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一方、食事を終えてまったりしているアリエッタ達。
ちびっこ3人娘は家を生やすミューゼを、キラキラした目で見つめていた。
「幸せ過ぎる」
「ご満悦ですねぇ……」
”可愛すぎんかこの生き物たち”
”尻尾揺れてるハァハァ”
”アリエッタ嬢にあんな目で見られたら僕は……うっ”
”想像させんな! 俺も死っ…がはっ”
”スヤァ”
「……まぁもう夜ですし、丁度いいのでしょう」
視聴者も少しずつ寝始めたので、一時的に2手に分かれて行っていたライブはこちらだけ停止。家に入るように言われたアリエッタ達は、寝るまでのんびりと過ごす事にした。
「アリエッタちゃん、何してるの?」
メレイズの言葉に、ニオがビクッと震えてから恐る恐るアリエッタの方を見た。まだ直視は出来ない様子。
アリエッタは掌程度の大きさの紙をいくつも用意し、1枚ずつ何かを描いている。
(えーっとなんて答えたらいいんだろう……)
いまやっている事を質問された事は分かったのだが、どういう言葉にしたらいいのかが分からない。焦ったアリエッタは頑張って端的に答えた。
「ま、まほう、かく、ツカウ」
「? そうなの?」
意味はまったく通じていない。こうなる事は最初から分かっているので、メレイズも気にした様子は無い。ミューゼも笑顔で見守っている。後ろのニオは恐れおののいているが。
「なんでしょう、この渦を巻いた絵は。こちらは何故か嫌な予感がします」
母親の事を知っているイディアゼッターは、その絵に少しの力を感じていた。出来た数枚の絵は見る事が出来たが、それで何が起こるかは全く分からない。
「これは……キノコ……でしょうか?」
(何が起こるんだろう。想像がつかない)
ミューゼはなんとなく分かっているようだが、絵の意味までは分かっていない。
真剣な顔でそんな小さな絵を何枚も描き続けるのを見ながら、一同はパフィ達の帰りを待った。
「【フォシー・ディ・リーゾ】!」
パフィの手から餅が伸び、その先に取り付けられたナイフが回転するサンドイッチを斬りつけた。しかし回転が速すぎて弾かれてしまう。
「もうちょっと近づくのよ総長!」
「おまえがバーガーにしたんだろうが! じぶんでカイヒできんのか!」
「バーガーが完成した時点で操れないのよ! ほらあっちに下のバンズ落ちてるのよ!
「なんでクモをバーガーにしたんだよ!」
「サンドイッチに対抗したかったのよ!」
”ノリと勢いだけで戦ってやがる”
”ある意味すげぇな”
パフィもピアーニャも、騒いでるだけで焦っていない。ネフテリアもそれが分かっていて……というよりは諦めて傍観している。
食べ物を相手にするのは、ラスィーテ人は確かに最適なのだ。方法も意味も理解出来ないが。
「じゃあすれちがうから、それでキメろ」
「りょーかいなのよ」
雲の上から被さっているバンズを邪魔に思いながらも、ピアーニャはパフィが戦えるように動く事にした。ラスィーテ人の戦いにも興味があるという事である。
「っとその前に、テリア、そこら中に水を撒いてほしいのよ」
「【散水砲】……これでいいの?」
「ありがとなのよ。それじゃあ行くのよ!」
水を広範囲に噴出する魔法で地面を濡らして準備万端。ピアーニャは『雲塊』を回転するサンドイッチの方向へと進ませた。
ぐんぐんと接近しあい、ピアーニャが回避行動に移る直前、パフィが動く。
「【チュロス】!」
突如地面から棒が複数生え、サンドイッチを下から突き上げた。下を向いていた側面からの攻撃に、サンドイッチはたまらずバランスを崩し、回転を緩める。
そこを狙って、パフィは腕を振り上げた。すると、餅でつながったフォークがサンドイッチの下から出現。パンの間へと入り込んだ。
”ほう、餅を介して地面の小麦粉を料理したか。やるな”
”そうなんだ……?”
”あのチュロスは餅も混ざっている。歯ごたえが気になるな”
”それ攻撃に対する感想じゃないよね?”
