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ある時、涼は仕事帰りに彼の会社の近くまで車を走らせたことがあったが、……やめた。
会いたいが、やっぱりなにか違う。ここで准を引っ張り出すことに何の意味があるかも分からないのに、厄介事に巻き込んでも仕方ない。
もうちょっとだ。もうちょっとだけ、頑張ろう。俺はまだ……創さんを信じていたい。
信頼。
しかしそんな想いも裏腹に、彼の純粋だった好意はどんどん暴走していった。
決して手に入らない、あの人を想って。
怖いと思った。本当は怖かったんだ。
創さんは、手に入らないなら准さんを殺そうとか思ってるかもしれない。
それだけは絶対にだめだ。頼むから、その一線だけは越えないでくれ。
そう願えば願うほど、時間は馬鹿みたいに能天気に過ぎていった。身の回りのもの全てが平和ボケしていく。
もうやめてほしい。
夜は殴られて、切りつけられて、最後は優しく抱き寄せられて、壊れた愛情を与えられる。
全て終わってからトイレに駆け込んで、気持ち悪さに吐きそうになる。どれだけシャワーで洗い流しても、その不快感が落ちることはない。
────誰がそれに気付いてくれるだろう。
無理だって分かってるから……もう期待もしない。俺は頭が悪い。清純な心の持ち主でもない。
でも考えることはできる。めんどくさいことに。
涼は痣だらけの腕に視線を落とした。
創が准と結ばれない苦しみを自分にぶつけることについては、もう何も感じなくなってきている。けど人を殴る度胸があるなら……抱く度胸があるなら、もういっそ想いを打ち明ければ良いのに、と考えていた。全部めちゃくちゃにして、自分の物にして。そうすれば満足するんだろう。
それができないのは結局彼も弱いからだ。俺を殴った後に見せるあの戸惑いと同じ。
「さっさと壊れちゃえばいいのに……」
ひとり、車の中で歌うように呟いた。
創だけじゃない。涼自身、本気でそう思うほど狂いかけていた。
それでも、何とか日々を乗り切った。もはや生き抜いてると言っても過言じゃないと思うほどに。
「じゃあ、創さん……仕事行ってきます」
「うん。行ってらっしゃい」
彼に笑顔で見送られ、仕事だけは一日も欠勤せずに向かった。顔に傷や痣があるときはさすがに上司や同僚も青い顔で心配してくれたけど、そこは適当に理由をつけて誤魔化していた。