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あらすじを把握した上でお読みください。
続き物となっているので、一話目の「四月」から読まれるとよりわかりやすいと思います。
「文化祭お疲れさんやでお前ら」
顧問のよく通る声が賑やかな部室内に響く。三年生が引退するので、皆別れを惜しんでいるのだ。別に校舎内で会おうと思えば会える、ということは三年生の列に並んだ一際背の高い先輩によって証明されていると俺は考える。まあ、部活動という枠組みの中だけの交流で満足しているのならば、ここで疎遠になってしまうことが多い。三年生同士はともかく、三年生と二、一年生との間柄では部室以外の場所…廊下ですれ違ったとき、気づかない程度の存在だと、無関係の人だと言わんばかりに目もくれないことがあるだろう。それは中々に心に来るものがある。多分。
コンクール、文化祭。入部して七ヶ月程だというのに、大きなイベントごとに追われすぎじゃないか、と思う。まあ、それで嫌になる程適当に入部したわけではないので別に苦にはならないが。
俺も美術部の先輩とは一年生の中でも割と交流しに行っていた方なので、引退して寂しくなりますね、だの、忘れませんよ、だの聞こえのいい言葉を繋げては送ってまわる。嘘ではないんだから少しくらい大袈裟に表現しても良いだろう。数人の、少なくとも会話した記憶のある先輩たちを後に、最後に半年以上俺の美術部ライフの中心にいた先輩の前に立つ。
「三年間、お疲れ様でした」
「おう」
「以上です」
「…俺にはそれだけかいな」
表情こそいつもの変わらないように見えるものの…あ、ちょっと眉間に皺が寄ってるかも。とにかく、俺からの言葉を期待していたかのような言い方に少し気分が良くなる。別にこの先輩だけ引退が惜しくないとか言いたいわけじゃない。なんなら、キャンバスに向き合うあの姿や、部活動後に少し話した時間が無くなるんだと思うと正直一番寂しいと感じる。けれど、先輩が人に対して素直じゃないように、俺もそこまでまっすぐに気持ちを言葉に表せるほど素直ではない。あと、やっぱり関わった期間が他より長いだけに照れくさい。
「…今は言葉がまとまらないだけですよ」
言外に、また今度伝えさせてください、と。
「まあ、そういうことにしといたるわ」
この人はずっと変に上から目線よなあ、とぼんやり思う。実際、二つ上の先輩であるので何ら間違っていないのだが。
「あ、『美術部の』トントン先輩からは引退する前に俺への言葉はないんですか?」
からかうように軽い調子で聞いてみるが、心のどこかでは少年のように気持ちを弾ませて返答を待っている。四月のような、冷たい返事が返ってくるなどは微塵も思っていなかった。
「はあ?急に……まあ、文化祭のヤツ、あのフクロウ…やったっけ、はかわいかったし、結構良かったと思うで」
「あれミミズクです」
似てたから間違えたわ。いや、結構見た目違いますけど…。ぎくりと反応する先輩を呆れ顔で見つめる。そんな俺の様子とは裏腹に、内心衝撃を受けていた。
なんてったって、その部分は『おもんない』と無慈悲に評された後、俺が先輩に一矢報いる思いで試行錯誤して付け加えた部分だ。大義名分らしい題材に鳥を足すなら平和の象徴と謳われている鳩でも良かったのだが、俺はミミズクが好きだったのだ。結局、あの絵も、クラスメートや、他の見たこともない誰かに好かれるための絵は、先輩を見返すためのものになってしまったな。と思い出しては笑う。
そしてじわじわと、喜び、嬉しさが込み上げてきてたまらない気持ちになる。
「でも、先輩が俺の絵を見てくれたってわかっただけで嬉しいっすわ!」
「まあ、あんな居残られたら気になってな」
先輩はなんてことないように言うが、それでも俺の嬉しさは抑えきれず、ついには涙が少し出てきた。先輩はぎょっとした後に、呆れたように笑った。そもそも先輩の笑った顔を見たことがなかった俺はそれに驚いて涙が止まった。
「俺がいなくても頑張れよ」
フン、と今度は意地悪そうに笑った先輩に、当たり前ですよ、とか、アンタのためだけに頑張ってるわけじゃないです〜、とか言ってやるつもりだったのに、『あ、明日から先輩おらんのか』が真っ先に出てきて、改めて寂しさのようなものを感じて何も言い返せなかった。