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開幕 下
(闘技場にて)
闘技場はドームの様な造りで、高さ50メートル弱程ある。
様々な憶測が飛び交う周りの人々の話し声がうるさい――くるんじゃなかったとポッドは思った。
けれども現在この場に来られるのは家族の中でポッドしかいなかった、致し方あるまい。
闘技場の席はすでに満席状態であったが、運良く彼は一人で座る場所を確保する事ができた。
彼は由良を誘ってみたところ、(ユーラと愛称で言っているポッド) 今日は別件で用事があるため行けないといった手紙が今朝ポッドの元に届いた。 手紙の内容は、先日の帰らずの門の一件であった。捜査隊はすぐ動き出し立入禁止区域を調査しているが、未だ怪物と思わしき痕跡は見つかってないといった事と、不用意にああいった場所へは近づかないように、といったユーラなりの忠告が込められた文を受け取ったポッド。
彼女はその件で忙しいのか、門で別れた以降の姿を見てない。
闘技場の石椅子へポッドは座ったまに、周囲をぐるっと見渡した。既に席についている人、立ち歩いている人など様々だ。まだ開幕時間になっていないからか、皆、要用に暇をつぶしているのが多く見受けられる。祭りの様な賑わいの中、人々はこれから始まる王位継承の開幕の挨拶を待ちわびていた。
会場の下の方に目を向けると、闘技場の壁面に建物が建てられていた。
その建物は、周りの地面より高くなるように幾重も垂直に長い木材が縦横交互に高さ20メートル、横へ50メートルほと幅広く組み立てられていた。
その上部に一部踊り場のような設計で、人が座れる席が何席く置いてある。その踊り場まで誘うかのように、席めがけて一直線に緩やかな傾斜の長い階段が造られてあった。その席までは何段か登らなければ座れない。
まるで櫓と緩やかな長い階段が合わさっているような建造物だった。
(イメージ画)
件の人々はまだ姿を現していないが、王族が座る場所としては妥当な造りだとボッドでも思った。
――あの長い階段を上った先の椅子に、王族の人が座るのだろうな――とポッドは予測した。
「(……椅子が四席。)」
すると、ポッドからでは見えない位置のところから、警備の人々と上等な衣を羽織った人々がその櫓の様な所へ何人か列をなして登っていった。人々は4席の椅子の周りを、囲うように並んだ。
そろそろ始まるのかと皆そわそわし出したが、未だ開始の合図は起きなかった為、拍子抜けしてしまう。そして周囲は再びざわめきだす。
「――一体どんなやつらかねぇ」
「――きっと、ろくでもねぇーやつらさ」
「――しっ!あんた声大きいよっ!」
「――まともな奴なら誰でもいいべな」
「――やっぱ、先王の弟のペラルギア様が安定してる」
「――金をくれるやつなら俺はそいつに投票するぜ!」
「――ふん、下種が。ただの紙屑に何の意味がある。学舎だ!王立図書館の解放!これじゃ!知識は誰でも平等にすべきじゃ!」
「――家畜の肥料を下げてくれ!牛が育たん。食べなければ死んでしまう」
「――そもそも、農業を営むやつは種子の購入が原則だと?!やってられん!耕せんじゃろ!そんな法破棄じゃ!」
「――貧乏人にもチャンスを!」
「――女が欲しい!ピー!【自主規制】」
各々言いたい放題言っていた人々の声を横目に、ポッドは、みんな一人ひとりの考えはあるし違うのだなと率直に感じただけだった。
*
パタパタと、闘技場内に垂直に垂れている吊るされている大きな旗は何枚かは風で揺らめく。
旗は長方形で数十メートルと長く、布のふちは金の刺繡が施されている。(旗と会場の様子を記す)
我々が目指すべきは永遠の繁栄
呱々の声をあげる海神の子ら、罪咎の爪痕を残し、無常の風とともに夜這い星となりて、我等はやがてこの地に還る
王なくして歴史は創れぬ 帝国万歳
そういった文字が闘技場のドームに建てられている櫓の正面から垂れ下がるその幕は、ひと際目に映る。
書かれている刺繡の文字が、太陽の光によってキラキラと反射していた。
