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「えっと、謝ってくれたんだし、そろそろ帰った方がいいんじゃないかしら?」
アリエッタが出した竜巻を拳1発で消し飛ばした後、一行の元に戻ってきたグレッデュセントは疲弊した様子でネフテリアに言い放った。早くアリエッタに帰ってもらって、飛び散った食材の混合物を処理してしまいたいようだ。
しかし今すぐ帰りたいという者は、1人もいない。
「もっとオクのソウをみてみたい。リージョンシーカーのソウチョウとして」
「過度なネタバレは良くないと思いますっ!」
真っ直ぐな目で答えたピアーニャにツッコみ、
「アリエッタはどうしたい?」
「子供に意見聞かなくていいからもう連れ帰ってくんない!?」
子供を連れ帰る選択肢を持たないミューゼに苦情を呈し、
「ん~、わたくしはどっちでもいいかなー」
「いや貴女達には絶対危険だから! もう戻った方がいいと思うなぁ私は!」
自分の意思を一旦放棄しているネフテリアに必死にアドバイスし、
「もっと料理してグレースさんを困らせてあげたいのよ」
「下衆かっ! いやこら作るな作るなっ!」
別の意味で攻撃的なパフィに全力で叫び返した。
イディアゼッターが見ているから強硬手段には出ていないというのもあるが、自分に遠く及ばない者や戦意の無い者には、戦闘を仕掛ける気が起きないという性分のグレッデュセント。脳筋というよりは戦闘マニアである。
「それじゃあこうしましょう」
ネフテリアが何か思いついたようだ。グレッデュセントをまっすぐ見つめて声をかける。
「グレースさんも一緒に最深層めざしましょう」
「私最深層から来たんだけど!?」
”誰を誘ってんだよっ”
”誘う相手がおかしい”
「たしかにそうだな! どうせシンジンのフリしてあそんでたんだろ? だからサキのソウのこと、いろいろおしえてくれ!」
”それいいな”
”ぜひ!”
「過度なネタバレは良くないと思います!」
意味の分からないお誘いに、ますますどうしたらいいのか分からなくなる。
かなり永い間、攻略の進捗が進まなかったので、先日の機会に25層まであるのは特別に発表した。しかし、それでも頑張って悩みながら戦って強くなってほしいという想いがあるので、戦う事を目的としていない集団に好き勝手された挙句、一気に全部公開されるのは困るのだ。
グレッデュセントが料理の処理ついでに渋々姿を現したのは、最新の12層だけならと見逃していたが、これ以上は流石に…と思っての事である。
そんなネタバレに手を貸すわけにはいかないのだが、そんな困った状況の女神にニオとメレイズが駆け寄った。
「おねーさんも一緒に行こ?」
「う……」
メレイズの純粋な視線にたじろぐ。
「あの、その……」(アリエッタちゃんの力を止められる人だからなんとか仲良くならなきゃ……)
「いやちょっと待って! なんでそんな泣きそうな顔でっ!」
ドレスをちょんと控えめに摘まんだニオの涙目上目遣いによる言葉足らずな訴えに、グレッデュセントの心が折れる寸前まで揺らぐ。
”スゥ~……”
”あ、やべ、血が足りなくなってきた”
”光妖精がニオたんの涙目を正面から撮るから……”
”うわああ誰かっ、殿下が!”
そんな顔が影晶板にアップで映されたジルファートレスの方がさらに大変な事になっているようだが、そんな大惨事を気にする者は、この中ではイディアゼッターとグレッデュセントの2人のみ。
(このまま全滅しそうなんですが……)
「あっ、ちょっ、まって、せっかくここまで育ってきた挑戦者があああああ!」
「そんなコトより、はやくツギのソウいきたい」
『そんな事!?』
「どうせニオのあられもない顔を見ていやらしい事考えてたんでしょ。ほっときゃいいんですよ」
『違うって言い返せないところが怖い!』
ツッコミをする神が1人増えた。
ピアーニャは他のリージョンの事を知りたいという欲が抑えられず、気づかないうちにちょっと暴走している様子。見た目が3歳児なので、ワガママを言っても微笑ましく見えてしまうので質が悪い。
騒いでいる横では、パフィが引き続き料理を無数に増やしている。その姿を、同行者に助けを求めようとしたグレッデュセントが見てしまった。
「ってうわあああああ増えてるううううううう!!」
「仲間祝いに召し上がれなのよ」
「食べれるかああああああ!! 仲間にもなってないからあああああ!!」
”なんだこれ……”
”一体何を見せられてるんだ?”
”神様って体を張って面白くするのが好きなの?”
「お願いですから神に変なイメージを持たないでいただきたい!」
おかしな誤解が広まり始め、流石にイディアゼッターが慌ててイメージの修正を求める。その甲斐も虚しく、あまり遠くない未来に『神に捧げるコメディ演劇』がファナリアを中心に色々なリージョンで開演されるようになってしまう。発端はもちろんエインデル王家である。
「さすが神様。ツッコミの練度が違う」
『神関係なあああああい!!』
この後もどれだけ必死に訂正しようとしても、何故か尊敬の目で見られてしまい、2人の神は仲良く頭を抱えてしまった。
(むむ、なるほど! 急いで謝ったのはこのグレなんとかって人と仲良くなりたかったからなんだな!)
