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放課後の教室には、まだ数人の生徒が残っていた。
机の上にはノートと教科書、そして終わる気配のない宿題。
『無理…もう宿題とかやってらんねえ!!』
琴音が机に顔を突っ伏す。
『絶対無理。終わんない!まだ世界救うほうが簡単だってええ』
『比較対象がおかしい』
向かいの席で、詩夏は淡々とノートを進めていた。
『宿題はやらなきゃ終わらないけど、
世界はちなさんが何とかしてくれる』
『それ依存し始めてるからね?』
いつの間にか、隣の席にはちなが座っていた。
『え!ちなちゃん!?』
琴音が勢い良く顔を上げる。
『いつからいたの!』
『今来たところだよ〜』
ちなはくすっと笑い、詩夏のノートを覗き込んだ。
『相変わらず綺麗な字だね』
『……普通です』
詩夏は少しだけ視線をそらす。
『てかさーちなちゃんってもっと他の魔法使えないの〜?』
『例えば?』
『宿題を消す魔法とか!』
『ダメだよ〜!』
即答だった。
『えぇー』
帰り道。
夕焼けが街をオレンジ色に染めている。
『ねえ詩夏!あそこ寄ってかない?』
指さした先には、小さな雑貨屋があった。
ガラス越しに、ぬいぐるみやリボンが並んでいる。
『琴音…こういうの好きだった?』
『え?』
琴音は一瞬だけ言葉に詰まった。
『……好き…だよ?』
少し間があった。
『悪い?』
『悪くないけど…前はあまり興味無さそうだっ たから』
琴音は、ははっと笑った。
『前から好きだったって!言わなかっただけ!』
ちなはその様子を黙って見ていた。
店の中は、甘い匂いがした。
棚には色とりどりの雑貨。
『うわぁ!見て!ちょー可愛くない!?』
琴音が、淡いピンクのリボンを手に取る。
その目は、本気だった。
『似合いそう』
詩夏がそう言うと、琴音は一瞬固まった。
『え?』
『似合うと思うよ』
詩夏は微笑みながら、本心で言った。
『そ、そっか…』
琴音は、リボンを胸に抱えた。
ちなは、少し離れた場所でそれを見ていた。
(……変わらないんだ)
誰にも言わず、
誰にも見せず、
それでも好きなものは好きなまま。
『買わないの?』
ちなが声をかける。
琴音は首を振った。
『今日はいいや!』
笑顔だった。
でも、ほんの少しだけ残念そうだった。
店を出た瞬間、空気が変わった。
街の音が消える。
色が落ちる。
『来た』
詩夏が身構える。
路地の奥から、黒い影が滲み出てくる。
悪者だった。
『今日もお仕事か〜』
ちなは軽く肩を鳴らす。
『行ける?』
『もちろん!』
琴音は一歩前に出る。
その足取りは、迷いがなかった。
詩夏の氷が地面を覆い、
琴音の火が影を照らす。
連携は、もう自然だった。
——あまりにも。
『今!』
ちなが叫ぶ
次の瞬間、悪者は煙のように消えた。
『よし!』
琴音が拳を突き上げる。
『今日の世界平和!』
『うん』
詩夏はうなずく。
でも、胸の奥に、言葉にできない感覚が残っていた。
(……慣れてきてる)
戦いにも。
魔法にも。
そして——ちなにも。
その夜。
『……楽しいなぁ』
小さく笑う。
楽しいはずだった。
ゲームみたいで。
でも最近、
「可愛い」と言う琴音の顔や、
静かに考え込む詩夏を見ると、
胸が少しだけ痛む。
『……まぁいっか』
ちなは無理やり笑った。
『どうせまた……戻せるし。』
その言葉が、
誰に向けたものなのかは分からなかった。
宿題より世界平和