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事務所に帰って早速報告を告げると店長は『まさか』といった様子で驚きを露わにしていた。
「話は概ねわかった。 まさか村人どころか村の霊素まで抜かれていたとはっ」
この出来事は幸か不幸か村人への危機感を一層強め、より強固で複雑な術式の結界が張られることになった。
本来なら事件が解決して一安心と言いたいが、事件の首謀者に逃げられ、そのことを懸念しながらルーシーが考察を始める。
「あのレビィって男、『あのお方と同胞』って言葉からして間違いなく『九つの希望』の1人ね」
なんの目的で人々を衰弱させてたかまではわかりかねるけど 」
「ヤツの背景になにかがあるってことも気になるんだけどさ、あたしはそれ以上に依頼書の送り主が気になるわ」
「そうだよ。 なんで彼はそんな回りくどいやり方をわざわざしたの? まるで素性を隠したがってるみたい」
確かに、彼が無関係な善意の人ならコソコソする必要はない、怪しいとは思うけど疑うには情報が少なすぎる。
半々と見てる私に反してルーシーは人差し指と中指を立て2つの可能性を提示した。
「レビィやその裏にいるものに狙われてる、それかその組織と実は繋がっていて便利屋を消すため誘導した……どっちとも取れるわね」
「ル、ルーシーそんなっ……村人たちの憂いに応えてくれたのに?」
「だとしても、それが身の潔白を証明するものとは限らないわ。 事実、依頼書が届くまでの日にちから逆算すればレビィと共謀してたっていうことも十二分に有り得る話よ」
「た、確かにそうだけど……」
張りつめた空気の中『パンっ』と店長が両手を叩く音が響いた。
「まぁま、そのあたりの話はおいおいとして、みんな疲れてはいないか? ちょうど残った依頼もサイラと聖都の便利屋に持ってかれてな、ここはしばし休暇ということでどうだろう」
「休暇かぁ、どれくらいぶりかしらね。 ルーディにでも行こうかな。 ノエルとルーシーどうする? 一緒に行こうよ」
「ごめんねエイミーちゃん、私は残るわ」
エイミーの誘いを遠慮しつつルーシーは踵を返しながら事務所内の書類を取った。
「いつも誰かさんが依頼を安請け合いしちゃうからそろそろちゃんと依頼料のレート決めたいなと思ってね」
「ってことは俺も残るの?」
「当り前じゃない。 ほら、ミーティング開始っ」
ミーティングかぁ、お説教もついてくるんだろうなぁ、店長ご愁傷様。
「しょうがない。 んじゃノエル、あたしら2人で行こうか?」
せっかくの休暇でエイミーもうれしそうだけど、それはいつでもできるから。 今私がしたいことは……。
「ごめん、私ノフィスに行ってくるよ」
******
久しぶりに休暇を利用し、知識の街『ノフィス』へ向かうためコルム平原を南へ進む。
ゆっくり骨休めとかも考えたけど、この休暇を逃したら個人的な時間で手がかりを探す暇は当分なさそう。
「それにしても休暇もらえた日が快晴だなんて日頃の行いがいい証拠かしら」
屈託なくはしゃぐエイミーのお陰で疲れずに済みそう。 ピオスから4時間の距離を1人で歩くのはさすがにこたえる。
「そうだね。 でもいいの? せっかくの休みなのに私に付き合うなんて」
「5年の付き合いで今更なに言ってるの。 それに昨日の聖堂の件もだけどノエルってばあたしがいないとすぐ無茶するんだから放っておけないわよ」
う、否定のしようがない。
「あれは自分でも無茶したなって思う。 とんでもない破壊力だったもんね。 正直な話、レヴィの拳が当たる瞬間『あ、死んだ』って思ったよ」
笑い話っぽく話したがエイミーは珍しく眉を寄せていた。
「そこなのよねぇ。 なんであの時ノエルはあいつの攻撃無事だったのかしら」
「やっぱり、気になるよね。 私が受けた時はとても痛いゲンコツって感じでしかなかったんだよね。 もしかしてハッタリ?」
「それが本当ならあんなに狼狽えてない。 それに、あらゆる物質が粉砕されるのに生身の人間であるノエルが無傷だなんて明らかに矛盾してるわ」
どう考えてもあり得ない状況、心当たりといえるものは1つしか思い浮かばない。
「やっぱりこれが鍵なのかな……ダメ元で外してみるね」
ペンダントが私の霊素を底上げしてるんだとしたら外せば……。
「やっぱ無理そう?」
「うーん、やっぱ外れないや」
「なんにしてもそれがノエルの力の根源なのは間違いないから一度調べる必要があるわね。 試しに霊素を分けるイメージしながら手握ってみて」
1割未満で完全に回復するエイミーに全霊素はキツいだろうからせめて4割程度で。
「どうエイミー、結構霊素多そう?」
「これ、かなりの量……くぁっ!」
次の瞬間エイミーは急に脱力して地面に両手を付いた。 たった4割、それだけでもうこんなになるのっ?
「だっ、大丈夫っ?」
「大したことない、ただ……」
私でもわかるような痩せ我慢を口にしながら膝の土を払い落とすとエイミーは深い溜息を吐いた。
「これで本当に4割なの? 常人の2、30人分の霊素を感じるんだけどっ」
「に、2、30人!?」
エイミーが口にした数量に思わず大声を上げてしまった。
聖都に名を残す聖騎士でさえ人一人が有せる霊素の量は良くて6,7人分って話なのに?
