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「エイミー、ロカムまであとどれくらいで着きそう?」
「厄介な魔物と出くわさなければあと40分で着くわ。 」
あの後どうにかロカムへ急ぐため私達は今とても危険な森を近道として突き進んでいる、毒蛇の出る危険な森だ。
なぜこうなったかというと話は2時間ほど前まで遡る
***
「うーん、次の依頼、次の依頼こそはっ」
「血眼になるのわかるわよ、なにせ探し物は実体のないものなわけだからそりゃまぁ簡単じゃないわよね」
同僚兼マブ、親友のエイミーの言葉で改めて自分の探し物が簡単じゃないことを身に染みる。
私、ノエル・イルセリアはちょうど7年前、故郷オブリヴの風習で生贄に出されその時のこととなにか大切な記憶を抜かれた。
それだけでなく側に寄ると父さんと母さんを衰弱させる呪いにまでかかってしまった。
大好きな家族をこれ以上苦しめないために私は故郷を離れるという親孝行と親不孝を同時に決行した。
そして7年経った今、私は漁港の街ピオスで便利屋の一員として生計を立てている。
記憶の手がかりや呪いの解き方なんて代物は世間一般からかけ離れちゃってるからピオスのアーカイブどころか聖都の書庫でさえ見つかるかも怪しい。
「手がかり探し始めて5年も経つし、困った」
「本当なんも覚えてないの? 当時のこと」
生贄の塔の前に立っていた日から記憶を辿ってみる。
いつものように友達と遊んでてその後父さんと母さんそろって夕飯食べて次の日……なにがあったっけ?。
「やっぱり外にいたとこからの記憶しかないや。 覚えてることと言えば生贄の風習が50年に一度、20歳未満の若者が捧げられることだけ」
「確かめるために階段登っても入り口に戻っちゃうんでしょ? そりゃ確かに呪いね」
「ほんともうどうしろと」
うんざりしながら溜め息と共にネガティブオーラを放出するもエイミーのポジティブで見事なまでに相殺された。
「それを解決するために便利屋を食いぶちに選んだんでしょ?」
故郷のオブリヴからこの街に移住して2年間職を探してみたけど普通の仕事じゃ私の望みは叶わないと思い5年前にこの便利屋、ハート・ユナイティスで依頼を受けつつ記憶と呪いを解くための手がかりを探すことにした。
諦めたくない、あの日の記憶を取り戻して家族のとこに帰ることを……エイミーの言葉に私はニカって笑いながらいつものノリで返した。
「まぁねっ」
「それだけ元気あるんなら、次行けるわよね?」
キョトンとする私を余所に聞こえる距離にいる店長にエイミーが大声で呼びかける。
「てーんちょー、ギルバート店長聞こえるー?」
「あのだねエイミー君、聖都の騎士団の訓練場より狭いこの事務所で聞こえないと思うかい?
今度はどうしたのかね?」
「今度はって、毎回あたしが変な言動してるみたいじゃないの。
次の依頼ある? 手掛かりなくてノエルがね」
あ、ありがとエイミー、持つべきはやっぱりマブダチだよ。
親友の背に隠れて潤んだ眼を拭っていると「そうだなぁ」と店長が引き出しを漁る。
「今ある依頼だと……どれも街のお手伝いに留まるか」
「マジかぁ……って店長いつも思うけどすごいデスクの散らかり様ね」
「店長としての忙しさという奴さ」
「忙しいのは尻拭いしてるルーシーでしょうっが」
「違いないな、ハッハッハ」
おぉエイミーいつもながらキレッキレなツッコみ……なんて呆気に取られてると外からノックのような音が響いた。
「うわ、ビックリした。 なんだってのよ」
「いや、私にも……とにかく見に行こ」
外に出て周りを見渡したけど特に変わった様子はない、イタズラだったのかな?
踵を返し事務所に戻ろうとするとなにかに気付いたのか、エイミーから声がかかり思わず振り向く
「待って」
「どしたの、というよりその包みなに?」
「そこに落ちてた。 手紙かな……見てもらいましょ」
事務所に戻り封書を開くなり店長はいつになく真剣な顔つきで首を傾げている、どうしたのか尋ねると私達の前で手にした紙面を広げた。
「結論から言うがこれは依頼書だ。 それも結構厄介な」
「えっと、ロカム村民衰弱……店長これどういうことですか?」
依頼書にはただ箇条書きで『ロカム村、農地が痩せ、村民謎の衰弱 解決を求む』とだけ記されていた。
どういうことかと頭を巡らそうとするも新たな問題が見つかる。
「依頼内容もだけどこれも見てよ。 これ、誰が出したの?」
差出人の項目を見ると無記載、やっぱりイタズラ? その懸念は店長も持ってたのか依頼書をたたもうとする。
「受けていいものなのだろうか、明らかに怪しいぞ」
「愉快犯のようにも思えるけど、ここ数日ロカム産の作物が入ってないのも事実よね」
「そうかもしれんが、過去にウソの依頼で損失を出しかけたことをエイミー君も忘れたわけじゃないだろう?」
こういう仕事をしてるとイタズラや愉快犯により依頼書の場所に行っても人がいない、それだけならまだマシで違法な物品を担がれそうになったことが過去にあったらしい。
それが原因か、お人好しの店長でさえ依頼を受けるか渋っていた。
店長の気持ちもわかる。 物品を運んだり討伐なら下手したら法に触れる。
けど人命救助なら勘ぐって手遅れになるより私達が損をするだけの方がまだマシ、それに最近ロカムの作物の流通も途絶えてるしこの事件、なんか匂う。
「店長、行かせてください。 もしこれが事実でなにかあったら……助けられなかったらきっと後悔すると思うんです」
「あたしもこれに関しては賛成よ。 仮にウソだったとしてもみんな無事で済むならそれに越したことはないわ」
「君たちがそこまでそういうのなら……わかった、今一度信じてみようと思う。
だが気をつけなさい。 何があるかもしれないから一応ルーシー君にも連絡は入れておく」
「了解。 ノエル、いつものあれ頼むわね」
「任せてっ」
呼びかけに応え、意識を集中するとペンダントから霊素がエイミーに流れ込む。 店長はその横で不思議と言わんばかりの表情を浮かべていた。
「しかしいつもながら思うが、霊素なんてものを明け渡すなんて普通あり得ないぞっ?」