視聴者のラスィーテ人が解説しているが、理解は得られていない。
その間にも、フォークを咥えこんだサンドイッチが、振りほどこうともがいている。しかしそれもすぐに終わった。
「なのよっ!」
パフィが腕を振り切り、フォークをサンドイッチから抜き出した。その先にはサラダが刺さっている。
すると、サンドイッチの動きが徐々に弱くなり、地面に落ちた。そして消えていく。
「えっと?」
「ベーコンサラダサンドイッチ。サラダを抜けばそれはもう『ベーコンサラダサンドイッチ』ではないのよ」
「なるほど、わからん」
「ベーコンサンドイッチにはならないんだ……」
わりとあっさり倒したが、高速回転する物体を破壊するというのは本来難しい。パフィ側に高速移動、魔法、遠隔攻撃による不意打ち、そしてラスィーテ人の知識があったからこその結果である。
”ファナリア人だけとかで倒すのは難しそうだな”
”受け止めようとしたらベーコンに斬られるんだろ? どうしたもんかね”
”サンドイッチの研究が必要よね”
”言葉だけだと平和な食卓だなぁ”
視聴者が考えているのは『手段の多様化』。ここまで色々なリージョンを模した層を見てきた事から、ヴェレスアンツに挑み続けるには、自分達も多種多様な行動手段を身に着ける必要があると感じているのだ。
「まぁヴェレストも確認出来たし、そろそろ──」
「戻る前に、この辺荒らしておくのよ」
そう言って、パフィはこの一帯の地面から、硬く長い棒を生やしまくる。かなりの範囲をチュロスの林にしてしまった。
「これが私の【禍林樺】なのよ」
「なるほどミューゼの真似かぁ……そういうのもアリね」
「………………」
グレッデュセントへの嫌がらせを目的に動いていたパフィは、ここまで来たルートとは少し違うルートをリクエストし、アリエッタ達の元へ戻る間も引き続きそこら中の食材を料理しまくったのだった。
翌朝、次の層へと向かおうとする一行。昨晩生やしたチュロスの林にたどり着いたところで、野生の女神が現れた。
「……何やってるんですか?」
躊躇いながらも、イディアゼッターが声をかけた。
その女神は、折り倒したチュロスの上で泣きながら、パフェとチュロスをモソモソと食べている。
「修復しながら料理を処理してるの! 見て分からないの!?」
「すみません分かりません……」
いきなりキレたグレッデュセントの勢いに圧され、反射的に謝るイディアゼッター。
「うぅ、美味しい……ぐすん」
”泣くか食べるか怒るか褒めるか、どれか1つにしてもらえませんかね”
”荒らしたのを本当に直しに来たんだ”
”たしかにデコボコしてた地面が平らになってるなぁ”
”チュロスの回収は全部終わってないみたいだけど”
”なんで食べてるん……”
グレッデュセントのリージョン修復は、山を消し飛ばされるなどの大規模なものでなければ、割とすぐに完了する。今回も荒らしたとはいえ、夜の間に少し近場を飛び回って食材の地形を料理しただけなので、それだけであればアリエッタ達が寝ている間に終わる筈だった。
しかし、その食材を使って完成した料理があったせいで、作業が難航したのである。
「存在自体を変えられた『料理』は、修復対象から外れたんですね」
「うん……もぐもぐ」
パフィの嫌がらせは、想定をはるかに上回る結果を残したようだ。
”いや別に食べんでも……”
「だってこれすごく美味しいし、処分しにくい……」
”ラスィーテ人はそれを武器にしまくるんだよなぁ”
”美味しいと捨てたくないよね”
これを仕掛けた当のパフィは、ニチャァと音が出そうな笑みを浮かべている。「計画通り」と言いたげである。
そしてしれっと、近くの岩と地面と木を使って料理をした。しかも、装飾もこだわった高級料理にしか見えないものを複数。それを地面に無造作に置いて、興味なさそうに背を向けた。
「いやあああああ! そんな美味しそうなもの作って放置しないでええええ!!」
”ひでぇな、もっとやれ”
”今なら嫌がらせ止めさせるために何でもいう事聞きそう”
”ぐへへ”
せっかくなので、ネフテリアはグレッデュセントに会う本来の目的を果たす事にした。
「ほら、アリエッタちゃん達。今なら謝れるわよ」
「はいっ」
「うん」
最下層でないのは想定外だが、ここまでリージョンを凍結させたり山を消し飛ばしたりした事を謝る為に来たのだ。3人とも真面目な顔でグレッデュセントの前に立つ。
グレッデュセントはアリエッタを見てちょっとたじろいたが、別にニオのように怖がっているわけではないので、素直に次の言葉を待った。
「あの、山を凍らせちゃってごめんなさい」
「あと山を吹き飛ばしちゃってごめんなさい」
「やま、どかん、した、ごめなさいっ」
「あ、えと、はい、今度から気を付けてね?」
そもそも戦えば壊れるのは当然なので、壊した事自体はそれほど怒っていない。その規模が大きすぎなのと、戦闘行為と全く関係無いタイミングだったので、困惑して姿を現して注意し、驚いて帰っただけだった。
”うんうん、素直に謝れて3人とも偉いねー”
”なごむわぁ”
と、そこへ通りすがりのロースかつ丼が現れた。当然ヴェレストである。
「危ないアリエッタ!」
「だいじょうぶ!」(この為に、昨晩準備してきたんだ! イメトレもバッチリ!)
アリエッタはポーチに手を突っ込む。
同時にロースかつ丼がカツだけを回転させた。衣の破片がアツアツのだし汁をまとって飛び散る。触れたら間違いなく火傷するだろう。
「【進入禁止】!」
すかさずアリエッタが進入禁止の標識を描いた小さな紙……カードを発動。飛来した衣の破片は全て防がれた。
すぐにアリエッタは壁を解除。左手に持ったカードの束から1枚を抜き取る。そしてロースかつ丼にカードを向けて、一瞬戸惑ってから発動した。
(しまった、名前考えてなかった!)
戸惑った理由は、名称不足である。みんな連携などの為に技名を言いながら攻撃するので、真似したかったのだ。
しかし能力の発動には影響しないので、カードに描かれた絵の内容がしっかり具現化する。
こうして現れたのは竜巻だった。
ごおおおおおおお
『えっ』
これには全員驚いた。その理由はそれぞれだが、グレッデュセントの顔にだけは明らかに絶望の色が混じっている。
竜巻はロースかつ丼を飲み込み、そして辺りの食材をグチャグチャに混ぜながら直進する。パフィと違い、通った後には本当に何も残らない。しかし竜巻が消えた時、無造作にシェイクされた食材がどうなるかというと……。
「いやあああああやめてええええええ!!」
周りを無差別に巻き込みまくったその攻撃に、女神は再び絶叫し、竜巻に向かって泣きながら突っ込んでいくのだった。
「あ、今のうちにこっちで料理いっぱい増やしとくのよ」
”やめてさしあげろ”
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