「4割で30人相当ってことは10割で80人分相当の霊素がこのペンダントに備わってるってことよね。 1割未満で間に合うわけだわ」
この装飾品に霊素が蓄えられてるということは解った。 しかし新たな謎が……。
「ペンダントの霊素、枯渇しないのかな?」
もし生贄の人から抜き取った思いや記憶を霊素に変換して蓄えてるのならこの装備の効力もいつかは、とか。
私の疑問を余所にエイミーはあっけらかんとしていた。
「使っても減らないってことは無尽蔵ってことだろうから、細かいことは気にしなくていいんじゃない?」
「それもそっか、でもそれだけこれが頼りになるのならこの先も心強いよね。
「でもさ、記憶の一部が欠けてるかと思えば膨大な霊素を使えたり、私ってほんと何者なんだろうね……」
聖堂でのあの言葉が耳から離れない。 反逆……いつ、誰に私はそれをしたというのだろうか……。
つい視線を落としたとこを見透かされエイミーから心配の声がかかる。
「アイツの言ったこと、気にしてるの?」
「してないといったらウソになるかな。 7年前、私は塔でなにかをしでかしてレビィ、いや……『あのお方』と呼ばれる思想の者を生み出しちゃったのかもしれないし」
妙な罪悪感に襲われ視線を落とすも、エイミーの空気を読まない言葉が飛んできた。
「断言する、ありえないわね」
「なんでそう言い切れるの?」
「記憶が一部欠けても根本の性格は変わらないわけでしょ?」
確かにそうだ。 私は塔の出来事を覚えてない以外はなんら変化はない。
「それにノエルって……」
「私が、どうしたの?」
「お人好しだからいけないことしでかすほどの悪事できなそう……というより悪事してもおっちょこちょいだからなにも起こらなそう」
「あーーーーっ、ちょっとエイミーそれどういう意味? バカにした? 今バカにしたでしょ?」
「してないっ。 バカになんてしてないからねぇ信じて? ノエルぅ」
エイミーは誤魔化すように顔を作ってるけどバレバレ、こうなったらもう遅い。
「絶ーーっ対バカにしたっ、待てーー」
「わぁーーっ、ストップ。 加速の術は反則だってーっ」
走り続けること私は息が上がり元狩人こと野生児のマブは実に楽しそう。
「いやぁ、いい運動になったわね」
「『いい運動』じゃないよもぅ、エイミーってばすーぐ調子乗るんだから」
あの後しばらく追いかけっこの延長線でひたすら走った結果ノフィスまでの残りの移動時間は1時間と当初の予定より30分早い見通しとなった。
「まぁま、結果として早く着きそうだし時間かからず行けるならそれに越したことはないでしょ?」
「それもそうだね、まぁそういうことにしておくよ。 あまり遅くなるといくら街道でも……?」
「ノエル? やっぱり怒っ……」
今草むらから物音が、まさか魔物? でも街道周辺は魔除けの術式が張られてるから大丈夫なはず。 ならなんでこんな殺気が。
「構えてエイミー、茂みになにかいる」
「まさか盗賊? にしてはまだ夕方にもなってないけど」
警戒態勢のまま様子を見ていると奥からルガンらしき魔物の唸り声が響き、『魔物?』と頭で理解した時には鼓膜を破らんばかりの咆哮が聞こえたのと同時にオオカミ種のルガンが飛び出してきた。 肘に風素を集め、刺突を繰り出そうとするもその一撃は爪に易々と弾かれる。
「弾かれたっ? この個体、硬いっ」
態勢を立て直す間もなく逆立った尻尾が私の右頬に迫る。
「間に合わない……だったら、これでっ」
風素で右わき腹に回る。
「エイミー、当たらない程度に撃ちこんでもらっていいかな?」
「オーケーっ、上手く誘導するからトドメ任せたわよ」
放たれた矢は左脇の前足すれすれで地面に刺さり、私の方向に向かって回避してきた。
「次は外さない、届けぇっ!」
なんとか剣先を喉元に突き立てる。 同時に四足の肢体はガクンと崩れた。 どうにか倒せたみたい。
「危なかったわね。 なんか一瞬よろけてたけどどしたの? ノエルの剣はまだ初級だけどルガン程度に後れは取らないような……」
さっき剣を弾いたこの爪、形からして……。 詳しく調べようと変異したルガンに近づいたその時だった。
「消えた、大蛇と同じ……エイミーどう思う?」
「どうもこうもおかしいとこだらけね。街道に出るってとこも含めてネイさんに話しておく必要がありそう」
「賛成、こんなのがうろついてたら街や村の人だって不安で仕方ないもんね……ロカムの件と関係してたりするのかな?」
これが人為的なものじゃなければいいけど……。
「裏が取れてない以上なんとも言えないわね。 それを確認するためにも向かうんでしょ? ノフィスに」
「そうだね。 急ごう」
知識の街ノフィス、この〝フリーミア地方〟の学が集結する〝見聞の館〟の扉を開けるなりエイミーは静粛な館内に似つかわしくない声を轟かせた。
「こんにちはー、ネイさんいますかーっ!?」
「しっ、声大きいってばっ、みんなこっち見てるじゃない」
エイミーは『まぁまぁ』といった様子で手を振るけど、知を求む人にとっては図書館や博物館と同じくらい神聖な場所なんだからね?