そんな旗を眺めながら思考の隅でポッドは、周囲の喧騒をよそに全く別の追想に耽けていた。それも先日図書館で出会った少年に対してだった。
「(会えないかな?そしたら謝れるのに)って、そんな偶然起きないよな……ハァ」
あんな事を言ってしまった自分への情けなさと、彼に対して酷い事を言ってしまったという罪悪感で居た堪れなかった。
そうして式が始まるのを待っていた。すると_。
「てか、開幕式遅すぎなんですけど。それと、闘技場がこんなに日影のない建物って聞いてないしぃ〜?!日焼け止めクリームぬってね~わ、やばピなんですけど!」
軽く弾む、独特な口調で喋っている少女の声が、ポッドの耳に入ってきた。ちらっと声の発している方へ、ポッドは目線を数メートル斜め前を見た。ポッドより離れていたそこに男女が座っている。
「俺らが来るのはやすぎたんだろ?まぁ気長にまってようぜ」
「はぁ……もう!あたしはもっと後でいいっていったのにあんたが早めに行きたいって言ったんしょ?!そのせいで髪巻くの忘れたし、クリーム塗るのも忘れたんですけど!ほらッ見てみ!この髪!バラバラよっ!マジダルいんですけど!」
「分かったよ悪かったって――そんな怒るなよ、ナチ。……あと、どうせ君の事なんて誰も見てないから気にすんな!」
「はぁ?!それどういう意味~?!」
彼らはポッドの前方、斜め右の離れたところに座っていた。どうやら少女はギャル?のようで、相手の男はその子と知り合いらしい。
女の子の方はポッドが後方から容姿を観察してみるに、髪はボサボサで毛先はくるくると巻かれている。見た感じでは全体的に派手な印象が見受けられた。
一方、男の子の方は、女の子と同じようなチャラ男なのかと思えば割と地味な服装で、言うなれば治安が悪そうな服装をしている。そんなあべこべな2人の組み合わせは、周りからも若干浮いていた。
*
とあるレストランにて、王位継承選挙開幕式開始の数十分前――。
「……ジャンマハオ様、そろそろ開幕式が始まってしまうのですが、、その、説明を……」
腕時計をチラチラ見ながら補佐の男は焦っていた。けれど、目の前のオカマは優雅に紅茶を啜っている。
ズズッ――ゴッくん。
「ん?あぁ、大丈夫よ。映画館の上映と同じでね、ああいうのって勿体つけて、なんだかんだで始まってから数十分かかるのよ。少し遅れても問題ナッシング。……てかこれ、口紅どう?落ちてない?!」
「いいえ、そんな事は……って、話を逸らさないでください!何のためにここで寄り道してると思ってるですか?!」
「……何ってお茶会兼デート?」
「違います!ふざけないでください!私だってわざわざ……」
「もうっ、うっさいわね!そう急かさないで!余裕のない男はモテないわよ〜?」
「…(イラっ)」
「ハァ……分かったわよ。特別に教えてあ・げ・る!この王位継承選挙のカオスを」
「!」
「結論から言うとね――この帝国が崩壊するかもなのよ。そして、それを良しとしている人間がいる。」
「!!――それはつまり、王族内に裏切り者がいるかもってことですか?!」
ハッと男は声を抑えて、周囲を確認した。
「安心しなさい、ここは安全よ――盗聴されてないから」
そうここは完全個室なので音漏れの心配はない。こういう所でこの人はしっかりとしている。
そう言いつつ、ジャンマハオは紅茶をまた一口啜った。
「……まぁその人物、仮にXとすると――Xが故意で裏切りを行っているのかすら、今の所分からないけどね。なにしろ証拠がない」
「そんな……Xとは一体誰が、……――証拠?……もしかしてジャンマハオ様、その人物に心当たりがあるのですか?」
「んふふ❤︎あるもないも、その人で決定〜!てところまできているけどネ!はぁ、残念だわ。証拠が悉く消されてるのヨォ〜それも巧妙にね。でもあとひとおしなのよ!……でもこれ以上やりすぎちゃうと私の身が危険〜」
怯えた演技をしながら体を縮こませた。
「誰ですか?!」
間髪入れずに問いただす。
「いや、まず私の事心配しなさいよ。ハァやぁ〜ねぇー、ここで教える訳ないじゃない!」
「どうしてです?!……もしかして私を疑――」
