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───PCから放たれる淡いブルーライトの光が自分と自分の汚くは無いが、所々物が乱雑に積み重ねられている部屋を薄く照らす。




「……もう…6時か。」


私は、1人残ったナイトコードで呟く。


そろそろ休憩しようかな、と頭にでてきた雑念を振り払うように頭を揺らす。


「…まだダメ…これじゃ前とまた同じ……」


再度光を放つPCに向き直り、作業を始める。


最近は少しずつ、まふゆのことを救えているのかもと感じる瞬間が度々見られた。


私の曲が、なのかは定かでは無いけれど泥沼に沈んでいくだけの彼女の手を最初の内はそれ以上沈んでしまわないように留めることしか出来なかった。


だが少し前から手から零れ落ちそうになっても泥沼からほんのちょっと、そうほんのちょっとずつ引き上げられている気がして私も心が救われていっていた。


「こんなんじゃ…こんな曲じゃ…」


けれど彼女の、まふゆの表情が徐々に曇っていくのが目で見ても分かった。


理由はおおよそ検討がついている。


十中八九、まふゆの母親が関係してる。

と思う。

きっとそう。

その、はずだ。

そう思っているのは私だけではないはず。

瑞希も、絵名も。


「ここの盛り上がり微妙…何パターンか作り直そう…」


けれど私には一抹の不安が頭から取れないでいる。


ニーゴの存在が、私の存在が、”呪い”となった私との関係が、まふゆをあの母親と同じように苦しめているのではないかと考えてしまって消えない。


「まふゆを…お父さんを…みんなを救えない私に……こんな曲に意味なんて…」


作業する手が止まり、そう呟いてしまった自分に怒りが湧いてくる。


「…だめ。作り続けなきゃ…!私が救うって、救ってみせるって言ったんだから…!だから……っ」


そう無理やり自分を奮い立たせた瞬間、ぐらっと視界が揺れる。


ガシャッ!バタッ!


