テラーノベル
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昼休みの校庭は、いつも通り騒がしかった。ボールの跳ねる音、笑い声、風に揺れる木の葉。
昨日、命懸けで戦ったなんて、
誰も信じないだろう。
『ねえ、詩夏』
隣を歩きながら、琴音がパンをかじる。
『悪者ってさ、ほんとに悪いやつかな。』
『……どういう意味』
『だってさー』
琴音は空を見上げる。
『理由もわかんないし、いきなり襲ってくるし、でもさ、喋るじゃん』
確かに、あの影は言葉を持っていた。
意味の分からない、けれど感情のこもった声。
『ただの怪物って感じしなくない?』
詩夏は返事に詰まった。
(……考えたことなかった。)
倒す。
消す。
それが当然だと思っていた。
『わからない』
そう答えると琴音は笑った。
『だよね!やっぱ考えても仕方ないかー』
軽い声。
でも、どこか引っかかる。
そのとき、後ろから明るい声がした。
『なになに〜?難しい話?』
振り返るとちなが手を振って立っていた。
『ちなちゃん!』
琴音が駆け寄る。
『ねえねえ!悪者って何者なの?』
ちなは一瞬だけ言葉が詰まった。
『…悪者は、悪者だよ』
いつもより少しだけ短い答え。
『世界を壊す存在。だから倒さなきゃいけない。 』
詩夏は、その言い切り方が気になった。
『……どうして?』
ちなは瞬きをする。
『どうしてって…?』
『どうして悪者は生まれるんですか?』
詩夏は自分でも驚く程に真剣な声だった。
『生まれた時から…悪なんですか』
ちなはしばらく黙った。
昼休みのざわめきが、遠くに聞こえる。
『……さあね』
ちなは笑顔を作った
『理由なんて、ないんじゃない?』
その笑顔は、
昨日までの「楽しそうな先輩」と同じだった。
でも詩夏は確信してしまった。
(……本当は知ってる)
放課後。
3人は、いつものように帰り道を歩いていた。
『ねえちなちゃん』
琴音が唐突に言う。
『ちなちゃんってさ、なんでそんなに詳しいの?』
『え? 』
『倒し方とか、出てくる場所とか!
初めて会ったのに、全部知ってたじゃん!』
ちなは少しだけ目を泳がせた。
『……先に魔法が使えるようになったから?』
『それだけで?』
詩夏が続ける。
ちなは立ち止まった。
『……怖い?』
『え?』
『私が、怖い?』
詩夏は首を振る。
『怖くは……ないです』
本当だった。
不安はある。
違和感もある。
でも、恐怖ではない。
『ただ、知りたいだけです。』
ちなはしばらく詩夏を見つめた。
そして、ふっと笑った。
『そっか』
その笑顔は、どこか寂しそうだった。
『じゃあ教えてあげる。』
ちなは言った。
『悪者は、“強い感情”から生まれるの』
琴音が目を丸くする。
『感情?』
『怒りとか悲しみとか後悔とか。』
ちなは淡々と話す。
『それが溜まって形になったもの。』
詩夏の胸がきゅっと締めつけられた。
『……じゃあ』
思わず口に出る。
『悪者って、元は…人…?』
ちなは答えなかった。
ただ、少しだけ視線を逸らす。
『……考えすぎだよ』
そう言って話を切った。
その夜。
詩夏は、夢を見た。
暗い部屋。
鉄の扉。
焦げた匂い。
床には、何か白いものが散らばっている。
骨。
誰のものか、分からない。
でも、なぜか知っている気がした。
『……っ』
目を覚ますと、冷や汗でびっしょりだった。
(……今の、夢?)
胸がざわつく。
理由は分からない。
ただ一つ、はっきりしていることがあった。
(悪者は、
ただの“敵”じゃない)
そして同時に、思ってしまう。
(ちなさんは……
何を隠してるんだろう)
翌日。
ちなは、ひとり屋上にいた。
フェンスにもたれ、空を見る。
『悪者って…なにか…か。』
ぽつりと呟く。
その問いの答えを、
彼女は誰よりも知っていた。
——作ったのは…
それを言う日はまだ来ない。
ちなは、いつもの笑顔を作って、階段を降りた。
悪者って何?
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