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四月十六日。午後六時。
晩御飯を食べ終えた俺たちは『ヒバリ』の要求に応えるために彼女のマスターのところに行くこととなった。
「よし、それじゃあ、行くか……って、なんで俺の頭を撫でてるんだ? ヒバリ」
「えっと、私のために急いで食べてくれたから、そのお礼……だよ?」
「そっか。なら、そろそろ……」
「もうちょっとだけ、こうさせて……」
「……えーっと、あと何分くらいだ?」
「もうちょっと」
「……」
「ふふふ……照れてるナオト、可愛い♪」
「……あのー、ヒバリ、もうそろそろ……」
「ん? あー、うん、そうだね。そろそろ行こうか」
「なんか、お前、ハキハキ喋れるようになったな」
「え? そうかな?」
「ああ、そうだとも」
「ふーん、そっか。私……ナオトのおかげでハキハキ喋れるようになったんだ……。ありがとね、ナオト」
「え? いや、俺はお前に名前を付けただけだぞ?」
「ううん、そんなことないよ。ナオトはいい人だよ」
「えー、そうかなー?」
「自覚がないのがその証拠だよ」
「……まあ、そういうことにしとくか。それじゃあ、そろそろ行くぞ」
「うん!」
こうして、俺とヒバリはヒバリの外装の中へと向かったのであった。(他のみんなは留守番。だけど、アパートから出る前になぜか全員に頭を撫でられた。今は触覚が麻痺しているから、何も感じないのを知っているはずなんだが……まあ、いいか)
*
____ヒバリの中……じゃなくて、ヒバリの外装の中を歩いていると。(外装の中は壁や床が赤い。俺たちが通っているところだけ、明るくなる。だから、前方と後方は真っ暗。不思議だ……)
「ねえ、どうしてナオトはそんなに小さいの?」
ヒバリの外装の中を歩いていると、ヒバリがそんなことを訊《き》いてきた。えーっと、説明しないといけないのかな?
俺が面倒くさがっていると、ヒバリが俺の前に両手を広げて立ち塞《ふさ》がったため、仕方なく説明することにした。
「……歩きながらでいいか?」
「うん、いいよ」
「よし、それじゃあ、行くぞ」
「うん!」
再び歩き始めると、俺は自分がショタ化してしまった理由を話し始めた。
「簡単に言うと、あれだな……俺が鎖の力を……」
「鎖の力って何?」
「そこからか……。えーっと、二十八個の誕生石のうち、先代の誕生石使いが使わなかった二月の誕生石の『紫水晶《アメシスト》』が俺の体の中にあるんだけど、そいつが俺に」
「鎖の力を与えたんだね?」
「ああ、そうだ。それで、その力を使うと……」
「その副作用で体に異常が起こるってこと?」
「そうそう……って、察しがいいな」
「そんなことないよ。別に普通だよ」
「……そうか。えっと、話を続けるぞ。えーっと、要するに『第二形態』の副作用で身長が百三十センチになっちまったってわけだ」
「へえー、そうなんだ」
「リアクション薄いな……」
「えー、だって、私たち『四聖獣』も似たようなものだもん」
「そうなのか?」
「うん、そうだよ。本当はもっとボインボインなんだよー!」
まあ、嘘《うそ》なんだけどね。
「……すまない、俺は自分の母親がその……なかったもんだから、よく分からないんだ」
「……え? そうなの? ご、ごめんね、ナオトのお母さんのこと、よく知らなくて」
「いや、別に気にしてないから、いいよ」
「ナオト、その……なんて言っていいか」
「あ、あはははは、おっぱいって、なんだっけ?」
「……えっと、その、早く行こう……」
「……ああ、そうだな。早く行こう……」
____五分後。
「えーっと、こいつがお前の今のマスターか?」
「うん、そうだよ。いつもは、ここで寝てるだけなんだけど、私が寝ようとすると隣にやってくるから絶対に変態だよ!」
「……あー、ごめん。俺、こいつのこと知ってるわ」
「え? そうなの?」
「ああ、知っているとも。だって、こいつは……」
その時、床に寝ている|そ《・》|い《・》|つ《・》が目を覚ました。
その直後、そいつはスッと立ち上がると俺の両肩をガシッ! と掴《つか》んだ。
「お前、どこかで見たことある顔だけど、俺のこと知ってるか?」
俺は右目を前髪で隠している|そ《・》|い《・》|つ《・》に笑みを浮かべながら、こう言った。
「お前のことはよーく知ってるよ。百発百中、神出鬼没、百戦錬磨、千変万化……色々な異名を持つお前の正体は……深谷《ふかたに》 隼人《はやと》。元『獄立地獄高校』の出席番号『十三番』だろ?」
彼は、俺をギュッ! と抱きしめると。
「お前……やっぱりナオトなんだな! どうしてこんな姿になっちまったんだよ! 俺はあの高校を卒業した後、お前の行方を追っていたのに全然見つからなくて、それで俺……お前が死んだんじゃないかって思って……それから……それから……!」
俺は、深谷を抱きしめ返すと。
「俺は死んでなんかいないさ。この通り、ピンピンしてるよ。というか、相変わらず、涙腺が緩いんだな」