私は座っていた椅子から転げ落ち、床に強く体を打ちつけた。


手を伸ばしても遠のいていく意識に抗うことは出来なかった。





ゆっくりと意識が戻ってくるのが分かり、重い瞼を開く。


「っ…うっ……何日…寝てないんだっけ…」

原因は明白だった。


もう既に作曲が思うように進まず、かれこれ5日はまとも寝れていなかった。


「我ながら…無茶してるな……」


他人事のように呟く。


「作曲…しなきゃいけないけど、少し休憩挟まないとダメかな…」


気を失ったことで少し冷静に頭が働いていた。


フラフラと立ち上がり、何か胃に入れてから少し休もうとキッチンへ歩いていく。


その時だった。


「ゔっ…ゴホッゴホケホッ…」


急に苦しくなり、口を抑え咳き込む。


なにか違和感を感じ、抑えた手を見る。


「何…これ…?」


自分の手には、黒く赤く嫌な感触の液体がついていた。


「もしかして……血…?どうしよう…っ吐き気もしてきた…こんなことしてる場合じゃ…ないのに…」


自分の身体が思うように動かせず、這うようにスマホを取りに行く。


「今日…誰も来る予定はない……ゲホッゴホッ…誰か呼ばなきゃ…」


何とかスマホを手に取り、私は縋る思いでナイトコードを開いてメッセージを打ち込んでいく。


「おぇっ…はぁ…はぁ……上手く打てない…」


上手く打ち込めない自分に苛立ちを覚えながらも必死に文章を送信した。


“助けて” という一言のメッセージと住所を記したマップ情報を何とか送ることが出来た。


送信してから少し経ったくらいから通知音がたくさんなっていたが、中身を見る余裕はなかった。


そこからは記憶がぼやけているが、とても長い時間助けを待ちながら座り込んでいた気がする。


知った声が聞こえた気がしたが、誰か探る気力は無くなっていき、また意識を手放していく 。



ピッピッと一定のリズムを刻む機械音が聞こえ、目を開ける。


「ん…んぅ……ここは…?」


白い天井に白い壁、独特な匂いを漂わせるこの部屋は病室なのだろう。


本や映像作品で良く見る展開みたいで、心の中で苦笑する。


瑞希「?か、奏?!目が覚めたんだね!!良かったぁ〜!本当に良かった…!」


身軽そうな動きで瑞希がこちらに寄り添ってくる。


瑞希「あっ、今はまだ動いちゃダメだからね…!長い時間手術室に入ってたんだからね!それに手術で出血が酷かったから…」


少し涙を浮かばせて瑞希は少し説教気味に言うと、私の腹部辺りを見つめる。


そういえば少しお腹辺りに痛みがある、いつも感じる単なる腹痛とはまた違った鋭い痛みを。


瑞希「少し長くなっちゃうけどちゃんと塞がるってお医者さん言ってたから安心して。」


「うん…ありがとう、瑞希。ごめんね…必死であんまり記憶がちゃんとしてないけど…ニーゴのみんなに急にメッセージ送っちゃったから驚かせたよね…」


申し訳なさで苦笑してしまう。


瑞希「もぉ〜ほんとだよー!みんなびっくりしてたんだからね!!でも良かったよ、私たちに連絡してくれて。びっくりはしたけどあんまり気負わないでいいからね。」


とても優しい口調で私を庇うように話してくれている。


ちゃんとした原因は分からないが、恐らく瑞希の内容を聞くに私の生活習慣が主な原因なのが伝わってくる。


さらに申し訳ない気持ちで溢れるが、瑞希は気負わずにと言ってくれたばかりなので口には出さず心に留める。


「うん、本当にありがとう。そういえば絵名とまふゆも急なメッセージで驚かせたから謝らないと…」


そう言いつつ、自分のスマホを探す


瑞希「ん、まふゆと絵名も病院に来てるよ!私よりあの2人の方が取り乱しちゃって大変だったから病院の売店に買い物しに行ってもらってるんだ〜」


「え、そうだったんだ…忙しいのに時間使わせちゃったね…」


さすがにここまで来ると気負わずにはいられない。


瑞希「も〜そんな気にしなくていいって〜。今日はみんな休みだから安心して。絵名は今日予定無かったみたいだし、まふゆは予備校終わらせてから来てるしね。私ももちろん暇だったからさ!」


予定がないとはいえ、勉強頑張った後に心配までかけてしまっているまふゆと好きなことに使える時間を潰させてしまった絵名と瑞希には頭が上がらない。


そう思っているとまふゆと絵名が病室に戻ってきた。


絵名「え!?奏起きてるじゃん!!?もう大丈夫なの!?どこかまだ痛いところない!?」


まふゆ「絵名、うるさい。奏、目を覚ましたんだね。」


絵名「なっ!うるさいって何よ!助けてってメッセージが来て返信は無いし、奏が血を吐いて倒れたって瑞希から連絡が来るし、心配は当然でしょ?!」


まふゆ「絵名、病院なんだから静かに。」


絵名は周りに気を使いながら、はぁ?と怒りを顕にしながらまふゆを睨んでいる。


まふゆはそんな絵名を冷たくあしらいながら続ける。


まふゆ「なんで倒れたか分かってる?」


まふゆは淡々と、だがさらに冷たく私へ言い放つ。


「え、えっと……睡眠不足、のせい?」


まふゆの冷ややかな目に、気圧されながらも答える。


まふゆ「はぁ…それだけじゃないけど分かってるならちゃんと休んで。」


呆れた顔でため息を吐かれてしまった。


まあ自分でもどうにかしなきゃいけないとは思っているのだが、それでも休む時間が惜しいと思うほど近頃は切羽詰まっていた。


その理由が目の前で私を諭してきているのがなんとも皮肉な状況だ。


「ご、ごめん…善処、してるつもりなんだけど…」


まふゆ「善処するだけじゃまた倒れるよ。」


「うっ…」


絵名「ちょっと!まだ奏起きてすぐなんだからそんな責めないのっ!!全く無神経なんだから!」


瑞希が絵名をどうどうと宥めているが逆効果のようだ。


「本当のことだから大丈夫だよ、絵名。まふゆも…ありがとうね、予備校終わってから来てもらってるらしいし…」


まふゆ「別に。」


瑞希の話を聞く限りでは、かなり心配してくれていたみたいだし最近のまふゆはより一層自分を封じ込めているような感じがしていたので、結果的には自分が倒れて良かったと思える。


その後も色々話しながら(ほとんど私に対する心配と説教だったが)、1,2時間経った。


そこからみんなは今日は一旦解散ということで各家に帰って行った。




病室で1人、夜空を窓から眺めていた。


「星、見えないな…」


まるで自分の中にモヤがかかっているみたいで、希望の光が遠のいていっているようで胸が締め付けられる。


これも寝不足のせいだろうか、そうであって欲しい。


「あのまま…消えてたらどうなってたのかな……」


そう言葉を口にして、自分の言っていることに身震いする。


私、何を言っているんだろう。


あんなにみんな心配してくれていたのに、まふゆだって。


「やっぱり…私なんていない方が……」


その先を口にしてしまえばおかしくなってしまいそうで、自分を許せなくなりそうで言い留まる。


「早く治して曲を作らなきゃ…」


「みんなを…救える曲を…」



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瑞希が私呼びになっていること、ここに深くお詫び申し上げます

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