「身体が拒絶反応起こすから血液と同じ感じね、おまけに弓の速度も上がる気がするけど、ペンダントのおかげとか?」
「どうなんだろ、息をするようにやってる感じだからよくわかんないや」
霊素を分け準備を終えると急いで街の門を出る。
ロカムまで街道を南東に進むなら馬車でも3時間、村の人達が本当に衰弱してしまってるのなら日没までには辿り着きたい、私達は街道を村へ続く方向へひた走るも程なくして足を止める。
「ウソ、こんな時になんの冗談よ」
「急がないとみんなが危ないのに」
どうして? こんなとこでもたついてなんていられないのに落石だなんてっ。
「どうにか落盤歩いて進むの、無理かな?」
「無謀過ぎるわ。 崩れた足場を走って進むなんてそれだけでもバランスを崩してケガする危険性があるってのにもし魔物まで現れたら」
「けどそれじゃ村のみんなが……」
どうにかしたい、その気持ちは同じみたいでエイミーは苦肉の策と言わんばかりに唇を噛みしめながら分かれ道の反対側を指さした。
「気は進まないけど、さっきの分かれ道に進むしかないわね」
「行くんだね、フォレジアの森……」
魔物が棲みつき今や聖都指定危険区域に認定されてる危険な森、そこに踏み入ることは死を意味する。 たとえそうだとしても……。
「下手したらあたしもノエルも今日が命日かもだけどそれでも、腹括れそう?」
「聞く必要ある? 助けられる可能性があるならそこに賭けるだけ」
「決まりね。 それじゃ行きましょ」
こうして私達は覚悟を決め鬱蒼とした茂みの奥へ足を進めた。 国の兵はもちろん、騎士団も避けると言われるほどの危険が潜む森に。
***
「ここって、大蛇が出るんだよね?」
「噂では、けど騎士団からもハンターからも実体験としてはそんな話聞いたことないわね」
大蛇は10メートルという噂もあれば20メートルという噂まで幅が広い。
けど街の人はともかくエイミーやルーシーからも実際の目撃談は聞いたことがない。 なにごともなければいいけど……。
「もう2時間は出てないから大丈夫じゃないかな」
村人全員が同時に期間の長い倦怠感にかかるなんて普通じゃない。 この事件間違いなく何者かの手が加わってる。
「それにしてもこの一件、まさか九つの希望とか絡んでないでしょうね?」
「それってここ近年世間を騒がせてるあの?」
「えぇ、人殺しこそはしなくてもよくわからない騒ぎを起こしてるっていうもっぱらの噂が立つくらいだから用心に越したことはないわよ」
「そうだね、急ご……えっ?」
茂みになにかが、影の形状からして3メートル幅の蛇、大きいっ、このままじゃエイミーがっ。
「どしたのよノエル」
「危ないっ」
噛まれたら毒が回り死は避けられないことを直感で感じた私は思わずエイミーを突き飛ばしてしまった。
「ごめん、なんとなく危険な気配がしたから……」
「平気、むしろ助かったわ。っていうかなんでヴェノムヴァイパーがこんなとこにいんのよっ?」
「『こんなとこ』だからいるんじゃないかな? この森の生物って元々街道が森だった頃から棲みついてたらしいし」
思わぬ場所で思わぬ魔物に出くわしちゃったけど、武器構えた盗賊とかに比べたらこの程度は問題じゃないかな。
「面倒だけどしょうがないわね。今から引き返すにも時間もないし、サクッと片付けるわよ」
「連携だね……ってわわっ、ちょっとなにしてんのっ? 危ないんだけどっ」
剣を構えるもあろうことかエイミーは毒蛇が私の方向へ誘導するように矢を撃ちこみまくってきた。
顔が私の方を向くと同時にとぐろを巻きながら飛びかってきた。
「ごめんって、そいつ炎で真っ二つにしないと死なないからあたしじゃ誘導くらいしかできないんのよ」
それなら仕方ないか。 背後に回って熱素を付随した刃を一気に叩き込めば……けどこれあまり使いたくないんだよなぁ。
「熱素……熱っ」
よし、綺麗に真っ二つに斬れた。 単に胴体から頭落としただけだとこの手のものは頭だけで噛み付いてくるからね。 やっぱ毒イズ、デンジャラス。
「おぉ、これはかなり派手に焼き斬ったね。さすが霊剣士ノエル」
「エイミー、おだててもなんも出ないからね……あ、ゲンコは出るか」
「だからごめんってば。 いくらあたしの弓術が正確でもあの厚さの蛇じゃ心臓まで到達しないしあれを仕留められるのはノエルだけだったから頼りにしてたんだってばぁ」
まぁ、そういうことなら仕方ないか。 それにしても……。
「誰もここを通らない理由、改めてわかった気がするよ」
「えぇ、たとえ時間がかかってもロカムのみんなが街道を選ぶ理由がこれよ」
あちこちに街や村ができると元々獣道の場所を巣としていた魔物達は住処を失い、当然手付かずの森林に集まって棲みつく。
その場所には大きな生態系ができあがる、そこに私達人間が踏み入る余地はない。
「だからみんなここを避けるんだ。 急ごう、暗くなったらもっと魔物が増える」
「そうね、まだ魔物の気配はそこまで多くないから今の内に森を抜けましょ」
それからしばらく走り続けて見慣れた果物の樹が見えた。
「あれは、ロカムの? 近いよっ」
この距離なら15分くらいあれば到着する、もう村までは目と鼻の先、長かったぁ……なんだろ、村は近いのに変な感覚が……嫌な予感がして立ち止まると背後に異様な生暖かさを感じる。
「あのさエイミー、一応効くけど、後ろになんかいるよね?」
「はは、奇遇ね。あたしもそれ言おうとしてたとこよ」
振り返った先には大きい蛇、10メートルは優に超えてそう、眼前には大きい蛇、背後数キロにはロカム。
私は目の前の巨大な鱗の集合体に向かい叫んだ。
「いったいいつから?」
問いに対しエイミーは顔を引きつらせた。
「多分さっきの毒蛇の匂いが呼び寄せたのかも。 それにしても、こんなデカいのなんて作り話でしか聞いたことないわよっ?」
「その作り話みたいなのがなんでこんなとこに?」
「わかんない。けど、コイツをどうにかしないとあたしらはこいつの餌ってのだけは間違いないわね」
私達は舌を舐めずる大蛇を眼前に迎撃の態勢を取った。 なんかどっちから食べるか選んでない?