「ナオト、お前ってやつは何年経っても……変わらないな」
「それはお互い様だろ? 深谷」
「ああ……そうだな。ナオト……」
その様子を見ていたヒバリは、キョトンとしていたが俺と深谷が知り合いだということは理解した。
「おい、深谷。ヒバリが見てるから、もういいだろう?」
「ヒバリ? それは誰のことだ?」
「誰って、お前があいつのマスターなんだろう?」
「あいつって、誰だ?」
「いや、お前の後ろに立ってるやつのことだよ」
「俺の後ろに立ってるやつ?」
深谷が俺から離れながら振り向くと、そこにはまだキョトンとしているヒバリがいた。
「おい、ヒバリ。お前は深谷に何か言いたいことがあるからここに来たんだろ?」
ナオトがそう言うと、ヒバリはやっと我に返った。
「え? あー、うん、そうだったね。えーっとね、私は変態さんに言いたいことがあります!」
深谷はヒバリの方へ向かうと、彼女の目線まで屈んだ。
「えーっと、俺に何か用か?」
「何か用か……って、私は私が寝ている時にどうして私の方に変態さんが転がってくるのか知りたいの! それくらい察してよ!」
「えーっと、俺はお前のこと初めて見たけど、お前はここに住んでるのか?」
「……え?」
「というか、俺は寝心地が良かったから、ここにいるだけだぞ?」
「え? は? ええ!?」
混乱しているヒバリの元へ瞬時に向かった俺はヒバリの両肩に両手をポンと乗せると。
「ヒバリ、お前もしかして、深谷のことを勝手にマスターだと思ってただけなんじゃないのか?」
「……そう……かもしれない」
「えーっと、まあ、その……ドンマイ」
「……うん」
ヒバリは自分の思い込みに気づくと床に『の』の字を書き始めた……。
俺はその間、深谷に事情を全て説明していた。
すると、それを聞き終わった深谷は俺にこう言った。
「大丈夫! お前なら、その子のマスターになれるさ!」
「いや、いきなりそんなこと言われても……」
「お前なら、できる!」
「お前のその自信はどこから来るんだ?」
「お前は元、俺たちのリーダーだろう?」
「まあ、そりゃあ、そうだけどさ……」
「大丈夫だ! お前のすごさは俺たち全員が知っている。だから、お前は自信を持て!」
「うーん、そう言われても、俺には『家族(仮)』がいるからな……」
「何人いても、お前なら大丈夫だろ?」
「だーかーらー! その自信はどこから……」
その時、ヒバリがスッと俺たちの会話に割って入った。
「ナオト、私、ナオトがマスターでいいよ。というかナオトじゃなきゃ、いやだ。だから、お願い。私のマスターになって……」
「ヒバリ……お前……目が死んでるけど大丈夫か?」
「あははは、私は大丈夫だよー、あははははは」
「……俺って、この世界に来てから、どんどん家族が増えていってる気がするけど、気のせいかな?」
「細かいことは気にしない! それじゃあ、俺は今から寝るから、いざという時は呼んでくれよ?」
「おい、ちょっと待て。お前、この世界が異世界だってことは知ってるのか?」
「は? 異世界?」
「ああ、そうだ。ここは異世界だ」
「ふーん、そうなのか。まあ、俺はここに来た時から、ずっとここにいるから全然分からなかったけどな」
「ええ……」
「あっ、そうだ。他のやつらは来てるのか?」
「えーっと、今、俺の住んでるアパートに名取がいるけど、会うか?」
「名取《なとり》 一樹《いつき》か。名取式剣術の使い手で名刀【銀狼《ぎんろう》】の持ち主……だったか?」
「よく覚えてたな。あいつ結構、存在感ないのに」
「まあ、俺とあいつはちょっと似てるから、あいつも俺のことはよく知ってると思うぞ」
「そうなのか? まあ、帰ったら、訊《き》いてみるよ」
「……なあ、ナオト」
「ん? なんだ?」
「お前はまだ……いや、なんでもない。忘れてくれ」
「なんだよー、言いたいことがあるなら言えよー」
「……いや、今はいい。今はまだその時じゃない気がするからな」
「……そっか。なら、いいや。それじゃあ、俺たちはもう行くけど、お前はどうする?」
「俺は、ここに残るよ。居心地いいから」
「そうか。えっと、俺たちは戻るけど、深谷はもう晩飯は食ったのか?」
「いや、俺はこの中にいるだけで腹がいっぱいになるから大丈夫だ」
「あー、そっか。そういえば、そうだったな」
「はぁ……どうして周囲の魔力を食っていれば生きられる体質なんだろうな。高校を卒業した後もずっとその原因を調べてるのに全《まった》く進展がないんだよな」
「……そっか」
「……ああ」
俺と深谷は最後に握手をした。
「それじゃあ、またな。深谷」
「ああ、またな。ナオト」
こうして、ヒバリの一件は無事、解決されたのであった……。
※深谷《ふかたに》 隼人《はやと》。
深谷式狙撃術の使い手。狙撃に失敗したことがないことで有名な人物。
なぜ、右目を前髪で隠しているのかは謎である。
少し艶《つや》がある黒髪と黒い瞳と隼《はやぶさ》の羽でできた服を着ているのが特徴。
マイペースかつ細かいことを気にしない性格《たち》である。