テラーノベル
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紅
650
330
#糸師凛
りー
242
24
一層へ戻ってきて、退場手続き。朝一で潜って昼をまたいで帰ってきた、という点では不思議な所は何もないだろう。このまま換金所で手間取ったりしなければ、無事に帰れるはずだ。
換金所へ向かい、背中のバッグを下ろし、全部換金お願いします、と申し付ける。
「大きい魔石があるね……」
「多分ケンタウロスのですね。何度かチャレンジしましたから」
「なるほど。独占とかはしてないね? そういう行為をしてる探索者が時々いるという話だけど」
なるほど、複数回自分達だけで独占して、美味しい思いをしようという探索者がそれなりに居るってことか。地方のダンジョンだったらそれは通じるだろうが、一応大学の敷地内のダンジョンでもあるし、何よりも俺と彩花は二人で一パーティーだ。そこまでの圧をかけられるほどの迫力はない。ここはとっさに思いついた言い訳で切り抜けることにする。周りを見渡し、他に換金待ちがいないことを確認してからホラ話を始める。
「一晩頑張った分なので、それなりになってると思います」
「なるほど、一晩分か……じゃあこのぐらいはまあ取れるだろうね」
「それと、スキルスクロールもあるのでそちらも換金に回してください」
「わかったよ。まずは魔石のほう終わらせちゃうね」
そういうと重さと大きさを鑑定し、さらさらと数と重量、それから品質について記録していく。結構な数のケットシーの魔石があるから、十五層でかなり粘った、ということは理解されるだろう。それと樹液が二本と銀貨が十数枚、この辺がそこそこのウェイトを占めているはずだ。容積のわりに買い取り金額の高い銀貨は人気商品でもある。
「……と、これで魔石とドロップ品の査定は終わりだね。後はスキルスクロールだけど、いつも通り20%の取扱税とギルド税をもらうけどそこは良いかな? 」
彩花と目を合わせ、お互い頷く。
「よろしくお願いします」
「わかった。鑑定が終わり次第呼ぶからちょっと待っててね」
そういうと、奥に消えていった。鑑定サイトを使うのか別の鑑定用の器具があるかまでは知らないな。今度、子供向けのコンテンツでダンジョンギルドのシステムみたいなものがあったら見てみるとしよう。きっと疑問に答えてくれるだけのものが用意されているはずだ。あの手の子供向けの映像作品は一緒に見る親も楽しめるように作られているからな。
数分して少し青い顔をして戻ってきた鑑定人に呼び寄せられる。
「鑑定したスクロールの中に高級な物が混ざっていたんだけど、気づいていたかい? 」
「【マジカルシュート】のことでしたらそのつもりで換金をお願いしに来ています」
「そ、そうか……なら良いんだ。で、値段がこうなるけど、本当にいいのかい? 」
提出された価格表を見ると、【マジカルシュート】は出物が少ないのか、あらかじめ調べておいた上限の300万円に設定されていた。
「はい、了解しました。その値段でお願いします」
「私も了解しました。換金お願いします」
二人とも了承すると、落ち着いたのか咳ばらいを一つした後、鑑定人は落ち着いて話の続きを始める。
「さすがに値段が値段だから、二人とも振り込みで、ということになるだろうけど、口座情報の分かる物は持ち込んでいるかな? 」
「口座でしたら通帳があるので問題なく」
「はい、よろしくお願いします」
「よろしい、では手続きだ。持ち込まれた魔石とドロップ品、それからスクロールの引き取り費用を足して……それを二等分して、これだけの金額になる。いいね? 」
そこに提示された金額に納得すると、振り込み処理を行ってもらう。今日の収入の合計は154万2500円になった。これだけで下手な社会人の収入の半年分ぐらいを稼いでしまったことになる。中々夢があるな、探索者で良かった。後は俺専属の鑑定人が居て、専用ダンジョン専用のギルド窓口があれば完璧なんだけどな。
振り込みを依頼した後、二人で俺の部屋に戻る。ついでに途中のコンビニでおやつも買って、今日はちょっといいおやつを買って、高いチョコレートと高いアイスも買って、お祝いをしよう。
部屋に戻ると、アカネがいつも通り……というにはあまりに大きな姿で、ふよふよと浮かんでいるが、体が一気に膨らんだ分だけ狭そうにしている。
「椅子をもう一脚買ってくるからそこに座るか? その背丈だと浮いてるだけ邪魔だろう」
「そうね、お願いしようかしら。私も椅子を用意してもらって卓を囲んでいるような雰囲気になりたいわ。さすがに空気椅子のポーズではそっちがうんざりするでしょうし」
一人暮らしなのに椅子が三つも必要なこの状況をどうとらえればいいかわからないが、少なくとも一人寂しく居るよりはマシか。
「で、今日は何なの、何かのお祝い? 」
「アカネも見てただろうが、昨日のドロップ品の中に高額なものがあったんでな。それを換金してきたので二人とも財布に余裕がある。だから今日はちょっとした豪勢なおやつタイムを楽しむことができるってわけだ」
「なるほど、それで、私の分は? 」
「お高いアイスのガナッシュショコラ味だ。ガナッシュクリームとチョコレートの二種類のハーモニーが楽しめる……らしい」
「私からは高級ブランドじゃがいもを使って高級なオリーブオイルで揚げたポテトチップス……らしいわ」
「なんで二人そろってらしいがついてるのよ。味は……味はこれから確かめるってことなのね」