「もぉーっ、なんで今日に限って落石なんて起こるの? 女神様のバカ―」
「ノエル、たまの神様への毒舌がこういう事態招いてるんじゃ……」
的を射たエイミーの言葉にぐうの音も出ないけどそんなことにツッコんでる場合ではない。
大蛇はその長さト大きさに比例した速さで私達を追いかけ回す。
「それにしてもまずいわね、どの茂みに隠れたってあたしら見つかるわよ」
嗅覚と熱探知に優れた蛇の前で姿形を隠すのは無意味。 仮に隠れることができたとしても木々をなぎ倒して潜伏先まで突っ込まれる。
「エイミー、ちょっと冷えるけど我慢してねっ」
空気中の水分を集めて簡易的な雨雲を作るとそれはエイミーの頭上へ移動したのと同時にエイミーは文字通りずぶ濡れとなった。
「冷たっ、ちょっとノエルなにすんのよーっ」
「隠れて、弓は任せたよ」
熱が下がれば探知されない。 なら私が囮にっ。
「……ヤバいと思ったら逃げてよね」
私の意図に気付いたエイミーはすぐ近くの茂みに身を潜めた。 今の内に意識をこっちに向けさせないと……。
「解放、熱素」
予想はしてたけど間違いない、より高い熱に誘導されてる。
「それならっ」
手に熱を収束させておびき寄せる、必ず私目掛けて飛び掛かってくるはずだ。
「ノエル、そっち行ったよっ」
「はい、いらっしゃいませー」
予想通り大蛇が私目掛けて突っ込んできた。 両足から全身に霊素が流れてくることを意識して私は地面に左手を置き、体内の霊素を一気に放出した。
「撃ち抜け、大地の力」
槍状に隆起した地面はその巨体を貫き、エイミーの放った矢が大蛇の顎から頭にかけて深く突き刺さった。
「……倒した?」
「そうみたいだね、大きくてヒヤヒヤしたけど思ったよりあっさり倒せて拍子抜けなくらいだよ」
倒せたと思いロカムへ足を戻そうとした時だった。
——バキッ——
「ウソ、圧壊した……?」
音の方に振り返ると大蛇は己の腹部の力だけで貫通した地槍を粉砕した。
蛇は獲物を締め上げる力が強いことは知ってるけど、こんなの想定の範疇を過ぎてる。
「ど、どどどどうしようエイミー」
「慌てない慌てない。 いい? こういう時は……」
「こういう時は?」
なにか考えがあるかと思って一瞬頼もしく思ったんだけど、踵を返すあたりそこはやっぱりエイミーだった……。
「逃げるわよっ」
「やっぱ、やっぱそうなるーー?」
「こんなデカくて硬いやついくら命があっても足んないわ、なんとか逃げ切って村まで……」
そうは言っても、徐々にだけど確実に私達と大蛇の差は縮まってる。
距離は人2人分程の長さ、このままじゃ……それよりも逃げる先にはロカムが、このまま逃げたところで村も巻き添えを食らいかねない。
「エイミー、二手に隠れるよ」
「え、マジ?……」
「マジっ」
促すと同時にエイミーは左、私は右方向の茂みにダイブした。
木々や葉の匂いに紛れて少しは気配を隠せてるが気休めでしかない。
「なんとかしないと、ヒャッ」
幸いにも大蛇はエイミーではなく私のいる茂みを探し始めた。 身を潜めるも、1メートルの太さの尾の前では並の木々じゃ簡単にへし折られる。
「ノエルーっ、すごい音したけど大丈夫ー?」
「大丈夫っ、なんとかするっ」
本当は手詰まりからの強がり。 なんとかするって言ったけどこのままじゃ満足に動けやしない、どうにか解こうと肩に絡まったツタを掴んで下に引っ張った時それは起きた。
「え、これは?」
ツタに、違う。 この森の樹木全てに対しペンダントが反応してる? もしかしたら……。
僅かな可能性に賭け一繋がりのツタを手に私は道の真ん中へ飛び出す。 そしてその巨体から目を逸らさず対峙していると叫ぶように制止するエイミーの声が聞こえてきた。
「バカッ、なにやってんのよっ。 こんなの自殺行為でしかないわっ。 早く戻ってっ」
大蛇は私に向かって飛びかかって来たが不思議と大丈夫という確信があった。
「平気、森が味方してる? みたい」
「味方っていったい……な、弓が?」
さっきの紐状のツタをペンダントにかざすと、周囲の樹木が、それだけでなくエイミーの弓も、木に関するあらゆるものが私の霊素に同調し始めた……いける。
「お願い、力を貸してっ」
葉の揺れる音が微かに鳴り響いた直後、無数のツタが大蛇の腹部の穴に絡まるとまるで楔のように地に根を張り付けた。
「ノエル、一体何を……」
「そんなことより、今の内に早くっ」
「もぉ、後でちゃんと説明しなさいよね?」
霊素を足に集中させたエイミーは高く跳躍した。 矢への霊素の付与こそはないが、この一矢は間違いなく大蛇への致命傷となることを私は確信した。
「散々追いかけまわしてきたツケ、お返しするわ。 喰らいなさいっ」
エイミーの矢からは無数の眩い光が放たれ、雨のように大蛇を撃ち貫いた。
「やった? これで……なに、これ」
止めを刺したかに思えた巨体の額からは紫の色彩が怪しく輝いていた。
「エイミー、これは?」
