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【この暑さはあなたのせい】



『暑さのせい』


肌を刺すような夏の盛り、休憩室のベランダには、いつも通りのんびりとした空気が流れていた。手すりに肘をつき、慣れた手つきで煙草を取り出す私を、隣でローレン先輩が微笑ましげに見ている。


「あー、ライター切れだ」


ポケットを探るも、軽石が空を切る音しかしなかった。しまった、と顔をしかめると、先輩はにやりと口角を上げる。


「しゃーねーな」


そう言って、自分の煙草に火をつけ、その先端を私の煙草の先にそっと近づける。ふわりと、先輩の煙草から移った炎が私の煙草にも灯る。ほんのわずかな時間、けれど触れ合うかのような距離に、なぜか頬が熱くなった。


「お前、顔赤くね? 熱中症か?」


先輩の心配そうな声に、思わず「暑いからです!」と返してしまう。実際、日差しはきつかったけれど、それだけじゃない熱が、私の中にじんわりと広がっていくのを感じた。



『本当は』


それから数日後、私はにじさんじの控室で葛葉先輩と二人きりになった。他愛ない話をしていると、不意に葛葉先輩がニヤニヤしながらこう言った。


「そういやさー、ローレンがお前のこと、可愛いって言ってたぞ」


突然の言葉に、私は飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。まさか、あのローレン先輩が? 私のことを? 驚きと戸惑いで頭が真っ白になる。


「え、冗談ですよね?」


「冗談じゃねーって。本気で言ってたぞ」


葛葉先輩は面白がるように笑っているけれど、私にとっては心臓が飛び出しそうな一言だった。けれど、あのローレン先輩がそんなことを言うはずがない。きっと冗談だろう。そう自分に言い聞かせ、私は居心地の悪さに

その場を後にした。



『勝手に』


その日の仕事が終わり、事務所を出ようとすると、ちょうどローレン先輩も帰り支度をしているところだった。


「お疲れ様です」


「おー、お疲れ。今帰り?」


「はい」


二人並んで歩き出す。日中の暑さが嘘のように、夜風が心地よい。しばらく無言で歩いていたけれど、ふと、昼間の葛葉先輩の言葉が頭をよぎった。まさか、あの時の熱は気のせいじゃなかったのか? そんなはずはない。冗談だ。そう思いながらも、なぜか口が勝手に動いてしまった。


「あの…今日、葛葉先輩に言われたんですけど…」


言ってしまってから、しまった、と後悔した。何を言っているんだ私は。焦りで心臓がバクバクする。ローレン先輩は不思議そうに首を傾げた。


「葛葉が? 何て言ってたんだ?」


私はどうにか言葉を紡ぎ出した。


「ローレン先輩が、私のこと…可愛いって言ってたって…」


最後まで言い切ると、恥ずかしさで顔から火が出そうだった。沈黙が降りる。冗談だと笑ってほしい。けれど、先輩の表情からは何も読み取れなかった。



『間違ってない』


私の言葉に、ローレン先輩は一瞬目を見開いた。その沈黙が、私には永遠のように長く感じられた。冗談だって言ってよ、と心の中で叫ぶ。しかし、先輩の口から出たのは、私の予想とは全く違う言葉だった。


「…葛葉、余計なこと言いやがって」


ぽつりと呟かれたその言葉は、私に向けられたものではなかったけれど、その響きは確かに否定ではなかった。私の心臓はさらに激しく鳴り始める。まさか、本当に?


先輩はため息をつくと、こちらに顔を向けた。その目は、いつも見ている頼れる先輩の目とは少し違って、なんだか戸惑っているように見えた。


「いや、その…葛葉が言ったのは、まあ、間違ってねぇよ」


直球すぎる言葉に、私の思考は完全に停止した。間違ってない? つまり、本当に私が可愛いと思われているということ? 顔から火が出るどころか、体中が燃え上がりそうだった。


「え、あ、でも、その…」


しどろもどろになる私に、先輩は困ったように笑った。


「別に、からかってるわけじゃない。ただ、お前が頑張ってるの見てると、なんかこう、応援したくなるっていうか…面倒見てやりたいって思うんだよな」


そう言って、先輩は私の頭にそっと手を置いた。大きな、けれど優しい手のひらが、私の髪をくしゃりと撫でる。その温かさに、胸の奥がじんわりと熱くなった。憧れの先輩に、こんな風に思われていたなんて。嬉しさと、少しの恥ずかしさで、私は何も言えなくなった。



『あたのせい』


それから、私とローレン先輩の関係は、少しずつ変化していった。相変わらず頼りになる先輩であることには変わりないけれど、以前よりも気軽に話せるようになった気がする。休憩時間には、より頻繁に二人で煙草を吸いに行くようになったし、他愛ないことで笑い合うことも増えた。


ある日、また二人でベランダに出ていた時、私がライターを忘れてしまった。


「あー、また忘れちゃった」


そう言うと、先輩は何も言わずに自分の煙草に火をつけ、私の煙草の先にそっと近づけた。あの日のように、ほんのわずかな距離で触れ合う二つの煙草。移り行く炎の温かさと、先輩の指が触れそうなほどの近さに、私の頬はまたしても熱くなった。


「お前、また顔赤いぞ」


先輩がにやりと笑う。でも、今回は「暑いから」なんてごまかさなかった。


「…先輩のせいです」


そう呟くと、先輩はフッと小さく笑って、私の頭をもう一度優しく撫でた。


「そうかよ」


その声は、以前よりもずっと甘く聞こえた気がした。先輩の手のひらの温かさに、私はそっと目を閉じる。これはきっと、私だけの秘密の始まりだ。頼りになる先輩の隣で、私は新しい自分の気持ちにそっと耳を傾けた。この熱は、もう「暑さ」のせいなんかじゃない。






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初めての投稿なので緊張します🙀


他にやってほしいシチュエーションなどがあればコメントしてください😽




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