ここで何やらアリエッタが勘違いをし始めた。いや、ニオは本当にそうしようとしているので、あながち勘違いでもないが。
そんな訳で、突如アリエッタはグレッデュセントへの直接的なアプローチを始めた。
「あたし! アリエッタ!」
「ぴゃあっ!」
「はえっ!?」
いきなり隣に来たアリエッタに驚いて、ニオとグレッデュセントは悲鳴を上げた。
「とー、トモダチっ!」
「えっなに──」
ひしっ
「えへへ~」
「ぅ……ちょっとあな──」
「ぐれー!」
「ぐれーって私のこ──」
「ともだちっ」
言葉が完全に理解出来ていないのをいい事に、強引に抱き着いて言葉を遮りながら少ない単語と笑顔で押していく。
「ひいいいい! ちょっと保護者さーん!」
アリエッタを引き剥がしてもらおうと、グレッデュセントは丁度近くにいたパフィへと助けを求めた。しかし、
「………………」
「えっちょっ、えええっ何で!?」
パフィはグレッデュセントに鋭い殺気を向けていた。
「ぽっと出の神様のくせにアリエッタに抱き着かれるなんて万死に値するのよ! さっさと離れるのよ!」
「おかしい言ってる事なんかおかしい! この子剥がしてほしいんだけど! ってなんで武器持ってるの!?」
”神を神とも思わぬ所業……”
”なんかもうツッコミどころしかねぇ”
そんなパフィの目の前で、アリエッタはさらにグレッデュセントに身を寄せる……というよりよじ登る。すると、パフィの殺気はさらに膨れ上がる。
実力的には遥か格下の筈の相手からドス黒い殺気を向けられ、グレッデュセントは不思議と恐怖を感じていた。しかも別の冷たい視線を感じ、視線をそちらに向けると、ミューゼからも暗く冷たい殺気を笑顔で向けられている事に気が付いた。
「あの、スミマセン。この子預かってもらえないでしょうか……」
今まで感じた事の無い意味不明な恐怖によって、自然と丁寧な言葉遣いでお願いしてしまっていた。
そんな光景を見て、ネフテリアは「わかるわぁ」と涙している。
なお、殺気はアリエッタだけを完璧に避けている。つまり、同じ場所にいるニオとメレイズも殺気を直に感じてしまい、ガタガタ震えながらグレッデュセントのドレスを抱きしめて座り込んでいた。そのせいで女神はこの場から逃げられない。強引に動けば子供達に怪我を負わせてしまう。
「そんなにアリエッタと仲良くなりたいのなら、ちゃんと誠意を見せるのよ」
「そんな事言ってませんそんな事言ってません!」
「アリエッタ可愛いもんね。嫁にしたくなる気持ちはあたしが一番よくわかるわ。でもね……」
”2人とも話聞いちゃいねぇ……”
「ああなった2人はわたくしにも止められないわ。木に埋め込まれるか、食材にされるか……」
”怖いよ!”
以前兄がケバブにされかけたのを思い出し、ネフテリアは遠い目をしている。
ここで見かねたイディアゼッターが、グレッデュセントを救うために会話に割って入った。
「まぁまぁ、ミューゼさん、パフィさん」
『はい?』
「……いえなんでもございません。どうぞ続けてください」
「イディアゼッタアアアアアア!?」
思わず引き下がってしまった。今の2人には触れてはいけない気がしたのだ。
”こっちの神様も気迫で負けとるがな”
”どーすんだよこの状況”
神2人が人2人に全く逆らえていない。
困り果てているグレッデュセントを見て、流石に周りがおかしい事に気が付いたアリエッタ。
(あ、あれ? なんか間違えた?)
不安になってミューゼとパフィを見ると、いつも通り優しい笑顔の2人と目が合った。
「? えへへ」
「あらあら、アリエッタ楽しそうねー」
「え? え?」
いきなり殺気が完全に消え、驚くグレッデュセント。しかし、アリエッタが2人から目を離すと、再びドス黒い殺気に包まれる。
「よし、シメよう」
「シメるしかないのよ」
「なんで!?」
まったくもって意味が分からない。溺愛や煩悩を超えて、もはや狂気である。
2人はグレッデュセントの両側に立ち、左右から肩をがしっとつかんで、笑顔でささやいた。
「せっかくだから、今からティータイムにしましょうか」
「一緒に飲んでいくといいのよー」
「わ、わぁい。アリガトウゴザイマァス……」
ぎこちない笑顔を張り付けた女神が出来た事は、ありがたいお誘いを快く受ける事だけだった。
(あれ? やっぱり合ってた? 友達になったって事だよね、3人とも仲よさそうにしてるし。ちょっと恥ずかしかったけどキッカケ作れてよかったー)
アリエッタは、ミューゼ達の役に立てたと思い喜んだ。視界の外で恐怖のやり取りがあった事は、当然全く気付いていない。
ちなみに、足元にいるニオとメレイズは、グレッデュセントのドレスに引っかかったまま、だいぶ前に気絶していた。