代わりに誰に謝るでもなく周りに頭をペコペコ下げていると館内の看板とも言える緑のショートヘアの女性が姿を現した。
「ノエルさん久しぶりね。 エイミーさん今日も元気じゃない」
「ごめんなさいねネイさん、後でこのおバカさんはお説教しておきます」
改めて頭を下げるとネイさんは微笑を浮かべた後軽くあくびを浮かべた。
「気にしないで。 店番で眠かったとこだからちょうどよかったわ」
ネイさんは考古学を専門とするこの道10年のベテランだ。
5年前の当時は過去を話すつもりはなかったけどとてもいい人で思い切って話してみた。
以降は依頼と称しては私の記憶探しに協力してくれて、ほんと頭が上がらないよ。
「今日も記憶の手がかりを探しに来たの?」」
「はい。このペンダントがのことなんですけど、作成された時期って調べることはできますか?」
今まで気にも留めてなかったけど、これがいつできたものかくらいは知っておかないとね。
「できるけど、それが身体から外れない以上ノエルさんごと陣に乗ってもらうしかないわよ?」
「ってことは私の年齢や体重まで知られるというわけですね?」
恐る恐る聞いてみるとネイさんはサラリと『もちろん』と断言した……あぁ憂鬱。
「気にしなくていいんじゃない? あたしとノエル同い年の22だし」
「体重までバレるんだよっ? 乙女として由々しき問題だよっ」
「でもノエルにとって目下の目的の方が由々しきことじゃない?」
う、それを言われたら返す言葉がない。 たじろぐ私はエイミーに回れ右の状態で陣まで押された。
「ほぉら、うだうだ言わず陣に乗る、別に減るものでもないんだから」
「わ、わかったってばもうっ」
渋々歩き解析用の陣の中心に立ったのと同時に全体が青白く光る。 ちょうど見上げるくらいの高さにあらゆる情報が浮かび上がってきた。
***ノエル・イルセリア 精光暦2125年 8の月生まれ 22歳 55kg***
「本当だ、ノエルの生まれ年や体重が正確に示されてるわ」
「準備はしてた。確かに心の準備はしていたよ? けど実際にこう数字で表示されるとさぁ」
「それよりもノエルさん、これ……」
ネイさんの言葉で我に返った私とエイミーはただただ困惑するしかなかった。
最後に聞こえた「ノイヴィ……x4c6精光暦25……製ぞ……」という言葉を聞いた直後、ネイさんは驚きの声をあげる。
「精光暦25年製造ですってっ!?」
このペンダントの作成された時期として示された年が2000年以上も離れてる?
驚愕する私とネイさんの横でなにやら計算をしているエイミーがどこか釈然としない顔をしていた。
「おかしいわね」
「おかしいって、なにが?」
「25年と2125年の開きよ。 ノエルの生まれとの差が2000年とか切りのいい年数じゃないのよね」
言われてみれば……どこか中途半端というか、なんか変。
「ネイさん、それに関してなにか知ってたりは……」
「ごめんなさい、私もある程度の遺跡を巡ってはきたけど生贄について記されているとこは見られなかったわ」
「そう、でしたか。 協力してくれてありがとうございます。 今回の調査料はいくらになりますか?」
不可解な生物の部位とペンダントの調査費用、合計して2万ファムってとこかな……と思っていたらネイさんから思わぬ提案が入ってきた。
「調査料ならちょうどお願いしたいことがあるからそれでチャラってことでどうかしら?」
そう言うとネイさんが古代語の書かれた一冊の書物を手渡してきた。。
「生贄と厄災の足音……?」
「やっぱり、ノエルさんそれが読めるのね?」
「あ、はい。なんとなく読めました」
渡された書の題名を読み上げるとネイさんは感心したのか目をしばたたかせていた。 なんでだろう、これもペンダントの力なのかな……。
「この館の誰もそれに書かれてることを解き明かせなくて困ってたのよ。 解読を明日までできるとこまで依頼してもいいかしら? 生贄について載ってるかもしれないからノエルさんにとっても悪い話じゃないかも」
「っ! わかりました。宿着いたら早速取りかかってみます」
まず今日のやることをなるべく早く終わらしてっと、いそいそと夕食とお風呂を終えてからはネイさんから借りた書をひたすら読み込んでいた。
白紙のページがあったと思ったら献立、はたまた日記と、なにを伝えたいのか分かりかねる内容だった
「主にかつての生贄になった人々の生活のことが載ってるけど、どれもよくわからないわね」
私が振ったルビを元に流し読みをしながら推測の域を出ない文面に対しエイミーは目を泳がせている。
「それでも書として残ってるだけ御の字じゃないかな」
「まぁ確かにね。 ん? ノエル、このページ、233から飛んで333ページになってるわよ?」
「破けちゃってたのかもね。 ほぼ古文書みたいな感じだから」
書いてあったのはやれ当時のフリーミア地方の中心に生贄の呪いの渦ができるとかやれ満月の深夜に生贄の亡霊が見える等のオカルトの内容が大半だった。
「あたしがノエルより気にするのもあれだけどさぁ、明日ネイさんになんて言おう」
「解明するの期待してたもんね」
「もおぉーー腹立つなぁー」
エイミー何故にご立腹?
「急にどうしたの……ていうよりなにに怒ってるの?」
「このページ破いた奴よっ。 ノエルがこんな切実に手がかり探してるのに余計なことしてもぉーー……え? これってまさか、見てっ」
怒りながらページをパラパラめくる手を止めるなりエイミーは開いてるページに目を通すよう促してきた。
エイミーに言われるまま見たけどどう見てもただの233ページの文章にしか見えない。
「これってどこ?」
「文の頭文字だけ繋げて読んでみて」
「えーっと……え、これはっ?」
段落頭の文字を繋げると『333ページから233を引け』となっていた。
「333から233……100ページになにが……」
100ページ目に飛び、末字を繋いだ文言は『つなぐ、さいごのいけにえのあなたへ』となった。
「最後の生贄、それって誰のこと……あっ」
その一瞬、視界は真っ白になり私は知らぬ地に立っていた。
「ここは……」
気がつくとコルム平原とよく似た場所に立っていた。 雰囲気からして私の知ってる景色とはまるで違う。
見慣れぬ景色に戸惑っていると一人の男性が歩いてきた。
「あ、あのっ、ここは……あなたは今どこへ……」
私の声が聞こえないのか、端整な顔ながらどこか憂いを帯びた眼をした彼は独り言を呟きながら歩みを進めている。
「あの景色が嘘じゃないのなら、早く対策をしないと、彼女が遠い未来に引き起こす悲劇を」
対策? 悲劇って? どういうこと?