「いわゆるコアってやつね。 あれがある限りあらゆる致命傷は即座に回復される」
「それは厄介だね。 それで、仕留める方法は?」
そう探るように聞くも、エイミーから返ってきた答えは至極単純なものだった。
「コアと心臓をほぼ同時に仕留めること、それに尽きるわね」
額と心臓は直線的に繋がってる。 確実に撃つなら大蛇の体が平らになった瞬間を狙うしかない。
地を擦る音が聞こえた時私の身は既に風素を纏いながら剣先を大蛇の額に突き立てていた。
「なら、やるしかないよね。 ハァァァッ」
これでおしまい……直線的な衝撃波は額から尾を駆け抜けたのと同時に大蛇のコアから光が溢れたのと同時にその巨体は霧散した。
体ごと消えた? これはいったい……。
「死んだ魔物が消える事ってあるの?……」
「いや、そんなことは……。 コアのある変異種とはいえ生物である以上形は残るはずよ。
それより……」
エイミーは自身の弓を見つめながら私のペンダントを見つめながら問いかけてきた。
「いったいなにをしたの? あたしの弓矢、霊素の付与とかそんなものじゃ説明できない力が溢れていたわ」
やっぱり、森だけじゃなくてエイミーの弓にも?
「私にもわからない。 けど弓と森の木に起こった反応は同じだと思う」
「どっちも木だから、なのは間違いないわけよね。 でもどうして……」
「それはおいおい考えればいいよ。 今は憶測する時間も惜しい」
「そうね、急ぎましょう」
それからはどうにか村へ辿り着くも、予想以上の村の状況に私達は心配をもはや通り越して危機感を感じ始めていた。
ねぇエイミー見て、畑が……」
村一番の稼ぎ頭のロンドさんの畑だ。 本当なら繁忙期で忙しいはずなのに痩せ細った畑は目も当てられない状態になっていた。
「聞いてはいたけど本当に作物採れてないわね。 それに……」
確証を得るため苗に触れてみたけどやっぱりだ。 全くと言っていいほど栄養も霊素も通っていない。
この村はメレディス大陸のフリーミア地方では有数の農村地帯で多くの街から受注だってあるのになんかおかしい。
「畑のこともそうだけど、村の外に誰もいないのが気になる。 やっぱり集会所かな?」
「十中八九そうね、行きましょ」
村の中では事件や災害があった時はちりじりにならないようにすると相場は決まってる。
私はエイミーと共に集会所に向かうと予想通り明かりが煌々と灯っていた。
こういう時はノックをするのが最低限の礼儀だけど状況が状況だけにそんな悠長なことはしてられない。 私は躊躇することなく扉を押し開けた。
「こんにちは、ハートユナイティスのノエルとエイミーです」
挨拶をしてから数十秒は経っただろうか、村長さんがおぼつかない足取りでこちらへと歩み寄ってきた。 どう見ても無理してる、支えてあげなきゃ。
「エイミー」
「わかってる」
2人で肩を支えて座らせると落ち着いたのか、村長は途切れ途切れな口調で言葉を紡ぎ始めた。
「ノエルさんにエイミーさん……来てくれて……ありがとう」
「村長さん、お顔真っ青じゃないですか。 一体なにが」
謎の倦怠感で衰弱した身体のままどうにか村長さんが説明しようとした時、村の中で聞き慣れた男性の声が聞こえ、私とエイミーは反射的に振り向く。
「俺が……説明する」
「ロ、ロンドさんっ、身体大丈夫なんですか?」
筋骨隆々の中高年の彼は村長さんと同じく今にも倒れそうな状態でやっとといった様子でこちらへゆっくりと歩み寄ってきた。
「これが大丈夫に見えるか? まぁでも大事な話だから聞いてくれ。 事件発生当時俺はいつものように農作業に精を出していたんだが遠くから『聖堂に近づけなくなった』って声が聞こえてな、その後すぐだ、全身に異様なダルさが来たのはよ」
近づけない、それは聖堂の中か、それとも敷地内かどっち? けどどっちにしても原因は聖堂にあるってことか、これはちょっと見に行く必要があるかな。
「それでしたらこの後私達の方で調べてみます」
「助かるよ。 あぁ、あのあんちゃんが通りがかってくれてよかった。 女神の思し召しってやつかもしんねぇな」
「あの、ロンドさん。 『あんちゃん』ってもしかして」
事務所で交わした店長との会話が頭をよぎって聞くとロンドさんは深く頷く。
「先週なんだがよ、その日も皆してダウンしてたら集会所に綺麗な黒髪のあんちゃんが来てなにがあったのか聞いてきたんだ。 んで経緯を説明したら『最寄りの便利屋にお願いしておきます』って颯爽と去ってったんだ。 ありゃかっこよかったな」
お節介さんなのかな? でも良い人なのは間違いなさそう……っとそんなこと考えてる場合じゃなかった。 急がないと。
「それじゃ早速行ってみようか」
「そうね、さっさと原因突き止めちゃわないとね」
村の奥の一本道、聖堂へと通い慣れた道だけど『近寄れない』ってどういうことなんだろ? 迷いの森みたいにはなってないし建物は確実に見えてきてる……なんて考えてる間に入り口付近まで来てしまった。 これは村人の衰弱故の思い過ごし?
