テラーノベル
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自分で右足首に湿布を貼る遥香の頭頂部を見ながら
「遥香様…」
と自分が声に出しては“遥香”と呼び捨て出来ないことに、私は苦笑する。
「……なに…?」
「一生懸命荷物を持ち出されるのはいいと思うんですけれど……いくら、バッグやワンピースやアクセサリーがあっても、ライフラインが断たれると生活出来ません……生きられませんよ?分かっておられることを言ったなら、すみません…」
私はそう言ってから、救急箱を第一家事室へ戻そうと、ゆっくりと歩く。
「ま……」
小さく聞こえた音は、真奈美と続くのか、ママと続くのか、待ってと続くのかと思ったけれど、何も聞こえない。
私が第一家事室のドアを開けながら遥香を振り返ると、彼女は滝汗を流しながら血の気を無くしていた。
「遥香様…?」
「どーいう…こと…?ライフライン……?」
「遥香、どうしたの?大丈夫?さっき、ケガでもした?」
また大きなバッグに荷物を詰めて来た源田さんに
「呑気なこと言っている場合じゃないわよっ!」
と言い返し、足首を気にもせず私のところまで走って来た遥香は
「真奈美、どういうことっ?ねぇ、生きられない?どうして?この日本でそんなことあるわけないでしょ?ね?」
大丈夫、と言ってくれと言わんばかりの勢いで私の腕を揺らす。
「手、放してください。真奈美さんは手首をケガしている」
「あ……」
篤久様が来て私の腕をそっと助けてくれると、遥香は素直に手を放して
「ねぇ、お願い……真奈美、どういうこと?」
と顔中に汗を流して懇願する。
「…ライフラインというのは、電気、ガス、水道、通信、交通……そういった日常生活に必要なものです」
「どこでもあるでしょ?ないの……?」
「ないところもあるでしょうし、ここのように都会の真ん中でも勝手に家の中へは、電気やガスが通っていませんから……ちゃんと手続きをしないと水も出ませんし……」
「え、そうなの?ほんと?」
「はい、開栓してって電話とか、ネットから連絡しないとダメです」
「……ママっ、そこ、水とか大丈夫なの?」
「へっ?」
ああ、なんという親子だ……
餓死されたりしたら後味が悪いから、教えてよかったと思う。
それに……そんな孤立されたら、誹謗中傷が堪えないじゃない?
「遥香様…そこ、ネット環境なんかは全く整っていないと断言出来る場所じゃないですか?真夏なのにエアコンも使えないですよね?それどころか、今まで人気がなかった分、どんな虫や動物が住んでいても……って、そこまではあり得ませんかね?」
私は言い過ぎたと思って語尾を濁したけれど
「普通にあり得るでしょう。蜘蛛の巣は絶対、確実」
「そうですね、その蜘蛛もこの辺りで見ないような大きさでしょうね」
「会社の仕事で開発する時によく聞くのは、空き家にはネズミ、ハクビシン、アライグマ、コウモリが住み着く、と」
「聞きますね。その小動物を狙ってヘビが忍び込むことが多いそうですよ」
「そうだね。害獣が住み着くと屋根裏が糞尿に汚染され続けて天井が抜けるとか、床が抜けるとかもありますね」
篤久様と運転手さんが、私以上のことを言って……気持ちわるっ……私が気持ち悪くなりそうだ。
コメント
13件
ライフライン廃村になった時点で全部止まってると思うわよ!場所知らないけど携帯も圏外だったりして🤔🤔🤔
ライフラインって聞いたことないわ?どこのブランドかしら?byあれ母娘
教えたほうが親切なのか教えないで廃墟にほっぽる方が親切なのか💦