「どこへ向かってるんですか? あなたはいったいなにを見たんですか?」
「……。」
呼びかけるも彼は黙ったまま歩き続ける。 きっとこの前の件みたいにまた夢を見ているに違いない。
それからは彼の後を追うも見えない壁に阻まれてしまい、成す術もないまま遠ざかる姿を眺めていた。
「行っちゃった。 それにしてもロカムでのもだけど妙にリアルな夢だな……あっ」
眩い光に眼の前が遮られたのを最後に私の視界は宿に戻っていた。
*********
「ノエル、どうしたの?」
エイミーの様子からして意識を失った訳ではないっぽい。 じゃあさっきのは白昼夢……というより夜中夢?
「私どのくらいボケっとしてた?」
さして時間は立ってないとはいえ気になり確認を取ったがその答えに私は耳を疑った。
「繋げた言葉を呟いたら一瞬上の空だったからどうしたのかなって、それがどうしたっていうの?」
ウソでしょ? 確か言葉を呟いたら目の前が眩しくなって、それから彼と邂逅した時のあの時間は体感10分はあったはず、それが一瞬だとでもいうの?
「エイミー、聞いてほしいんだけど……」
この書の100ページを開いてから起こったあるがままのことをエイミーに話した。
「つまり、その彼は未来に起こるなにかを止めるためにどこかへ向かってるっていうことよね」
「そこは私もわかる。 ただ、彼女って? それと繋げた言葉の『最後の生贄のあなたへ』これって……」
「〝彼女〟ねぇ。 それが彼にとって大切な人ではあるんだろうけど、でもまぁ最後の生贄は、まさかノエル……?」
え、私っ? どう考えても無理があるような……相当古い書物だしピンポイントで私だなんて考えられない。
「まさかぁ、だってその人古代の服っぽかったし、時代が今とここまで乖離があるんじゃたとえ未来が視えても難しいんじゃないかな?」
そう答えるとエイミーは確かめるように私が読み上げた言葉を暗唱したが、やはり何も起きる気配はなかったがある仮説を立てる。
「多分だけど、「最後の生贄」はペンダントを取る誰かを指して言ってたのかも」
「ってことはそのペンダントの所持者が別の誰かならその人が〝悲劇〟を阻止するってことになるんじゃ」
「それだとその人がその書を読んだ可能性は? そもそも記憶を取り戻す行動をするかも謎だし」
確かに私は自身から零れ落ちたものを確かめたくこの便利屋稼業に飛び込んで書の中の彼を垣間見た。
なら過去の生贄の人達は故郷から遠ざけられたことを受け入れた? それとも呪いに抗うことも叶わなかったのかな?
「それに関することとか他にも書いてないかな? 白紙のページ沢山あるし」
血眼になってページをめくろうとするもエイミーにその手は容易く止められた。
「やめておきましょ、ノエルってばいつも根詰め過ぎるからね。 今日も遅いし明日早く起きてやる方がいいと思うわよ?」
それもそうか、無理して明日に支障出てもよくない。
「わかった、そうするよ」
「ふぁーあ……あんまり無理しないようにね」
あ、寝ちゃった。 狩人は生存本能高いからすぐ寝付かないイメージだけど、エイミーってばなんでこんなに早いんだろ。
この寝付きの速さは光の速度だ。
私はというと……数時間布団に入っても眠れない……散歩行こうっと。
「夜明け前のノフィスって初めてでなんか新鮮」
30分前、珍しく早く起きすぎてしまい窓辺から時計をかざしたら月の位置は4時半を示していた。
屋外はなんとか景色が見えるけど部屋の中は暗い、なによりエイミーは夢の中だから明かりを使うわけにもいかず……。
「あのまま部屋にいても二度寝しちゃうしなぁ」
ということで日が昇るまでの間、明け方のノフィスを散歩することにする。
「こうして眺めると建物の色って街によって大きく違う。 ピオスは青、サイラは赤茶色、そしてノフィスは白かぁ。 なにか理由あるのかな」
今まで気にしたこともなかったが、この街の建物のほとんどが赤茶色のレンガで統一されている。
もちろんそれでなにか問題があるわけでなく単に私の知的好奇心だ。
「なんとなく来ちゃったな」
明らかにまだ開店前の見聞の館に来てしまった。
「ネイさんもまだお家だもんなぁ」
空もさっきより幾分明るくなり、もう帰ろうと踵を返した時だった。
「えっ、うわあぁぁぁっ?」
び、びっくりしたあぁっ、こんな時間に人、ってこの人からしたら私も同じか……ん?