「着いちゃったよ?」
「ね、なんだか拍子抜けしちゃうわ」
そう言いながら聖堂の扉に手をかけようとした直後、苦悶の声と共にエイミーの顔が引きつった。
「痛っ!」
「どうしたの?」
「この扉、触れない。 なんていうか、触ったら電流が走ったみたいにビリビリする」
やっぱり中になにか秘密が、意を決して私も扉に手をかけようと手を伸ばす。
電流が駆け抜けるのを覚悟しながら目の前の取っ手に手をかけたらそれは思いのほかあっけないものだった。
「あれ? 触れる……っていうか開いちゃった」
「は、はぁっ? どういうこと? 村のみんなやあたしは触れることも叶わないってのに、ノエルなんかした?」
「私はなにも……っていうかなんで触れたのか自分でもわからないよ。 それにしてもどうして……」
私が皆と違う点、呪い? それとも生贄に出されたという過去? まぁどちらにしても他人と比較すると普通ではない経歴だけどなぜ私だけが扉に触れられたのか明確な理由がわからないんじゃどうにもスッキリしない。
「ねぇ、試しにだけどあたしに成人女性3人分の霊素分けて」
「いいけど、なんで?」
「いいからっ、ちょっと試してみたい」
言われるがまま霊素を分けるとエイミーはさっきとは打って変わって聖堂の扉にいとも容易く触れてみせた。
「え、なになに? これどういうこと?」
「早い話、常人程度の霊素の保持量じゃ内部に入れないよう細工がされてるってとこかしら」
「だとしたら罠があるかもしれない、中を照らしてみるね」
「しゃあっ、チャチャっと調べて解決するわよ」
光った側から進もうとする我がマブエイミー、もう少し慎重に。
「待ってっ、鋼素……シルト・エンチャント」
鋼の膜を空気中に張っておく。 これがあれば防護壁として罠から身を守れる。
「準備いいじゃない。 んじゃ行こっか」
中に入って改めて光素で照らすとなにかが飛び交う音がした。
罠はさっきので終わりらしく、周囲を見渡すとやっぱりというか、2-30本の弓矢が床に散乱してた。 中に入って明かりを灯したら最後、私とエイミーは確実に矢の餌食になってたに違いない。
それよりも、村に影響を及ぼしてる細工があるはず、足元から天井の隅まで意識を集中して周囲を見渡すとある違和感に気付いた。
「ねぇ、ここってこんなものあったっけ?」
ガラスに装飾された……水晶? 綺麗といえば綺麗だけど、純粋な輝きじゃない。 暗い青というよりは黒に近い紫、およそ神聖な聖堂に似つかわしくない。
「最近できたんじゃないかしら? にしても聖堂なのに暗い色ね……ってどうしたのよ」
「エイミー、あの水晶撃って」
「えっ? 大丈夫なの? あれってここのじゃっ」
「ううん、あれが村を脅かしてる元凶だよ。 あれを壊せば村の人もきっと元に戻るはず」
確証はあった、あの水晶に近づくにつれペンダントが不気味な光を放っている。 まるで『これを壊せ』と言わんばかりに……さっきの森での件もだけどこれは私に力を貸してくれる、そんな気がしてならない。
そんな思いが通じたのか、エイミーは弓を構えて狙いを定めた。
「ノエルがそこまで言うんなら……信じるっ。 さっさとあの妙な飾りぶっ壊してみんなの元気取り戻すわよ」
そして、引き絞られた矢は正確に水晶へ続く軌道に乗った……はずだった。 矢を放つ瞬間に明らかに村人ではない声が入り口から聞こえ、エイミーの狙いは大きく外れてしまった。
「おうおう、扉が開いてると思ったら侵入者かよ。 せっかくの計画がパーじゃねぇか、どうしてくれるんだ?」
計画? それってこの村の事件に関連してる……そんなことよりこのつり上がった目つきと雰囲気、この男、まさか……。
私は剣を後ろ手に構えてることをさとられないよう、努めて冷静に男に問い詰める。
振り返ると同時にその男は気だるそうに首を鳴らすと私達を歯牙にもかけない様子で一瞥してきた。
さっき言ってた『計画』ってなんのこと? それよりも、あの水晶さえ壊せば問題は解決すると思ったのにどうやら面倒ごとが一つ増えたみたい。
「あなた、この村の者ではないようですが、まさかあの組織の人間……ではないですよね?」
私の問いに男は『よくぞ聞いた』言わんばかりに口上を述べ始めた。
「今日は特別気分がいいから冥途の土産に名乗ってやろう。 俺はレビィ、今宵は我が盟主が救世主となるため……人の話し中に弓引くとは、品のない女だな」
レビィと名乗る男が口上を述べるも話し終えるのを待つことなくエイミーは矢を放ち私は霊素を練りながら迎撃態勢を取る。
「おあいにく様、大概いい加減なあたしだって品のなさで言ったらアンタの悪趣味には負けるわよ」
エイミーの言う通りだ。 少なくとも他人様に呪いとも取れるような倦怠感を長期的に与えるなんてまともな思考の人とは思えない。
「子供や高齢の方みたいな弱者を苦しめる真似してなにが目的ですか、こんな身勝手なこと許されるわけがありませんっ」
「安心しろ、村の人間は取って食いやしねぇ、楽園での暮らしを約束してやる。 だが女ども、お前らは危険因子だ消えてもらう」
後で回復させるならなんで今わざわざ苦しめるようなことを? それにさっきから言ってる盟主って? ちょっと手荒いけど捕まえて尋問って形になるかな。
「これは詳しく聞く必要がありますね。 今からあなたを捕縛します、 抵抗しなければ痛くはしないので大人しくして下さい」
「その言葉言ったのを後悔させてやるぜっ。 まぁ悔いる時には粉々になってるだろうがよ」