「そういうことになる。お高いアイスはともかくとして、ポテトチップスは未知の領域だな。一袋で600円もする。コンビニによく置いてあったなと感心するぐらいだ」
「それはそれは……中々楽しみね。製造者の思いがどれだけ詰まってるかを考えると、ポテトチップスのほうが期待値は高いわ」
早速彩花がポテトチップスのほうの封を開けて中身を皿に並べる。それを見たアカネが若干興奮気味に、青白い光を浴び始める。これは……俺が普段料理してるぶんぐらいの神力の溜まり具合だな。つまり、製造には結構手間暇がかかっているらしい。
「ライン製造品の癖になかなかやるわね。美味しいわ! 」
「続いて、ちょっと溶けかけてるけどアイスになりまーす」
俺がアイスの蓋を開けて中のビニールを取り去って、いつでもスプーンを差し込んで食べられるように準備する。
アカネがそちらにも目を向けて、神力を吸い取り出すが、こっちはそれほどの神力は得られない様子だ。やはり、お高いだけではだめらしい。
「こっちはお高い分は味わえたわ。そこそこってところね。お高いアイスは初めてじゃないし、前ほどの感動はなかったわね。でも、美味しかったのは確かね」
ふむ、お高いアイスもそればかり食べていては飽きが来る……というほど俺もお高いアイスを買ってきている訳ではないだろうが、初回ほどの感情のうねりはなかったということなのだろう。今度は二、三種類一気に買ってきてみて、食べ比べでもしてもらうかな。そのぐらいの贅沢ができる程度の収入にはなったんだしな。
「それも悪くないわ、というか楽しみね。何種類ぐらいあるのかしら? 」
「コンビニにもよるが、常に置いてあるのは五種類ぐらいじゃないかな。かき集めても……多分八種類ぐらいが限度だと思う」
「そんなに選べるのは……なんかうれしいわね。そんなところにお金を使ってくれなくてもいいのよ? 」
そう言いつつ、クネクネと嬉しそうにしているアカネの姿が嫌でも目に入る。なんだかんだで神様としても注目されるのは嬉しいのだろう。
「まあ、稼げたのもアカネのおかげだからな。そこはまあ、ちゃんと還流してると思ってくれればいい。これからももっと稼ぐし、しっかり食生活にも取り入れていく予定だからな。安心してくれ」
「いつもよりお高いパスタを買ってきた。なんてことにならないことを祈るわ。後はそうね、私から言いたいことは特にないわね。体もしっかり成長したし、後は触れられれば毎晩幹也を襲い放題になる、ぐらいかしら」
「それはだめ。幹也のとなりは譲らないもん」
彩花が俺の腕をぎゅっと握ったまま離さない。目元に少し涙を溜めつつ、俺から離れようとしない。服の裾をつまんでいるだけだがレベル20オーバーのピンチ力でつかまれていると、たぶん服のほうが負けて破れてしまうだろう。
「……渡さないもん、相手がアカネさんでも」
「これは私が悪かったわ。盗らないから安心していいわよ。神に誓って約束するわ」
「……ほんとに? 」
彩花がかわいい。こんな姿を見せてくれるのも珍しいとは思うが、それだけでも役得といったところだろう。アカネに感謝しないとな、彼女のかわいい姿をまた一つ見つけることができた。こう見えて、結構嫉妬深くて意地っ張りなんだな。
「今日はいい日かもしれないな。彩花のこんなにかわいい姿を見ることができた。それだけでも役得だ」
「もう、私は、その、本当にアカネさんなら盗られてもしょうがないとは思ったけど、思ったけど! でも幹也には一番心の近くにいてほしいって思ってるんだからね」
「ああ、わかってるよ。彩花はその点では十分信用できるし、俺も彩花以外にたとえ神様でも彼女や浮気相手を作るつもりはないから安心してくれ」
「幹也の言う通りなら信じる。アカネさんは時々意地悪だからその次以降。絶対渡さないもん」
若干彩花が幼く見えるようだが、これはこれで可愛い。自分の彼女の、俺にしか見せない大事な部分の一幕をまた見ることができたぞ。
アカネも「ごめんね」といって彩花に素直に謝ってるあたり、本気ではなかったんだろう。何が本気ではなかったのかはさておき、アカネも彩花も和解はできたようだ。
「さて、あんまり遅くなると明日に響く、今日は解散にするか。明日からの講義の予習とかもあるしな」
「そうね、今日はしっかり稼がせてもらったし、それを含めてもまだまだやれることは多いとは思うけど、これで……色々買えるわ」
彩花はお金の使い道にある程度筋道をもうつけているようだ。さて……俺は何に使おうかな。ケンタウロスセットの上半身だけを購入して身に着ける、なんてこともできるんだし、使い道はおいおい考えていこう。とりあえず貯めておいて損はないはずだ。
税金の支払いは探索者向けの税金マニュアルサイトというものがあるので、全収入入れて経費入れたら大体いくらぐらい税金で持っていかれるかを教えてくれる。これがまた便利で仕方ない。探索者は恵まれているな。
コメント
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お疲れさまです〜!第260話、読み終えました🥀 換金所のシーン、鑑定人が「大きい魔石があるね」ってところから「マジカルシュート」の価格に青ざめてたの、ちょっと笑っちゃいました。でも主人公たちが冷静に対応しててカッコよかったです。 アカネが成長して部屋が狭くなってるのとか、おやつタイムのポテチとアイスの神力チェック対決も面白かったです。そして彩花の「渡さないもん」の嫉妬シーン…めっちゃ可愛かったです。こういう日常の温かさが沁みますね。続きが気になります!