……」
声は小さく、震えていた。
でも、笑おうとしていた。必死に。
けれど――
ふとした瞬間、ネグがピタリと足を止めた。
あの男の声に似た低い音。
あの男に似た身長の男が視界に入った瞬間。
「……ッ!」
ネグの肩がビクッと震え、顔から笑顔が消えた。
呼吸が早くなり、パニックの兆候。
レイは咄嗟にネグの肩を抱きしめたが、ネグはそのままレイの服を掴んで震えていた。
「……もう無理だ。」
レイの胸の中で、怒りがゆっくりと膨れ上がっていった。
そのままネグを家に連れて帰り、ソファに座らせ、そっと撫でながらこう告げた。
「……少し遅くなる。」
ネグはコクリと頷いた。
それを確認したレイは、家を出て――あの男の家へ向かった。
その家には、だぁ、すかー、夢魔、マモンの4人がいた。
レイが入ってくるなり、場の空気が一気に重くなる。
レイは静かに口を開いた。
「今日、ネグは……無理して笑ってた。『だいじょーぶ』って。」
誰も何も言わない。
レイの声が少しずつ冷たく、低くなっていく。
「ネグは……お前に似た声も音も、何もかもが怖くなってパニック状態になって、でも、必死に生きて……辛くて、苦しくても耐えて、俺たちのために耐えて……」
その視線は、真っ直ぐすかーを射抜いていた。
すかーは何も言わず、ただ俯いたまま。
レイはそれを見て、ついに堪えきれなくなった。
すかーの胸ぐらを掴み、殴りつけた。
「お前のせいで!! お前のせいで、アイツはこうなってんだよ!!」
力いっぱいの拳がすかーの頬を打つ。
「どうせ、お前は……ネグが逃げようとか言い訳をつけたんだろ!? じゃないとアイツが、ここまで傷つくわけねぇんだよ!!」
さらにもう一発。
すかーは何も言わない。ただ、ただ俯いていた。
「アイツは!! お前に殴られてから、ずっと苦しんでんだよ!! なぁ!!! 聞いてんのか!? おい!!」
また拳が振り上げられる。
それをだぁ、マモン、夢魔の3人が止めた。
「レイ、もうやめろ!」
「落ち着けって!!」
「離せ!!! こいつを殴らねぇと、ネグが可哀想だろ!! お”い! 聞いてんのか! 黙ったまま俯きやがって! ネグを殴って楽しかったか!? ストレス発散になったか!? 聞いてんだから答えろよ!!」
怒鳴り声が響く中、すかーはただ、唇を噛み締めていた。
何も言えなかった。言える資格など、どこにも無かった。
その時――レイのスマホが鳴った。
ネグからの着信だった。
スピーカーに切り替えると、弱々しい声が聞こえた。
『はっ、はっ、だい、じょうぶ……まだ、大丈夫だから……平気、平気だから、耐えなきゃ、も、と、、耐えなきゃ……』
その言葉に、レイの顔色が真っ青になった。
だぁも、マモンも、夢魔も、全員が凍りついた。
レイはすぐに家へ走り出した。
だぁたちも追いかけたが、レイの足は誰よりも速かった。
家に辿り着いた時――
ネグはソファで、すぅすぅと眠っていた。
疲れ果てたように、安心したように。
その寝顔を見て、レイはそっとネグの髪を撫でてからベランダへ出た。
夜明け前の冷たい風が、レイの怒りを少しだけ冷ましてくれた。
「……いつまで続くんだろうな、これ。」
心の中で呟きながら、静かに空を見上げた。
だけど、答えはまだ――どこにも見えなかった