直後、レビィは視線1つ動かさず距離を詰めてきた。 どんな力を有してるのか分かったものではない。 エイミーにひたすら逃げてもらいつつ私は死角となる壁で動き続ければ壁に手をぶつけて自滅してくれるはず……と踏むもその考えが甘いと知るに時間はかからなかった。 遮蔽物としてる壁が轟音と共に眼前で粉砕された。
「壁が、なんで?」
穴の開いた壁にの前には拳を振り上げたレビィが恍惚な笑みで私を見下ろしていた。 状況を理解しようとする暇もなく次の拳は振り下ろされた。
「俺の拳よぉ、霊素の差が大きく開いてる奴は小突いただけで砕けちまうんだわ。 お前盟主への生贄にちょうどいいな、殺しはしねぇから安心しろよ」
そう言いながらレビィは拳を振り上げて接近してきた、速いっ。 けど……。
「残念だけど私過去に生贄なってるみたいなので2回目はさすがにお断りしま……っす!」
まず雷素を放って牽制、威力は弱いけど強めの静電気くらいの痛さを持続的に与えられる。
「っ、雷撃か、こりゃちと痺れるねぇ。 んで? こんなもんで俺を相手にすると?」
ごく普通にありふれた現象、だからこそ「大したことない」と油断することは容易に想定できた。 そして電気が滞留したのを確認するとエイミーの矢に熱素を分け与えた。
「よし、やっちゃって」
「こりゃ聖堂半壊する未来しか見えないわ。 まったく、また赤字になるじゃないのーーーー!」
凄い爆風、予想はしてたけどエイミーが放った炎を帯びた矢は私がレビィから距離を取ったのと同時に着弾、大きな爆破を巻き起こした。
「っしゃあー、クリーンヒットっ、少なくともこれでヤツは致命しょ……ヤバいノエル、避けてっ」
「え? うわあぁっ」
エイミーの声に気付いた時には右腕を振り上げたレビィが眼前に迫っていた。
「なかなかの爆破だったぜ。 だが油断したら、命とりだぜっ!」
反射的に避けれたけど床が、陥没してる? なにが起こったのか顔を上げると土煙の中から脇腹の火傷のみのレビィが、その光景にエイミーも驚愕している。
「どういうことよ、あれだけの爆破でなんで立ってられるの?」
「えげつない爆風だったな、うまく躱したから低温火傷で済んだぜ。 それにしてもよくも俺の腹に傷つけたな? 後悔させてやるよ、そうだな……そぉらっ」
急に距離を詰めてきた、まずいっ。
「うあっ」
ステップでかわした箇所にレビィの拳が当たり聖堂の床は大きく陥没した。
どうにかやり過ごせたけど、あんなのまともに受けたら……。
「大したもんだ、俺の拳を避けるなんてな。 だが今度は上手くいくかな?」
レビィはまるで私の余裕のなさを弄ぶように軽口を叩いた直後、風素で速度を上げたかと見紛う程の突きを繰り出してきた。
「ノエルッ」
「大丈夫、心配しないで」
避け続ければ速度もきっと鈍って……鈍って? ダメ、どんなに繰り返しても乱打が止む気配がない。
「ほぉーう頑張るねぇ、どこまで持つかな、そぉらそらそらそらぁっ!」
このままじゃやられる。 あれやるか。
「っりゃあ!」
足元を隆起させる。 急な動きなら対応できるわけ……えっ?
「遅ぇ……」
「……!? 逃げてエイミーっ」
「えっ?」
標的がエイミーに、まずいっ。
「オラどうしたっ、お友達粉々になるかもなっ」
間に合わない。 それならっ。
「させないっ」
風素で脚力上げたからどうにか間に合った。 でも攻撃系統の術が間に合わない、これ多分死ぬ……。
「ノ、ノエル……?」
それでもエイミーが逃げ延びてルーシーを援護に呼んでくれればきっと……。
「エイミー、後は任せたよ」
「そ、そんな・・・・・・嫌ああぁぁーーーー」
「お友達守ろうと自ら盾に、勇敢なこったねぇ。 んじゃお望みどおりにっ」
村はエイミーたちが守ってくれる。 やれるだけのことはやった。 塔の記憶が分からずじまいなのは心残りだったかな。 そう思いに浸っていた次の瞬間だった。
——ボコッ——
「痛ったああぁぁ!」
それは骨が砕けるような痛みとは程遠く、普段ルーシーからお叱りでゲンコツされたかのような痛さだった。
「あの拳を耐えた。 ノエル、あなたなにしたの?」
「な、なんでだ? なんで地をも陥没させられる俺の拳が生身の小娘に効かねぇんだよ……俺の霊素が劣ってるっていうのか、どういうことなんだよこりゃっ」
顔を上げると、レビィの顔からはさっきまで余裕は一切消え失せ恐怖に慄ている姿が見えた。
「ったく、なんなんだよお前はいったいっ!」
硬さでいったらイスや壁より脆い私が平気? これは……勝機っ。
賭けになるけど、やってみるか。 焦りで動きが止まってる隙を見て私はレビィの懐に入り込む。
「余所見は怪我の元です……っよ!」
踏み込むのと同時に放った拳はレビィの腹部を確実に捉えた。
「グッ!」
レビィはこの一撃で思い切り吹き飛ぶ、けどこれだけで済ませてなんてあげない。
これまでの行いのツケ、精算しておかないと。
「まだ終わってませんよ、これは村長さんの分っ、これはロンドさんの分、そしてこれは……」
拳に風素を纏わせ、この彼より速く拳を叩き込む。 速さは重さ、力む必要なんてない。
「村のみんなの分っ」
「ガッ、ハァッ!」
屈強な肉体の男は容赦なく吹き飛ばされ、そのまま派手に壁にめり込んだ。
これで、これで決着……お願いだからもう動かないでよね。 座り込もうとしたのと同時に瓦礫の崩れる音が聞こえた。
「ハ、ハハハハ。 俺に負けないなかなかの剛拳だった。 だがそこは実践の差だ」
「なっ、まだ?」
レビィは加速した私の拳を耐えた。 この一瞬で霊素を防御に振ったというの?