「えっと、もしかしてあなた……」
まだ景色が鮮明としない中、目の前の彼の顔をまじまじと見て過去の話が脳裏をよぎった。
確かロカムでロンドさんが言ってた……差出人未記入の依頼書、この地域で見かけない黒髪、もしかして……。
「ど、どうしたの? 僕の顔、なにかついてる?」
人違いかもしれない、でももしかしたら……。
「ロカムの事件を知らせてくれたのはあなたですか?」
「な、なんでそれを、君は……?」
日が昇り、赤レンガが反射した光に照らされた彼は驚きと不安の入り混じった面持ちをしていた。
*********
「君は、いったい……」
「あっ、いきなりごめんなさい、驚かせちゃいましたね。 私はノエル、ノエル・イルセリアっていいます。 少し話しませんか?」
ロカム村での一件を伝えると彼は安堵した様子で顔を上げた。
「よかった。 村はほぼ元の状態に戻ったんですね、ありがとうございます」
「そんな、あなたが事件を知らせてくれたおかげです」
そういえばまだ彼の名前を聞いてなかった、自己紹介したのをわざとスルーした感じにも見えてなんか引っかかる。
「もしよければお名前、聞いてもいいですか? もしかしたらまた会うかもしれないし」
「えっと、僕は……」
そう言うと彼は下を向いて黙り込んでしまった。
なにか後ろ暗いことでもあるのかな? けどなんでだろう、彼に対し疑念を持つことが私にはできなかった。
「言いにくいことでしたら無理に答えなくてもいいんです。誰にでも話せないことの一つや二つはありますから」
「君にも……?」
「えぇ、一つ言えることは……私は、私を知るために生きているということです」
「君自身を知るためか、僕は……僕は自らの行いを償い続けるため」
少し間をおいた後、彼は既に日の昇りきった空を見つめながら去っていった。
「なんか不思議な人だったなぁ……いけない、解読の時間なくなっちゃう!」
朝陽は6時の方角を射していた。 エイミーまだ寝てるかな? 起きてませんように。
*********
「いくら治安の良い街でもあんな薄暗い内に出歩いたりしたら危ないでしょ? 心配したんだからねっ?」
「はぁい、ごめんなさい」
怒られた、私が外に出て少しした後目を覚ましたみたいで、帰ったら早速お説教を食らい、言い訳と外で起きた出来事を説明しながら解読を進める
「それにしてもその彼、なんで名乗るの躊躇ったのかしら、やましいことでもあるのかな……」
エイミーは訝しむように彼の様子について勘ぐっていた。
無理もない、夜が明け切る前に開店数時間前の館の前にいるなんて誰が聞いても怪しいと思うだろう。
もっとも、私も人のことを言えたものではないけど……。
「それよりも、その先の白紙のページの解読がもう2時間経つのになに一つ解明できてないっ」
「ここまで解こうとしてなにも出てこないってことは本当に意味のないページなんじゃないかな? ノエル、未練なのもわかるけどネイさんとこ行きましょ?」
「うぅ、情報は得たけどさ、謎が増えたに過ぎないからなんかなぁ」
後ろ髪引かれる思いで館に入ると足早にネイさんが駆け付けてきた。
「2人共おはよう、ノエルさんどう? 解読少しは進んだ感じ?」
「すみません、ほとんど進まなかったです。 任務失敗ですね」
ガッカリするだろうなぁと思ったら思いの外ネイさんはあっけらかんとした様子だった。
「古いのもあるけどページも飛び飛びだから気にしないで。 それより、有益なものは載ってた?」
「あたしは見えなかったけどノエルは面白いものが見えたみたいよ」
エイミーがそう答えた直後、ネイさんは食い気味に尋ねてきた。
「面白いもの? 聞いてもいいかしら」
「えぇ、いいですけど……」
昨晩起こった出来事を話すとネイさんは『そんなことが……』と一瞬驚くも、書をパタリと閉じながらなにかを決意したような眼に変わる。
「ノエルさん、この書、あなたが持ってはどう? 今から話すこと、落ち着いて聞いて」
「落ち着いてって……そんなに深刻な話なんですか?」
理解の追いつかない私にネイさんは思い返すように天井を仰いで話し始めた。
「実はそれね、数年前あなたと同じく元帰還者を名乗る女性から渡されたのよ」
「元帰還者? 50年に一度の生贄だから計算上からするとおばあちゃんの年齢かぁ、でもそれくらいの年齢差の人なら世界のどこかにいるんじゃ……」
私の答えにネイさんは予想通りと言いたげな目をしている。
「そうね、普通ならそう思うわよね……」
「普通なら? なんか含みを感じるわね」
エイミーの問いにネイさんは一瞬言い淀むも、意を決した様に口を開いた。
「50年前の人にしては若すぎるのよ」
「40代に見えるとか……ですか?」
「そんなレベルじゃないわ。 そうね、見た感じ私やルーシーさんと同い年くらいと言っておこうかしら」
「そ、そんなっ? あり得ない……ってノエルずいぶん冷静ね」
「えー? これでも結構びっくりしてるよ?」
驚いてるのは私も同じ。 ただ、あまりに私の知る常識から飛躍しすぎた話と書を託されたことで驚き通り越して呆然としている。
「それよりも、本当にそれ頂いちゃっていいんですか?」
「彼女にお願いされたの。 この時代の元生贄に当たる人に渡してほしいって」
「この時代の……やっぱりノエルね」
顔も名前も知らない人に重要な書を託す、いったいなんの目的が……。
「その方、なにか他に言ってませんでしたか?」
「そういえば、『これが最後であれば、もう時間が』とか言ってたわ。 もしかして……」
一瞬ハッとした様相を見せた後ネイさんは先ほど聞かせた話について触れてきた。
「ノエルさんが見た男性は『悲劇を止めないと』って言ってたのよね? どういうこと、まさか災厄でも起こるというの?」
「書の男性もネイさんが会った女性もいずれも焦りから出た言葉なのはわかります。 けど……」
もう少しでなにか見えてきそうだったが2つの言葉の関連性を裏付けるものが見えず手詰まりかと思った時、エイミーは意味深な言葉を発していた。
「その書の持ち主、何回運んだんだろ」
意味深な言葉に思わず聞き返した。
「今なんて……?」
「いやね、『これで最後』って言葉からして何回運んだんだろうなぁって思ってね」
エイミーの考察によるとその女性は幾度となく書が過去の元生贄の人々に渡るように運び続け、最終的に私の手に渡ったということらしい。
「逆説的に言うとこれまでさいごのいけにえって者に該当すると出会えなかったってことかしら」
ネイさんの疑問にエイミーはゆっくりと頷いた直後、館内の新聞を広げ始めた。
「それだけじゃなくて見て、近年各地での魔物の増加や人々の奇行、時期的に見てもここに書が運ばれた時期と被るのよ」
「既に災厄は起こり始めてそれを止める鍵が私かもしれない、そういうことなんだね?」
あの日の記憶と故郷へ帰るために動いてたのにこんな大きな話になるなんて、それに悲劇を止めるにしても私なんかになにができるの?
