コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「美月の言う事はいつも正論だよな。俺が辛いって言えば、新入社員の内は仕方ない。誰もが通る道だから頑張れとかマニュアル通りの台詞言ってたよな」
「それは……確かに言ったけど」
「俺はそんな話聞きたくなかった。ただ話を聞いて気持ちを分かって欲しかった。美月と話すと余計に疲れたよ」
「……」
「美月と話してると俺の努力が足りないって言われてる気がして、憂鬱になった。その頃から美月を可愛いと思わなくなったし抱きたいとも思わなくなった」
「……どうして、その時言ってくれなかったの?」
「どうせ責められると思ったから。レスの事だっていつも不満そうにしてただろ?」
「してないよ……私は……」
「彼女は、奈緒は違ったんだよ。黙って俺の話を聞いてくれた。いつも優しい笑顔を向けてくれた」
湊は彼女を思い出しているのか、一瞬だけ穏やかな表情をした。
湊は彼女と居ると安らぐんだろう。
彼女は優しく心地良い言葉をくれるから。
対して私は湊が望んでいない、的外れの発言ばかりして不快にさせていた。
だから気持ちが離れた。
確かに湊の気持ちに寄り添えなかった私に原因が有ったのだろう……でも、だからと言って湊の言い分が正しいと思えない。
「結局湊は私を裏切って楽な方に逃げたんだね!」
「いつも正しい行動が出来る美月に俺の気持ちは分からない」
「私が正しい行動してると思ってるの? どこが?」
思わず笑いそうになった。
だって私はそんなに強い人間じゃない。
もし、理性だけで行動できたら……正しい行動だけ出来たら、湊とはとっくに別れてた。
離れられなかったのは私が愚かだから。
現実から目を背けていたから。
でも湊はそんな私の気持ちにすら気付かない。
もう私達の間には取り返しのつかない程の溝が出来て、それが埋まる事は無い。
私は湊を許せないし、湊も私を好きじゃない。
もう終わりなんだ。
「こんな事になって……もう別れるしかないね」
まさか私から別れの言葉を口にするなんて想像もしていなかった。
湊が大好きだった。
ずっと一緒に居たかった。
それなのに……。
「……美月がそう言うなら仕方ないな」
湊はうんざりした様に言う。
「私が言うならって……どうしてそんな言い方するの? 原因は湊の浮気でしょ? 私のせいにしないで!」
「美月のせいだろ? 俺は別れる気は無かった」
「別れる気無かったって、じゃあ彼女はどうするつもりなの? そんな簡単に別れられるの?」
「……奈緒と縁を切る事は無い。彼女は良い理解者だし」
「それで私とも別れる気ないって、おかしいよ」
悪びれない湊に愕然とした。
「さっきも言ったけど奈緒を抱いたことはない。浮気なんかじゃなくて大事な友達だ。それなのに美月が勝手に決め付けたんだろ?」
「友達って……そんないい訳通用すると思ってるの? 体の関係が無くても浮気だよ。だって湊は彼女を好きだもの」
私よりずっと彼女が好きで大切だと思っている。
それのどこが浮気じゃないって言えるんだろう。
自分が悪者になりたくないから、都合の良い解釈をしていい訳をしてるだけ。
「もう一緒に暮らせない。別れて同棲も解消して」
これ以上は無理だ。もう私達は……本当におわり。
気まずい沈黙が訪れる。
しばらくすると湊は機嫌悪そうに大きな溜息を吐いた。
「分かったよ。別れる。けど直ぐに別に暮らすのは無理だ」
「……じゃあどうするの?」
「このマンションは美月が借りてるんだから俺が出て行くしかないけど、引越し費用が出来てからだな」
「引っ越す貯金もないの?」
私達は生活費は折半だったし、湊の方が給料が多いのに。
驚く私に湊は嫌そうな顔をしてみせた。
「冬の賞与で引っ越す。それまではここに住むしかない」
「賞与って……まだ二ヶ月も有るじゃない」
「まあそうだけど、元々寝室は別だし大丈夫だろ?」
「そんな問題じゃ……」
「これからは俺の分の家事はしないでいいよ。ただの同居人ってことで気を遣わないでいい」
そんなの無理に決まってる。
何もしないのは簡単だけど、私の精神が持つと思えない。
湊は簡単に言うけど、私の傷は凄く深い。
今はなんとか正気を保ってるけど、もうそれも限界に近い。
さっきから眩暈がするし、動悸がする。
苦しくてしかたがないのに……。
これからどうなるんだろう。
私は、いつまで耐えられるんだろう。