「残念だったなっ。 だが俺相手によく頑張った方だと思うぜ?」
不敵に笑うレビィを目にしエイミーは膝から崩れ落ちた。
「そんな、もう手だてが……」
「立ってエイミーっ! 私達で子供も村長さんも、この村だって……ううん。 私の眼の届く場所はなにがあっても救い出すんだよっ」
「寝言は寝てから言えや、無理に決まってんだろぉ? これからお前らを血祭りに……グハっ」
なにか言おうとしていたがそれは叶わず、現れた女性の突き出したハンマーの打撃によりレビィは地に伏していたいた。 見覚えあるポニーテールと紫の髪色に私とエイミーは同時に声を上げる
「そんなに血祭が好きなら自分の血溜まりで泳いでなさいな」
「ル、ルーシー!? なんでここに?」
「事情は後で話すわ。 今はこいつを無力化するわよ」
「無力化? たかだか1人増えたところで俺を止められるって腹か、lざけんなやっ!」
レビィはよほどの自身があったのか、ルーシーの言葉に逆上をしながら拳を振り上げ、当たり散らすようにそれを床に振り下ろした。 なにか来ると確信した直後ルーシーから指示が飛んだ。
「ノエルちゃん、走りながら攻撃態勢に入って」
「っ! わかった」
レビィに向かい直進するも、振り下ろされた拳により砕かれた床の破片が近くまで飛んできてる。
このままじゃ当たるけど、ルーシーが何を考えてるか長い付き合いの私にはわかる。 そのまま私は霊素を拳に込めた。
「石材の破片の雨だ、近寄れはしねぇだろ。 んじゃ小娘、今度こそお前はジエンドだ……な、いないっ? グハァっ」
そりゃ敵からしたら戸惑いもするよね。 だって今の今まで目の前にいた相手の姿が消えてて気がついたら背後から殴り飛ばされるんだもの。
「その言葉お返しします。 ルーシー、行ったよ」
吹き飛ぶレビィをルーシーは転移を駆使して次々と上空へ打ち上げていく。
僅かな時間でハンマーによるものすごい数の連撃をレビィに浴びせていてたった10秒だけど私とエイミーの手が止まった。 鉄よりも硬い石、ジオライズ鉱石の塊で殴られてるようなものだ、いくら頑強な強化術でも耐えられはしない。
「ノエルちゃん、矢に炎をっ」
言われるがままエイミーに熱素を分け、気がついたら私は空中に、眼前にはエイミーが放ったであろう矢と無防備に浮かぶレビィの姿はこの事件の決着を意味していた。 これまでやってきた行い、全部まとめて返す。
「空中だと受け身も防御もできませんよね?」
「なんだ? おい、ちょっとまっ……」
「反省……しなさいっ!!」
振った剣の面は矢を勢いよく弾き飛ばしレビィの腹を捉えた。
レビィは射抜かれた勢いのまま床に勢いよく叩きつけられた。 今度こそ私達の勝ちだっ。
「2人共ナイス連携だったわね」
「にしてもノエル、いつもながらだけど無茶し過ぎよっ。 あれで本当に粉々になってたらどうするつもりだったの?」
う、無茶したのは事実だけに返す言葉もない。
「ロカムのみんなもそうだけどエイミーことどうしても守らなきゃって、無茶しちゃった」
仮に守れても私自身が死んだら意味ない、自分の無謀さを悔やんでいたところにルーシーが割って入る。
「まぁま、結果的にみんな無事だったからよかったじゃない。 さてと……尋問を始めないとね」
そして倒れ込むレビィの場所までにじり寄るとルーシーが開口一番に問いただす。
「さぁ、話してもらおうかしら……村の人達を弱らせた挙句、村中の畑から霊素を吸い集めて何をしていたのかを」
「ルーシー、畑のこと知ってるの?」
「えぇ、村についてすぐ畑の様子を見たら霊素が聖堂に流れる陣が張られた痕があったわ」
「うへぇ、そんな短時間で状況把握するなんてあたしやノエルにはできないわ。 さすがベテラン」
レビィの目的もそうだけど、あの言葉からして彼は黒幕じゃない、きっと裏にもっと大きな……聞き取る必要があるな。
「救世主って? それと、盟主って誰なんですか? 答えによっては衛兵に差し出すだけに留めてあげます」
そう問うもレビィは鋭い眼光で私のペンダントを睨んできた。
「その力……お前が反逆者とはな。 だったら尚のこと同胞を、あのお方を売るなんざ出来ねぇな」
「あなた、なにを言って……まっ、待ちなさい!」
ルーシーが手を伸ばすもレビィは床に突如現れた陣の中に吸い込まれていった。
逃げたというより何者かの術で連れ戻されたかのような消え方だった。
「まんまと逃げられたわね。 それにしてもあいつ、ルーシーと同じ力を?」
「いいえ、座標転移はあんなふうにならないわ。 気になることはたくさんあるけど、このままここにいてもなにがわかるでもないし、帰りましょ」
「そ、そうだね。 帰ろ……うっ……頭が」
「ノエル? ちょっとどうしたのよ、ノエルっ?」
「大じょう……エルちゃ……かり……」
なんで? 力が入らない、意識が……。
あれ? ここ、どこ? 広間? 目のまえにはひたすら階段……扉も開きそうになかったからとりあえず登って体感1時間したくらいでなるほどと合点がいった。
きっと夢だ、こんな長く続く階段があるわけがないもの。
そもそもここどこ? なんか上に続いてる感じからして塔っぽいけど、塔……?