「アホ違うわよ。貴方が私の前でスパイ行為できるなんて100億年早いわ。そんな事したらけつの穴に指突っ込んで××【ピー自主規制】するわよ」
「…………。ではなぜ、教えてくださらないのです」
「もぅ――貴方ね、私の補佐っていう自覚無いの?しっかりしなさい――外交副官長、ワオウ」
「!」
「ここで確定しきれていない情報を貴方と共有する事はリスクがある。まぁ有利に運ぶ可能性もあるけどネ」
「……だったら、」
「でもね、本当はそうじゃないのよ」
「?」
「行方不明者並びに不慮の事故で10名
――」
「え?」
「先王が王位継承を選挙で執り行うと発言してから、この数週間で消息を絶った、又は亡くなった者達の数よ。蓋を開ければ、どれも王族と関わりがある司法、行政の末端から幹部候補の人間たちまで様々。」
「!」
「んふふ。どうやらアタシより手癖の悪い馬鹿どももいたみたいなのよネェ。……どれもよく分からない怪奇な事件、事故のものばかり。――少なからず裏切りものXは、裏の連中と手を組んでいる。そして、その人物は裏の連中を簡単に従えさせる権力を持っている者」
「……、」
「……私が見ているのはきっと、氷山の一角に過ぎない。そんな危うい障壁を貴方には当たってほしくないわけ」
「ジャンマハオ様……」
「おっと、ここから先は言えないわね。ヒントは教えたわよ。でもくれぐれも詮索しないように、じゃないと貴方――死ぬわよ?」
カップの中注がれていた紅茶の湯気は、いつの間にか冷めていた。
*
「ふぅ。とりあえず前菜の話はここまで。本題に入りましょ」
「え、ここからですか?!」
さっきの話も充分にお腹いっぱいだったのだがと補佐の男ワオウは思った。
「あら何?まだ開幕式まで15分以上あるんだから」
「いや、後15分しかないんですけど……」
「とりあえずそうねぇ、――まず王位継承をする目的はそもそも何なのか、貴方理解しているかしら?」
「ちょ、スルーですか。ハァ……それは、第一に繁栄のためでしょう。その為に王という絶対の権威をもって、まず国の統一を図る。そして民の力を通し、土地を潤していく。王位継承はその一環に過ぎない、権威を衰えてさせない次世代へ引き継ぐ儀式だ」
「まぁ、それも一理あるけど。ではなぜ、王族でないといけないか。貴方、考えた事ある?」
「?それは、代々続いてきたからで……」
「別に王族じゃ無くたっていいって思った事、正直ない?」
「……そう思っていた時もありました。ですが数多の歴史書からでもわかるように、戦乱の世において、自国の統一は必須。
王族ではなく、一般の民が国を治めても歴史は結局争いを起こしてきたからではないでしょうか。そのような事が起きぬように目を付けたのが『血統』。
最も古いものが素晴らしいものである、儚いとされるものである、そういったものが治めることによって、民たちもそれらを守ろうという本能が目覚め争いは少なくなった。
……不思議なものです。新しい革命や革新は時代と共に誕生し変容していけるのに、血統という太古のから受け継いだものは人間が引き継がねば途絶えるばかり
……ゆえに尊い。愚かにも我々は、すべてなくなってからその儚く脆く尊いものの重要性に気づく
……現に今の王族が、最も古い歴史をもつ絶対的な象徴であるとされ証明されている。それ故長きにわたって治める事ができている。」
「んーまあその解答、普通の歴史のテストなら100点はあげたいわ。でもね、ここは綺麗ごとで済ませることができない世界。外交副官長の解答とするならば、70点ね」
ワオウは、やはりな、という表情で目の前に座るジャンマハオを見た。自分も傍に置いてあるカップに口をつけ、お茶をすすり一息つくと、すっと、真剣なまなざしで相手の目を見返した。
――さて、次が自分の本当に知りたかった解答だというように、男の返答を促す。
「そうでしたか。……では、残りの30点は何が足りないのか、ご教授お願い致しますジャンマハオ様……いえ、先生。……なぜ今の王族がパルベニオン帝国を治めているのでしょうか?正直私にはわかりかねます。」
「んふふ♪いいわよワオウ君、大人の階段をのぼらせてあ・げ・る」
