テラーノベル
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昼過ぎ、鬼殺隊本部の裏庭。数日前の任務で泥だらけになった隊服を、○○は黙々と洗っていた。
今日も、隠(かくし)としての仕事は山積みだ。
「……血の染み、落ちにくいな……」
そんな独り言が風に溶けた瞬間、どこからか現れた派手な男が、いきなり真上から声を落とす。
「——おい、今なんつった?血の染みが“派手”ってことか?」
「……誰もそんなことは言ってないです」
○○は顔も上げずに返した。
この独特すぎる声とテンション。誰だかすぐにわかる。
——音柱・宇髄天元。
キラキラとした装飾、銀髪、額当て、そして場の空気を何割か持っていく存在感。
どう見ても“隠密”ではない。
「ほぉ、口の利き方が地味に面白ぇじゃねぇか。名前は?」
「○○。隠です」
ようやく顔を上げて彼を見れば、宇髄天元はまじまじと○○を見つめてきた。
目の奥で、何かを測るような光が走っている。
「ふーん。……お前、顔立ちは整ってるのに地味だな」
「ありがとうございます。いつも言われます」
「皮肉のつもりだったが?」
「知ってます」
冷静なやりとりに、一瞬の間。
その後、宇髄は爆笑した。
「はっ、いいなそのノリ。派手じゃねぇが、悪くねぇ」
「それはどうも。……それより、私に何か?」
「暇だったから様子を見に来たんだが、面白ぇもんを見つけた」
「……私のことですか」
「そう。地味だけど整った顔に、無駄のない動き、反応も悪くねぇ。もしかして剣、少しやってんのか?」
○○は少しだけ眉を動かした。
まさか、こんな一瞬のやりとりでそこまで見抜かれるとは。
「……自己流で少し、訓練はしてます」
「なるほどな。よし、ちょっと付き合え。庭で手合わせするぞ」
「……はい?」
「だから、俺が相手してやるって言ってんだ」
「……意味がわかりません。なぜ私と?」
「気になった。それだけだ。気まぐれってやつだ」
「柱の気まぐれで呼び出されるなんて、迷惑でしかないんですが……」
「いいから来いって。面白そうな奴は見逃せねぇ主義なんでな」
「面白くはないです。地味ですから」
「その冷めたツッコミがまた派手でいい」
もはや拒否権はなかった。
——
裏庭の片隅。
○○は腰に差していた短刀を構える。対する宇髄は、二刀を下ろすことなく立っていた。
「剣は抜かないんですね」
「お前相手に抜いたら、俺が勝ち目なくなっちまうだろ?」
「……嘘つけ」
「……嘘だ。まぁ、気楽に来い。見るのは“動き”だ」
○○は構えを低くした。呼吸を整え、地を蹴る。
——数秒。
「ほぉ……思ったよりやるな」
「褒められてる気がしない」
刃は交わらない。
だが、○○の動きに対して、宇髄の視線は一瞬たりとも逸れなかった。
十手ほどのやりとりのあと、宇髄が手を挙げて終了の合図を出す。
「上出来だ。動きに無駄がないし、殺気も漏れてない。いいセンスしてる」
「ありがとうございます。でも、柱と比べたら——」
「いや、お前は“隠にしておくにはもったいない”」
その言葉に、○○は一瞬まばたきをする。
「……なんですか、いきなり」
「隊士にならねぇか?俺が鍛えてやる」
「……冗談ですよね?」
「本気だ。さっきの動き、勘もいい。判断も速い。何より、“地味なくせに芯がある”」
「……褒めてます?」
「めちゃくちゃ褒めてる」
○○は少し考えるふりをしたが、内心は驚きと動揺でざわついていた。
自分が隊士に?
冗談でもそんな話が出るとは思っていなかった。
「なぁ、○○。隠でいることに不満はねぇか?」
「……不満はないです。でも、守るために、何もできなかったことはあります」
「その言葉、嫌いじゃねぇな」
宇髄の瞳が真剣になる。
「だからこそ、お前には刀を握ってほしい。人を守れる“派手”な存在になってほしい」
○○は静かに息を吐いた。
「……じゃあ、お願いしてもいいですか。鍛えてください」
「よし、決まりだ!今日から俺の弟子だ。派手にいくぞ!」
「……訓練だけはほどほどにお願いします。死にたくはないので」
「甘ぇな?俺様の訓練は“死なない程度にギリギリ”がモットーだ!」
「やっぱ断ってもいいですか」
「遅い!」
言い合いながらも、○○の胸の奥には、不思議な温かさが灯っていた。
誰かが、初めて“力になれる”と認めてくれた。
それが、こんなにも嬉しいことだったとは。
——この日、○○はひとつの大きな一歩を踏み出した。
地味で、静かな日常が、派手な運命に変わっていく瞬間だった。
コメント
7件
神作品すぎるのみつけちゃったよー!!!!!!ほんとにこれ好きです応援してます!!!!!🔥❤️
めっちゃ最高です!!続き待ってます!!
めちゃくちゃ面白いです!続き楽しみですよ!自分みたいな無能主より全然書くの上手いんでこれからも期待🌳です!頑張ってください!