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机の上の消しゴム、脇にかかるナップザック、スポーツシューズの間の通路をくだると、後ろから三列目に空席を見つけた。太ったおばさんが背中をノックしながら、あんたいつ以来? と中国語訛りの英語で声をかけてきた。

教室に白髪頭の講師が入ってきたとき、健太はうっかり目を合わせてしまった。点呼を終えると小さく咳払いをした女性教師は、伏せ目姿の健太にもう一度視線を向けたようだった。

「休んでいた訳を言いなさい」

先生の口調は柔らかいが、健太がちらり上目遣いに見たとき、目は笑っていなかった。仕事が忙しかったんですと言えば丸く収まるだろうことは、健太にも薄々分かっていた。しかし口からはどうしても「ウェール」しか出ず、目は宙を仰いだまま言葉に詰まった。教壇の女性はひどくゆっくりした英語で、人差し指を上に立てながら、また無断欠席するようなら今度は首輪をつけますよと言った。どうも言葉が出なかったのはボキャブラリー不足が原因だと思ったらしい。

健太は終業のベルが鳴ると席を立ち、教卓の横を軽く会釈して通過すると、トイレの鏡で顔にかかった前髪をかるく整え、二段抜かしで地上階へ降りた。カフェテリアの南窓から差し込む太陽が、店内のテーブルの一つに反射して眩しい。手をかざしながら店内を見回すと、右斜め十メートルのところに黒いカーディガン姿のマチコが手を振っていた。

「何があったの?」

 マチコの小さい顔が大きくなる。

「何がって?」

「授業出るなんて、珍しいよね」

「そうでもないよ」

健太は肩からカバンを下ろし、マチコの向かいに腰をおろした。

「ミンとツヨシは?」

「ミンなら叔父さんがここまで迎えにきて帰ったよ」マチコは首を振ると、肩まで伸びた黒髪がふわっと広がった「あの様子だと、相当お目玉食らったみたい。しばらく呼べないね」

昨晩ミンを家まで送ったとき、車から降ろしたあとも一人では歩けないほど酔っていた。健太は自分の肩に手を置いて、昨日のミンの重みを確かめた。

「考えてみれば、不思議だよ」

「何が」

「俺とマッチャンって、ミンがいなかったら知り合ってないよね?」健太は天井を見上げた。万国旗が連なって垂れ下がっている「今はそのアイツがいない」

マチコは長いまつ毛をぱちぱちさせながら、紹介したい日本人がいるとミンに引っ張られてこのカフェテリアまで来てみると、健太がちょうど今座っている辺りの席で、一人寂しそうにコーヒー飲んでいたと言った。どうも最初の健太の印象は、とっつきにくいものだったらしい。

「でもね、ツヨシ君と知り合ったのもミンがきっかけだったよね」とマチコは言った。ミンの案内で健太が初めてツヨシのアパートを訪問したのは、一ヶ月も前の話ではない。その日、マチコも一緒だったことを思い出した。

「ひとつ、聞いていい?」マチコはテーブルに肘をついて手を組み、親指に顔を乗せた「ツヨシ君と知り合ってなかったら、あなたどうしてた?」

ツヨシと知り合っていなかったら、今のソファには寝てないわけで、ならばあのアパートはただの静かな一人暮らしの小部屋に過ぎなかっただろう、だったらマチコもミンも集まらなかったはずだ。それが証拠に、俺達と出会う前のツヨシは毎晩一人でインスタントラーメンのお湯を沸かしてたと本人が言ってる、と健太は答えた。

「今じゃ、その方が不思議よね」彼女の口元に白い歯が見えた。

そのとき、課題終わんなくって最後まで残されちゃったよ、とツヨシが息を切らせながら現れた。

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