「ノエルさん……書の件どうする?」
「少し考えさせて下さい。 世界を背負えるほど私は大それた人間じゃない。 それでもこの書が手がかりなら、手放し難い気持ちはあります」
私の答えを知ってたのか、はたまた気を遣ったのか定かじゃないけどネイさんは優しい笑みを向けながら肩に手をかけてきた。
「結論を急ぐことはないわ。 ノエルさん自身のために読み解いていく内にその〝悲劇〟も食い止めることに繋がるんじゃないかしら」
「そんな単純なことなんでしょうか?」
戸惑う私にいつもの屈託のない明るい声が聞こえてくる。
「今まで手がかりを探すためにこなした依頼の数があたし達が助けた人の数、少しずつでも確実に手掛かりに近づいてるはずよ」
こなした依頼数はこの5年で200を超える。
そういえば、つい最近までロクな手掛かりが得られなかったのにロカムの件以降大きく前進しつつある。
「ネイさん、〝私のため〟でいいんですよね?」
「えぇそうよ。 誰かや世界だなんて、昨日の今日でそんな大きな話、私だって受け入れられないもの」
「わかりました。 では、私のために悲劇を止める術を探してみます。 それが託してくれた人のためにもなるのなら」
改めて受け取るとその書は一瞬だけ淡く光った。
「決まったみたいね。 それじゃ行きましょうか」
「行くって、どこへ?」
エイミーは位置を示すように踵を返した。
「ウィルさんとこ、あの人ならなにか知ってるはず」
元聖都の聖騎士、確かにあの人なら現役時代世界各地に、確かに何か情報得られるかも。
技術と武の集まる街のサイラへ向かうため私達はノフィスを発つ。
どうにもここから先は整備されてないあぜ道となっててキツい、風が吹けば土煙。 同じ風吹きならオキヤの儲かりの方がいいな、ウチの店万年金欠だし。
愚痴りつつもノフィスを発って1時間半、サイラまでまだまだ距離があるというとこでそれは起こった。
「ノエル、ペンダントが……」
「ほんとだ……え? ちょっと待って、書が……」
聖堂での戦いの時と同じようにペンダントが眩い光を放ったのと同時に鞄から飛び出した書は白紙のページを開いていた。
「110ページ、読める?」
エイミーには見えなかったみたいだけど私にはその文章がはっきりと見えた。
***彼の者は穢れを浄化し幽閉されし民を解放す***
文を読み上げたのと同時に不思議な感覚が沸き起こってきた。
「大丈夫? なにが書いてあったの?」
「なんか予言めいたのが書いてあって読んだら不思議な力を感じたっていうか……」
手の平を地に付けてみるもこれといった反応はなくなにを伝えたいのかも意図が読み取れなかった。
「いったいなんだったんだろ、書いてあることもいちいち回りくどいし」
「ペンダントが光って書が浮いてる以上意味のない現象ではないんじゃない?」
「そうだね、それにしてもなんでエイミーはそんなに気が長いの?」
「そりゃ狩人だからね」
えぇー、そういうものなの? 私なんて故郷の農作業の手伝いもイライラするのに。
「長い時は獲物狩るのに半日以上費やす時が多かったからね、そりゃ人より気長になるわよ」
「それがポジティブの源なんだね。 あぁ羨ましい」
『そう?』と誇らしげに笑ったと思ったら思わぬ言葉が飛んできた。
「ノエルも気長だと思うわよ。 あたしより時間を費やすものを追いかけてるんだから」
「あぁ、言われてみればそうかも」
私の探し物、見つかるまで何十日かかるんだろ
「そういえばウィルさんとこれってなにか関係あるの? 騎士って考古学と縁遠い気がするけど」
なんの気なしに聞くとエイミーは得意げに語り始めた。
「いい? 聖都で騎士をしてたってことは任務で他の国に行ってたこともある。 ならそれの持ち主を見かけたこともあるかもしれないじゃない?」
「ってことは、これの持ち主なら疑問の全てを知ってるってこと?」
「そういうこと。 仮に書の全てを知っていないとしてもなにを目的に歴代の生贄に託してきたのか、それだけはわかるはずよ」
歴代の、ってことはこの書を託してきた人は途方もない年月を生きてきたに違いない。 だからこそ納得いかない部分がある。
「どうしたのノエル、そんな難しい顔して」
「なんか引っかかるんだよね。 これの持ち主が長生きしてきてるっていうのが本当ならそもそもの話、最初から彼女が悲劇ってのを止めればいいんじゃないかって」
「まぁ回りくどいやり方ではあるわね。 私が彼女だとして阻止する力があるんだったらチャチャっと止めに行ってるわ。 でも彼女はそうはしなかった、なんでだと思う?」
「なんでって言われてもなぁ、漠然とし過ぎていて上手く答えられないよ」
お手上げの如く頭を抱えていたらエイミーってば意地悪な問いを投げてきた。
「ならこの例えならどうかしら、ノエルはなんでオブリヴに帰らないの? 決して行けない距離でもないのに」
「もぉー、知ってて聞いてるでしょ? 帰らないんじゃなくて〝帰れない〟のっ。 わけわかんない呪いのせいで私が近づくと母さんも父さんも病に……まさかっ」
