テラーノベル
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「じゃあ、金曜のライブで待ってるな」
「絶対に行きまーす」
三人はぶんぶんと手を振る。バイクの後ろに私が乗っているのを気づいているのに、全く気にするそぶりもなく、プライベートは見えていないような振る舞い。
「ごめんな。あの子ら、未成年の頃から通ってくれてるファンなんだ」
「ファンの子を覚えているの?」
「覚えるよ-。熱心な子が多いし。それにやっぱ試合中って皆の反応見て元気になっちゃうじゃん。だから辛くなったり、痛えなあって思ったとき、救われるから見ちゃう。俺たちを真剣に応援してくれるファンの子たちを」
寒くない? 大丈夫?
ハムスターの姿で、私を優しく心配し見守ってから、バイクのハンドルに再びぶら下がった。
「……一慶さんって、本当は遠い人なのかなって」
「俺のどこが?」
「ファンもいるし、私、警備員にお見合い相手って言ってもファンだって信じてもらえないぐらい平凡だった」
「それはさあ」
少し口ごもってから、私の指先にハムスターがちょこんと乗った。
「はやくこの指に俺が指輪を贈るから、受けてってくれたら解決じゃん」
「ううう」
「それに俺の半分は流伽が形成してくれたんだ。俺にファンがいるのは、助けてくれた流伽のおかげだよ」
しっかり捕まってと、再び私にハムスターの姿の彼を握らせるように言われた。
町ですれ違う人たちは、私たちを羨望のまなざしを向けてくるのがわかる。
私にはハムスターを握りながら無人バイクに乗っている気持ちでも、他の人には真実の姿が見えている。
指輪をもらう。それは根本の解決じゃないけど、一慶さんが望む未来の答えなんだよね。
「私ね、さっき、一慶さんの家の跡地に行ってきたの」
「えええ?」
さっき宗亮さんのときは暴風で会話できなかったのに、一慶さんは私の会話に耳を傾けてくれた。きっと怖がらせないようにスピードを落としてくれている。
「知りたかったの。お友達から始めるにしても、私たちの始まりの日を」
「俺だってほとんど記憶がないのに。アパートは取り壊されてるんだってね」
「優しい虐待って一慶さんは思い出したら、苦しい? この話はあなたにしないほうがいい?」
ヘルメットをかぶるハムスターに聞いたが、表情はわからない。
ただ沈黙が少し重たく感じた。
「虐待ってことはさ、愛情じゃないから辛いのかもしれない。でもわからない。俺も今は親父への愛情が全くないから。だから苦しいのか、って聞かれたら今が幸せだからまあいっかって思うときもある」
「私が忘れちゃったのは、あなたがひどいことをされてたから?」
「いや、えーっと。どうしよう。思い出して、俺たちは大丈夫なのかな。前に進めるなら思い出しても良いってことかな」
少し考えてから、一慶さんは言葉を選びながら教えてくれた。
「多分、真っ赤な部屋とか俺がうずくまってたって、流伽が言ってたのは俺が自分で腕に傷をつけたのを見たからだよ」
「腕に?」
「普通の怪我じゃただの事故に見られちゃうなあって、じゃあ病院の先生が不思議がるような、人が切ったような傷にしたくて左腕にV型に刺したんだ」
信号に止まって、一慶さんは小さな小さな手を見せてくれた。が、ハムスターの手では傷がわからない。
でもファンの人たちが左腕の前でVサインするのが、その傷の真似だと思えば全てに合点がいく。
「でね、傷口って刺した後引き抜くと思った以上に血が飛び散るんだ。ぴゅーって。V型に切ったから二回抜いたせいで壁にけっこう血が飛んでさ。多分、それをみて流伽は真っ赤な部屋って言ったんだと思うよ。で、貧血で俺はうずくまってた」
「それって危ないじゃない。下手したら死んでたよ」
「そ。だから流伽がご両親を連れてきて救急車を呼んでくれなかったら俺は死んでたんじゃないかな。まじ流伽は俺の天使」
再び青になった道路を、テンション高く走って行く。
九死に一生とか、危機一髪って言うんじゃないのかな。それを明るく話してくれて、私が怖がらないようにしてくれたけど。
でもその傷を作るに至った過程や原因を思えば、今はテンション高く話してくれなくてよかったの。
「頑張った、当時の一慶さん偉いね」
「お。もっと褒めて」
「偉い偉い。怖かったよね」
当事者でもない私でさえ悲鳴を上げてしまうんだ。
ち ょ こ 。
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かんな
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鷹槻れん

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#シークレットベビー
夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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悲鳴も上げずうずくまって痛みと闘っていた一慶さんはきっともっと怖かった。
そして今、笑っていられるのは、一慶さんが頑張った証。強くなろうと足掻いた結果だ。
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