ジャンマハオは腕時計を確認すると、テーブルに肘をつき、頬杖をついて窓の向こうの景色を眺めた。その向こうには王位継承の開幕の地ではなく、その向こう側にあるパルベニオン帝国の中心に生えている謎の大木を眺めていた。
その謎の木は、この国で一番高く、大きい。根は太く、放射線状に各地へ張っており、数十キロもあるこの帝国の端の城壁まで広がっているのだ。
一体これほど根を張るのに、どれほどの年月が必要だったのかしら?と、ジャンマハオは不思議がっている。まるでこの国と一緒に見守っている神木のような気がしてならなかったのだ。
「……この世界がいつから始まっているものか私にも分からないわ。でもね、パルベニオン帝国の王族が長い年月を生き残ってきたのは間違いではない。少なくともこの国の歴史書を見る限り1000年以上は続いている、そんな王族。……なぜそんな権力を持った王族がいるにも関わらず、独裁政治の象徴でもある君主制主義にこの帝国は傾倒していないのか考えた事は?」
「それは、戦乱の歴史から学んで、独裁しても繁栄は続かないと分かってきたからなんじゃ」
「ダウト」
「?」
「みんな騙される、『歴史』という名のバイブルに」
*
「パルベニオン帝国とアティラマ帝国そして、ドナテラス帝国は三国同盟しているのは知っているわよね?」
「はい。そして同じく法治国家」
「そうよ。この二国でも王族はいて、帝国法も同じ。今は仲良しこよしでやってるけど、昔は、あるエネルギーを確保するためにドンパチしてたって事は知ってるわよね?」
「はい。当時は三竦み状態であったと。
広大な敷地と豊富な食料や資源を有している
『恵の大地』 アティラマ帝国。
精巧で緻密な設計において優れた機械を生み出し、依頼された部品は完璧に仕上げる技術力をもつ世界随一の機械生産国『世界の工場』、ドナテラス帝国。
そして――森羅万象を操り、神域に近いと謳われるほどの科学力と発明力を持ち栄えている我ら、パルベニオン帝国。
この三国は昔、あるエネルギーを発掘し、その後そのエネルギーの使い道による覇権の争いで多くの死者を出したと」
確認するように男の顔を見た。
「そう――でもそんな争いを続けてたもんだから当然自国の人手も減り、住める場所も崩壊、草木も枯れて食料取れなくて餓死寸前で全滅まっしぐらだった。だからこれ以上争わないように同盟を結んだ。まぁそのおかげで、我が国は今では資源・部品調達の面で二国からの恩恵をもらっている。……でもかつては表面上で仲良しこよしでやってても、こちらが弱みを見せればこの二国は、戦争をふっかけてくる。そんな緊張状態が続いていた時もあった。それがここ数百年前の話」
「?!」
「そうならないために人質が欲しいのよ。でも人質が裏切る可能性もあるから、裏切れない人物……位が高く、かつ自国として価値のある『王族』を人質交換の対象とした」
「ちょ、待ってください。そこは市民ではなく王族なのですか?」
「王族ならば皆『天神の眼』を持っているからね。表立って政略結婚とかで婿や嫁に行き、能力を維持するなんて言ってるけど……」
「……天神の目?ソレは嘘の話ではないのですか?」
「?え、やだ、貴方知らなかったのね、……アレは本当の話よ。元々この3国は、同じ王家を元に分かれて築かれた国だとされている。故に能力も同じものを持っているもの」
「……初耳です、まじですか?つまり、同じ血筋で兄弟喧嘩で争ってたって事ですか?!数百年?!なんて迷惑なんだろう、、」
「ま、そう思うわよね。……でも能力に関しては本当よ。貴方が知らないのも無理ないわ。ずっと昔のことだそうだもの。そうね……簡単にいえば――
『真実を見る事ができる眼』よ。この目の前で人間は愚か、全ての者が見透かされる。王の前で嘘は通じない。王の審判の前で嘘をついた者は、その能力によって――死ぬ。王の御膳で噓を見破られなかった人間は一人としていない。」
「?!王族の血筋だけが持っているという天神の眼には、そんな能力があるのですか?!」
「えぇ、何せ記録が残っている」
ジャンマハオは昔を思い出していた。
(記憶保存システムより)