本質に気付き声をあげるとエイミーは『それよ』と言いながら人差し指を立てた。
「持ち主自身が災厄を止めるにはその行動に制約がかかってる、又はノエルのような膨大な霊素を有してないってことになるわね」
「霊素はまぁわかるけど制約かぁ。 それについてもわかればいいのになぁ」
「到着すれば時期にわかるって。 だいぶ歩いたから今度こそサイラまで目と鼻の先ね」
ようやく着く。 そう胸を撫で下ろそうとするも、けたたましい音が徐々に近づいてくる。
「足音かな。 なんかさっきより大きくない?」
「音の分析なら任せなさい、あたしの十八番よ」
そう言いながらエイミーは地に耳を当て始める。 これで付近の音の種類がわかるんだから感心する。
「魔物の足音、なのかな?」
「それは間違いないわね。 ルガンとボア―が数匹、足音の方向は……!?」
「え、なに? なにかまずい感じ?」
顔を上げたエイミーは強張った表情のまま私達が今向かってる街を指差していた。
「まずいわノエル。 あの魔物達サイラへ向かってるわ」
「さ、サイラへっ? そんなとこに魔物が侵入なんてしたらっ」
「えぇ、とんでもない被害が出るわね」
ここから街の便利屋まで急いでも10分はかかる。 とてもじゃないけど間に合わない、ならせめて……。
「届いてっ」
サイラへの警告として空に向けて放射状の光を放ってそうこうしてる間にエイミーは準備万端とばかりに矢の装填を終えていた。
「ヤバい時はカバーよろしく、ノエルの術はいい盾になるからね」
「他力本願なんだからぁ」
そうツッコむもエイミーの眼は緩むことなく私の立つ向こう側に狙いを定めていた。
「適材適所って言ってちょうだい……来るわよっ」
街の入り口前のここが唯一にして最終防衛線、どうにか守り切らないと。
「来るわよっ。 前方にルガン3頭後方ボア―2頭、ルガンはやっぱり昨日見た変異種ね。 ボア―は……」
エイミーは魔物の情報を遠目で分析するも、ボア―の特徴を掴みかねていた。
「もしかしてあれだけ通常の個体なの?」
「いや、変異種と行動を共にしてる以上それはないと思う。 ただなんて言うか、見当たらないのよ。
変異種と決定づけるだけのものが」
見当たらない……理解できない分なおさら脅威を感じる。 接近して確かめてみるか。
「水素分けるからなにかあったら躊躇なく撃って」
「え、まさかあの群れに突っ込むの? ちょっとノエルっ?」
前方のルガン3頭が後方のボア―を護る形で陣を組んでるのが気にかかる、力でならボア―の方が上なのにこれはいったい……。
「あれやるか。 寒いから本当はやりたくないんだよなぁ」
両手に凍素を発生させた状態で反対の手首を掴む態勢のままギリギリまで引きつける、その後ルガンが一瞬下がったのと同時に後方から飛び出してきた2頭ボア―が飛び出してきて私は牙獣に囲まれる状態となった。
「あぁもうっ、言わんこっちゃない」
「大丈夫、勝算あるから」
輪の中で両手を地に付けると体内で凝縮させた冷気が一気に上昇を始めると共に魔物たちは完全に凍り付いた。
「うぅぅぅ、寒ゔうぅぅーー」
やむを得ないとはいえこれは地獄だ。 いくら夏場とはいえさすがにエイミーも心配してる、冬じゃなくてよかったよ。
「ちょっ、大丈夫っ?」
私は熱素を生成しながらエイミーの隣に立った。
「平気、それよりも弓構えてっ」
距離を取りつつ雷素を当てた後、両の手を地面に付けたところで弓を構えながらエイミーは怪訝な表情となった。
「ちょっとノエル、なにそれ?」
「地面を盾にするのっ、レビィの時ほどじゃないにしても結構な衝撃だと思う」
「ちょっ……」とエイミーが次の言葉を紡ぐ頃には既に矢は放たれていた。
すかさず地面をせり上げた直後、以前とは比較にならない爆風が巻き起こり、牙獣はもちろん私達諸共5メートルは吹き飛ばされた。
「ちょっと、ノエル―っ?」
「あはは、やりすぎちゃったね。 けどあれだけの威力なら」
そう安堵したのと同時だった。
「ノエルっ! 危ないっ」
煙の中から1頭ずつの牙獣が眼前に迫っていた。
エイミーを突き飛ばし安全を確保しながらルガンの爪を剣で受けるもそれが決定的なあだとなった。
「どうしよ、刃が欠けちゃった」
最悪とも言える報告にエイミーは
「見りゃわかるわよ。 あれできないの? レビィにぶち込んだやつ」
「ちょっときついかも、あの爆破で頑丈で剣まで折ったってなるとレビィの時の倍の霊素を練ることになる」
「というと?」
その考えはあったけど、あれはそう易々と実行できるものじゃない。
霊素を体術に転用する場合、消費する量に比例して身体にかかる負荷が比例する。 それは当然筋力と体力がある程多く使うことができる、つまり……。
「私の身が持たないってことっ」
「ど、どうするんよー!?」
こうなったら術だけでしのぐしかない。
「エイミー、弓構えて」
「雷素での爆破は効かないんじゃっ」
「鋼素を付随してみる。 あのやり方ならっ」
「あのやり方……そうかっ」
私達と魔物の間合いは0距離。 けどそれでいい、あれが変異種ならコアがあるはず。
