コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
一気に世界に広がっていたウイルスは後にゾンビウイルスという名で呼ばれた。山の中燃え広がる火のようにウイルスは、やがて我々国にまで影響するようになった。その中2人の優しい幹部が一般人をかばってゾンビにかまれてしまった。これはそんな二人と、ウイルスを直そうと必死に抵抗する彼らの物語である。
『つい先日、ロボロとショッピ君がゾンビにかまれてゾンビ化した。2人とも理性が残っているようで、人間を襲おうとしている様子も無いので一応自由に行動していいという事になっている。それでも、もし彼らが人を襲えばそれはこの国の終わりをさすので、行動範囲は一応限定されているのだ。
「あ、ゾムさん。おはようございます。今から朝食ですか?」
そう声をかけて来たのは、ゾンビにかまれてしまったショッピ君だった。ロボロ含め二人は、食事をとろうとしなかった。食事をとれば力が付く。そうすればもし理性を失って人を襲ってしまった時、その人たちが対抗できなくなってしまう。たとえそれが俺達だとしても。そう案じているらしい。だから二人はどんどんやつれているし、俺達も二人の前で食事の話をしなくなった。今の幹部にとって食事とは、生きるための生理的行動の一つなのだ。それでも結局限界というのはあるらしく、食料調達をしなければならないとき、ゾンビであって味方にかまれることのない彼らが赴かなければならないのだ。昔ならばおいしいと食べることのできたものが不味く、大切にしてきた味方がおいしそうに見える彼らはいったいどのくらいの苦痛を負ってきたのだろうか。想像もできない苦痛であることだけが、俺にもわかる。それなのにどうして今目の前にいる彼は平然とそれを聞くことができるのだろうか。いつまでも返って来ることのない返事を、こんなにも穏やかに。待つことができるのか。俺はなんだか居心地が悪くなってしまった。それを察したのかショッピ君は謝罪の言葉を告げると、今度は「いってらっしゃい。」と、笑って俺の側から離れて行ってしまった。
その夜、ショッピ君は理性がなくなっていっていると、自ら地下の牢獄に入れてくれるよう俺達に頼んできた。俺達は歯を食いしばりながら彼を縛った。その時俺の脳裏に思い浮かんだのは朝の出来事。もしかしたら彼は、いや、きっとこうするつもりだったから少しでも楽しい話をと俺の所に来たのだ。皆も苦い顔をしているからきっと、皆の所にまで行って。悔しさが自分の中からあふれ出す。なぁ、お前はどうして、今から寂しくなるというのに、そんなに穏やかで優しい顔で笑う事が出来るんや?口に出されない言葉に帰ってくる返事は当然なく、俺達は苦い顔のまま地下牢を出て自室に帰っていった。
それからは毎日一人が彼の下へ会いに行って話をするようになった。だからみんなで日記をつけておくことにした。今から彼が俺達を拒むその日まで、彼のことを少しでも覚えておくために。
一日目。今日の担当はそう俺、グルッペンだ☆ショッピが地下牢に入って4日目。まだあいつは理性を保っているし、全然大丈夫そうだ。食事はやはりとる気はないらしい。何とも強情な奴だ…
…地下牢は寒いんだな。そんな呑気な考え事をしている時だった。
「グルッペンさんはどうしてこの軍を作ったんですか?」
暇になったらしい彼が聞いて来た。実は正直そこまで大きな理由はない。ただ暇だから作っただけだ。でも彼はきっとここで暇だろうからと、俺は作り話をして彼に話し始めた。
どのくらい時間が経っただろうか。日が差し込み始めていたはずの鉄格子からはいつの間にか夕焼けが見えていた。「月が上がる前に部屋に戻ったほうがいいですよ。」と彼はいつものように微笑み、手で出口へ促した。仕方ないなと出口の方へ向かい。明日もまた一人、幹部が来ると言う事だけを伝えて部屋に帰った…
…ショッピは楽しそうだったのだゾ☆
二日目。本当はオスマンに担当してほしかったんやけど、少し忙しそうなので俺になった。今日の担当は、僕です。ショッピ君はなんだか少し言葉がおぼつかなくなっていて、俺は事態の深刻さに気が付いた。』
そんな内容が幾つもつづられている。一番初めのはきっと俺だけが日記をつけていた頃のものだろう。
俺は静かな部屋で一人日記を読み返していた。ショッピ君は完全に理性がなくなって、もう今はしんぺいさんが薬を完成させるのを待つことしかできないのだ。ちょうどその時、インカムがなって薬が完成したと報告が入った。俺は扉を開け急いで自室から出て行った。
その場についた時、もうみんな揃っていて、ご飯も食べずに薬づくりに協力していたロボロはボロボロだった。それでもショッピが治るのを嬉しそうに待っているのだ。その時に聞いた話だが、ロボロは誰よりも先にショッピを治したいと言っていたらしく、辛いはずなのにショッピのために今の一分一秒を我慢しているのだ。そしていよいよ薬を投薬するとき、発生した問題があった。ショッピは理性を失っていて、今は無差別に人を襲う状態だ。彼にかまれてしまっては元も子もない。そんなときロボロが、「俺がなんとかする。」と名乗り出た。そしてその牢の中に入り、ショッピを抑えながら話しかけ始めた。そこにしんぺいさんが慎重に注射していく。
俺は理性を失った目の前の”弟”に話しかけた。後のことはしんぺいさんにまかせて。
「ショッピ覚えとるか。お前が生まれた時のこと。」
あんときお前はな、俺にとってたった一人の”家族”やってん。親は俺の事愛してなかった。だから可愛い弟が愛しくてたまらなくて。でもな、俺が居ると周りは不幸になる。そう教えられて育ってきて、愛しいお前が不幸になるなんて嫌で、俺はお前の側から離れると決めた。それなのにさ、そんときお前が言った言葉覚えとるか?「ろ、ぉお?」やって。しかも「ママ」も「パパ」もまだ言ってへんかったし、それがお前が生まれて初めて話した言葉やと思う。ほんまズルい奴やで。だから、俺は離れるのが惜しなってもてな、お前に子守唄うたってやってんよ?んでその後家を出て、ここにきてん。
「やから、もっかいうたったるわ。」
そう言うと俺はあの時のように歌い始めた。”お前のためだけに作った”子守唄を。
それから薬の効果が効いてきて、ショッピは人間に戻った。どうやらゾンビの時の記憶は残るらしく、今まで必死に隠してきた”兄”と言う事がばれてしまった。まぁ、でもいいかと思えるほど、なんだかんだ幸せになってしまった。もう今から不幸になんてなれない。だから愛してるよ、ショッピ。