「これはこれはアティラマ帝国の遣いよ、良くぞ我が国へ参りました。では例の資源開発に関して有意義な話し合いおしようではないですか」
「ええ、こちらもそのつもりです。……ではソレを審判として、王の前でも誓えましょう?」
「えぇ。もちろんでございますとまも……」
※
「――その男、そうお前、『嘘をついたな』我が眼の前で通ずると思うたか」
「「?!どういう事だ?」」
辺りに騒めきが起きる。
「?!な、何を言う?!嘘をついているなど、王族が、私を、……揶揄っておいでか?!」
「黙れ」
「っ!」
「『では答えよ。――これより我が問いかけに対して、真実のみで申せ。無論、お前が嘘をつけばその時貴様は――死ぬ』よいな?」
「――ふん、あぁいいだろう……嘘をつかぬと誓おう」
スゥとその場の空気は静寂となる。
『誓約は今を持って成立とする――では主に問う、この利権は本当に国のためか?』
「……はい、国のため、繁栄のためです!!誓って!嘘など付いてはおりません!!」
その後も男は語り出す。自分は国の為にやっているのだと。
ここで驚くべきことは、その男の回答は通常の人がきいても分からないほどに解説は上手かったのだ。
さらに、男は嘘を織り交ぜて言っても、ほぼ真実という膜で蓋をして語っていた。故に気づくことは困難だし、凄腕のビジネスマンでも見逃していたであろう手腕の持ち主だった。
だからこそ、この内側にある邪悪には勘付かれる筈がないと。
男は鷹をくくっていた。
『……ほう、そうかソレは本当らしい‥だが、――――――嘘つきめ。
残念よのう――ほう、利権の獲得と金を手にしたいのか、ソレで繁栄はまだ許容範囲じゃが、何貴様の魂はそんなのは関係ないと言っておるぞ』
「??!なぜ、まだ喋ってないのに?それに魂だと?!」
「分かるぞ、――聞こえてくるぞ、――お前の心の声。考えている事全て。貴様の核はまるで違う事を言っているではないか……――本当に残念だ、愚か者め。」
「ふ、ふざけるな!そんな魂などと!出鱈目をいうな!!」
「ふん、お主が出鱈目だろうが、なんだろうが『誓約を破ってしまったのはそちのほうだ』私にはどうする事もできぬ――――――さようなら」
「この、こ、の!!人質の癖に、この、人殺しガァアア!!」
ぐにゃり
「ひぃぃ!お許し――ぐはっ、!!」
――ドックン――グジャ!!
「馬鹿者め。魂に嘘をついてどうする」
血の匂いが濃い会議となってしまった。
「……あれは今でも覚えてる。アタシがまだ青二才の時よ。高祖父の記憶を(記憶保存システム)アクセスして見せてもらった。その時は肝が冷えた。爆ぜたの人間が。その場で」
ゴクリ。
「これがあまりにも強力で、死人が沢山出るもんだから、王族側もその力を抑制する為に使わぬ事になってるの。でもね、罪人を捌く時や、外交の安全な法律を行う場での決定時、そして最終命令を使う時はその力を行使する事を良しとした。その決まりがあってからは、無闇矢鱈に使わぬ事になった。」
「そうなんですね……ソレは良かったのでは?」
「馬鹿ね」
「え?」
「手綱を握っているのは結局、王なのよ。偉大な力は時に恐怖を与えてしまうから、ソレを抑えているだけ」
(闘技場)
「……てか、そんな王族内でなら選挙するって案外市民を思ってくれてるんじゃない?先王」
ギャルの隣に座っていた少年が言う。
「はぁー?王族以外がやってほしくないから、あなたがた市民に好きなように選ばせてあげるよ、王族の誰かならね――って感じゃない?なんだかんだでバリバリの血統主義って事なんじゃない〜ってうちは思うけど?成り上がりの市民とかにやらせる気ゼロじゃん?あ、そろそろはじまるっぽいわ。ほら」
「ん、本当だ。てかアレって、……」
派手な少女が指差した方へ、ポッドも後方からしその指先の視線を追った。
観客達からは、その集団の後ろ姿しか見えない。
ポッドから見えた彼等は、皆お揃いの黒を基調とした着物を着用していた。着物には何か紋様が描かれているが、何の絵かは分からない。そして、奇妙なお面を皆被り、顔を見えないように隠していることだった。
彼らは一列になって、一段ずつその長い階段を登っていく。むかうは王候補の席だ。