「私が時間を稼ぐから準備しといて」
「待って、術だけでやり過ごすつもり? 無茶よ」
エイミーの言う通りだ。 ペンダントは無限に近い霊素があるためいくらでも術を撃てるが大きな欠点がある。
「でもやるしかないよ。 ここでなにもしなかったら私達も街も無事じゃ済まない……頼んだよ」
そのまま私は凍素を宿し前方に出て両手をかざす。
「仇なす者へ、凍てついて刻よ止まれ」
詠唱と同時に牙獣は足から徐々に氷ってやがてその動きを止めた。 そして私はさっきと同じように雷素を放つと距離を取りながら紅い霊素を練る。
「お願い、効いてっ」
次の瞬間爆破が起こるもそれはいつになく弱弱しく、その威力は威嚇程度にしかならないものでむしろ彼らの怒りを買った。
「無茶よノエル、リチャージなしでなんてっ」
そう。 英霊術は連続して撃つごとに威力が弱まり再び最大限の威力を出すには時間を置かなくてはならない。
これが危険な愚策なのは百も承知だ。 けど、それでも退けないっ。
「近くまで来たら打ち上げる、そしたらお願い」
憤慨しながら近づいて来る魔物をギリギリまで引きつける。
一瞬でも判断が遅れたらあの牙に、どう動けばと判断しかねていたその時だった。
「ボケっとすんなっ、死にてぇのかっ」
「その声、まさかっ」
エイミーがその声に気付くと深紅の髪をした男性は強い踏み込みの後、身の丈ほどの剣をルガンとボア―の腹を同時に斬り割いた。
「ヴェ、ヴェルクさんっ?」
どうしてここが……そうか、さっき打ち上げた光。
「話は後で聞く、早くトドメをっ」
「はいっ、いくよエイミーっ」
「いつでもっ」
露わになった心部に狙いが定まるように地面をせり上げるとエイミーの放った矢は2つの心臓を通り越し、コアを正確に打ち貫いた。
直後、紫色に怪しく光るコアはまるでガラスが割れるかのように砕け散り、魔物は力なく倒れた。
今度こそ倒せたか警戒しつつ様子を見ていたが、彼は戸惑う様子も足を進めた。
「ちょっ、不用心過ぎよっ」
「大丈夫だ、もう息の根は止まってる」
制止しようとするエイミーを気に留めずにヴェルクさんは足を進める。
そして横たわる牙獣の前へ進み、触れようとしたところでやはり消滅した。 あの消え方、森の大蛇を倒した時と同じ……こんなことがあるのかな? 最近変な異変が多い気がするけど。
もしまた九つの希望が絡んでるのだとしたらこれは……。
「やっぱこいつもか……」
今「こいつも」って? ヴェルクさんの言葉が気になり私は前へ歩み寄った。
「あの、この魔物についてなんですけど……」
話を切り出そうとするも、途中で遮るようにヴェルクさんは手をかざした。
「まぁ待て、お前たちなりに聞きたいこともあるんだろうがまずこっちの質問に答えてもらおうか」
あちゃぁ、これ完全にお小言言われる流れだ。 観念しながら座り込むとヴェルクさんは「あー」と言ってから話を切り出す。
「さてと、んじゃ聞かせてもらうとするか。なんであんな無茶をした?」
「ご、ごめんなさい」
色々理由がありすぎて謝罪文句しか出てこないなぁ。
「いや、『ごめんなさい』じゃなくて無茶した理由を聞いてるんだが……」
「ちょっとっ」
一つに絞りきれず理由を言いかねていたとこでエイミーが割って入ってきた。
「仕方ないでしょっ? やらなきゃこっちがやられる状況だったんだからっ、そうよねノエル?」
「というより私達から仕掛けて危なくなったっていうか」
いつものようにバカ正直に答えてしまう私にヴェルクさんは「あのなぁ」と呆れる顔をしてから彼の戦術講座が始まった。
「お前らバカか? 向こうから仕掛けてきたんならともかくテメェの方から仕掛けるなんざ無謀すぎだろ」
ヴェルクさん説教に負けじとエイミーは抗議の姿勢を見せる。
「じゃあ街が襲われたらどうすんのよっ? 子供やお年寄りが巻き込まれてもいいって言うの?」
「巻き込まれる前に俺が対処してるっ、ウィルから鍛錬受けてるから並の衛兵より腕は立つ……んで今日はどうした? なんか用があるから来たんだろ?」
そうだ、サイラに向かったのはそれが理由だった。 でもその前にさっきの魔物の件も含めて経緯話した方がいいかな。
「ウィルさんに用があって来たんですけど、その前にさっきの魔物のことについて」
私の問いにヴェルクさんはさっきまで魔物が倒れていた方向を見ながら答える。
「この間出向いた先で変異してる魔物に遭遇したんだがよ、倒したのはいいが遺体も残らず消えちまってよ」
ヴェルクさんの言葉にエイミーが食い気味になる。
「それ、あたし達も昨日だかおととい出くわしたわよっ。 ルガンを相手にしてるにはノエルの動きになんか違和感があって」
「そうだね。 1頭だけだけど、爪がいつになく硬くて剣先が取られそうになって……」
言い淀む私を見かねたヴェルクさんは刃の欠けた剣を拾い上げる。
「んで今日無茶した結果が得物の破損か、こりゃ修理しねぇとな。 ゲイリー爺さんとこ行くぞ、話は歩きながら聞く」
「ちょっ、待ってってばっ。 行くよノエル」
「ま、待って2人とも。 置いていかないでー」