もしかして、ここって生贄に出された時の現場? もしそうなら夢だとしても登り続ければなにか見えるかもっ。
螺旋状の階段を登り続けるも最上階が一向に見えず息も上がってきた。
「いつまで続くのこれ、夢の中で息切れとかリアル過ぎるんですけど……」
まぁでも夢なら覚めるまで上を目指すだけ、そこに手がかりがあるかもなんだから。
「よぉーし、まだまだぁーーっ」
勢いつけて駆け上がろうとした時だった。
(……エル……ノエル……)
————
「ノエル、起きてってば、ノエルっ」
「あれ、エイミー? 私確か聖堂で頭が痛くなってそれから……村のみんなは? それから畑も……」
目を覚ましたら宿屋のベッドだった。 跳び起きて現状を把握するため思考を巡らせようとしたものの、エイミーに大層呆れられた。
「なんでノエルはいつも自分ことより他人のことばかりなのよっ、急に倒れたからもしかしてレビィの攻撃が影響したんじゃって……心配する人の身にもなってみなさいよね」
「なんか心配かけちゃったみたいだね、ごめん。 そういえばルーシーは?」
「畑の周辺にいるわよ。 なんか確かめておきたいことがあるんだとか」
確かめたいこと? もうほとんど解決はしてるけどどうしたんだろう。
気になって外へ出てみると畑を改めて凝視してるルーシーがいた。
私に気付いて振り返るなり軽く怒ってるように腕を組んで『もぉ』と言われた。
いつもながら無鉄砲ですみません。
「あらノエルちゃん、急に倒れてお姉さん心配したんだからね?」
「ごめんってば……エイミーから聞いたけどこの辺り調べてどうしたの?」
「えぇ、いくつか気になることがあってね。 例えばノエルちゃん、今の状況どう思う?」
農地を一通り見渡してみるとそこはかとない違和感を感じた。
「完全に元には戻ってない?」
私の答えを効いたエイミーはなにかを思い出したのか、木の棒で地面に図を書きながら陣の仕組みの説明を始めた。
「あたしもそれ思った。 本来この陣が聖堂にしか繋がってないなら解除したら元の状態に戻るはずなのに霊素はどこへ?」
「調べてみるわ、ちょっと待ってて」
地面に手を当て霊素の流れの探知を始めて数秒後、ルーシーの顔が僅かに曇った。
私もある程度予想はしていたがやはり……。
「間違いない、4割程の霊素が聖堂以外に流れた形跡があるわね。 私はほとんど向こうにいなかったけど2人はなにか心当たりある?」
「心当たりかぁ、ノエルなんかある? あたしは逃げながら撃ってただけだからよくわからないや」
「私も、変わったことといえばレビィが異様な攻撃力と防御力だったくらいかな」
異常と言える硬さだった。 まるで霊素をどこかから集めた様な……どこかから集めたのだとしたらいったいどこから?
「あれはすごかった。 戦いが始まるとレビィの周囲が歪んで尋常じゃない硬さになってたよ」
「きっと原因はそれね。 自身を術式とし、霊素を吸収しながら戦ってたんだわ」
冷静に思い返してる私とルーシーとは対照的にエイミーは拳を握り締めながら激昂してた。
「そのせいでみんなの大切な畑が……ほんっと許せないわね。 あのレビィってヤツ、弓撃つ前に1発ぶん殴ってやりたかったわっ」
「エイミーちゃん、気持ちはわかるけどまずは村長さんへ挨拶行かないとね」
それから私達は村長さんの自宅へ向かうと深々とお辞儀をされた。
「私達だけでなく畑も元の状態に戻してくださるなんて、ハートユナイティスの方々には頭が上がりません」
そんなに称えられると照れる通り越して恥ずかしいな。
少し舞い上がりそうになるも、エイミーが申し訳なさそうに
「全てが元の状態ではないけどね。 それより聖堂派手にやっちゃたけど、お咎めなしでよかったの?」
「そそそ、そうですよー。 修繕費となると土地、堂内の装飾品に設備にあわわわわ」
私やエイミー以上にルーシーは聖堂の周辺を抉ったことを気にしていたが村長さんはそれを「ご心配なく」と言いながら立派な顎髭を触りながら言った。
「あの建物は本部の寄付で成り立ってましての、それに村の恩人から金なんて取れますまい。 君たちとあの青年のおかげじゃ」
「そう言ってくれると助かるわ。 2人共、私に怒られなくてよかったわね?」
「ちょっと勘弁してよルーシー、そうでなくてもしょっちゅう叱られてるのに……ってどうしたのノエル?」
事件は一応の解決を迎えたが、依頼書とその差出人のことがどうにも腑に落ちない。
もっと詳しく聞きたいけど下手に話すと不安を煽ることになる。 なにより彼への疑問は私の個人的な用に過ぎない。
「村長さん、差出人の方に会えたら私からよろしく伝えさせていただきますね」
「そうしてくれるとなによりじゃ。 もし彼に会う機会があったら連れてきておくれ。 村の作物を振舞いたい」
「そうですね。 その時は私達も一緒にお邪魔します」
こうして一応の解決を迎えたが、この一件は手がかりを探す私がこれから巻き込まれる多くの事件の1つに過ぎなかった。
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