テラーノベル
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「そうか…そうですよね。仕事を見つけやすいし、必要な食品の買い出しなんかも。あと、家具付きですし」
「よく知っているな」
「はい…いつまでも親と暮らせるような部屋でもなかったので、いろいろと調べていましたから」
「そういうことを何ひとつ知らない二人なのですよ」
運転手さんはそう言って、チラッと私を見た。
「知らないって、怖いですね……わぁ……また危な……」
「ママッ、ストップ!私を殺す気?」
遥香の叫びはもっともだわ……
階段を上がろうとする遥香を全く認識していない源田さんが、巨大スーツケースに振り回されるような状態で階段を降りて来る。
でも、重力に逆らう力も残っていないらしい源田さんは、左右に大きく揺れながら必死の形相で、落ちまい……落とすまいと一歩、一歩降りて来る。
身の危険を感じて踵を返した遥香が5段ほどを駆け下りる……と……
「きゃっ……ッ……いっ…たっ……」
最後の一段を踏み外して、床に崩れ落ちた。
もう遥香も体力の限界なのかもしれない…脚が絡まったのだろうか。
そこへ源田さんの持つスーツケースがゆらゆらと降りてくるから
「危ないっ、伏せてっ。座っていないで伏せてっ!頭っ…」
私は思わず、一歩前へ出て大声を出した。
「……ッ……」
遥香が階段を振り返りながら目を見開いて倒れたところを、スーツケースが通る……間一髪だ……頭を直撃するところだった。
「真奈美さんのおかげで、この家で死人が出なくてよかった」
「……そうですね…それは見たくないです」
私の頭をポンポン……とした篤久様と私を、寝そべったまま顔だけ上げて見た遥香が
「……真奈美……突っ立ってないで助けなさいよ……手伝いなさいよ……」
今にも泣きそうな弱々しい命令口調でそう言って、大理石の床に爪を立てる。
「命の恩人にそんな口しか利けないのは、あなたがよく真奈美さんに使っていた“底辺”という言葉を思い出しますね」
篤久様の言葉に唇が切れそうなほど、強く唇を噛んだ遥香を篤久様は見ていないようだ。
私が至近距離で視線を感じるもの…
「真奈美さんは心根が優しいからこんな相手に対しても危険を教えてあげた……咄嗟にそういう本質が出ますね。ご両親から頂いた性格、育ててもらった性格、どちらも素晴らしい」
「あ、あ、っと…ありがとうございます」
「優しいなら、助けてよっ!」
この泣き声で吠えた遥香を、もう見ていたくないという気持ちが働いた。
ここにそんな姿をこれ以上残さないで欲しいと、何故か思った。
私は篤久様の持つ救急箱を両手で持つと
「湿布、要りますか?」
と、遥香のそばまで行く。
「…いる……足首捻ったから……」
「では、これ…私が開封済みのものしかありませんけれど」
さっき部屋で使った湿布の残りを遥香に渡す。
そのそばを
「もう時間が無いわね…」
と源田さんが通って行った。
コメント
7件
こんな奴にも最後に情をかける真奈美ちゃん優しい
真奈美ちゃんの優しさが尊い✨ コイツラは母娘で寄り添うなんて出来ないよね、罵りあって自滅へまっしぐらー もう時間ですよ!!👋👋👋
真奈美ちゃん…ほんとに…🥺確かにこれ以上そんな姿ここに残して欲しくないよね。 真奈美ちゃんのご両親はどんなに後ろ指を刺されようと罵られようと、真奈美ちゃんには沢山の愛情を持って接し、心の優しい人にと懸命に育てられたとつくづく感じる。 それに比べて源田の香奈は、あんなに言ってた可愛い我が子を無視?足捻ってるし、血まみれになる寸前だったのに、なにもなし。まっ、これからどんな人生を送るのかは想像できるよね〜。誰一人助けてなんかくれないさ。 ささ!お引越し先は遠いし、お掃除とかしなくてはいけないのだからはいっ!はいっ!とっとと行きましょう!!! やっぱり見について行こうかな…😂