テラーノベル
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あの夜の資料室での出来事は、会社全体を大きく揺るがした。佐野くんが駆けつけた直後、救急車と警察が到着した。
私の手の傷は深くはなかったものの、数針縫うことになった。
高橋さんはその場で警察に連行された。
翌日、末澤さんから連絡があった。
高橋さんは傷害罪で正式に逮捕され、会社は即日解雇を決定した。
会社に行くと、末澤さんが私のデスクまで来て深く頭を下げた。
【桃井、大丈夫か?ホンマに申し訳ない。】
末澤さんは何度も頭を下げ、声を詰まらせた。
私は大丈夫だと答えたけど、心の中は静かに沈んでいた。
高橋さんが泣きながら言った言葉が、ずっと頭にこびりついて離れない。
私が佐野くんに近づきすぎたせいで、高橋さんは傷つき、佐野くんも巻き込まれた。
これ以上、誰かを傷つけたくない。
そう思ったとき、私はもう決めていた。
この会社を辞め、佐野くんから離れると。
数日後、私は末澤さんに正式に退職の意思を伝えた。
【……無理には止めへん。それでええんか?桃井。】
末澤さんの声は少し寂しげだった。
「はい。今まで本当にお世話になりました」
私は静かに頭を下げた。
退職手続きは驚くほどスムーズに進んだ。
私は佐野くんに何も言わずに辞めた。
もし伝えてしまえば、きっと彼は引き止めるだろう。
それどころか、私の新しい職場までついてくるかもしれない。
佐野くんには申し訳ない気持ちでいっぱいだったけど……
これが、私が選べる最善の道だと思った。
最後の出社日、荷物をまとめてエレベーターに乗ったとき、ふと後ろを振り返った。
誰もいないフロア。
もう、ここに来ることはない。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
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