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最初の一週間、何とか全て止めきってみせた。奥出は悔しそうな表情をするどころか、にやっと笑顔を浮かべるだけで、これは本当に正当なゲームなのか、分からなくなってきた。これは俺と奥出が遊んでいるのではなく、奥出が俺で遊んでいるような、そんな感覚なのだ。ただ、そう考えると、単純にムカついてくるので、俺は考えるのをやめた。
「なあ、友人よ、女にもてあそばれるとは、どういうことだろうか」
「なんだ、そんなハレンチな質問、僕は受け付けてないよ」
友人は俺が集めた三つの怪文書を見つめながら、俺の質問を軽く受け流す。当然本当のことなど言えるはずもなく、俺はそれ以上この質問をしなかった。
「ああ、申し訳ない。それより解読は出来たのか?」
「そんなのとっくに出来てるよ。はい、これ」
友人はまとまった紙を俺に渡してきた。それは怪文書を日本語に翻訳した資料だった。意味の考察まで書いてある徹底ぶりだ。
「天使と悪魔入り乱れる時、光が差し込む……ってなんだこれ、余計に暗号なんだが」
「最初に手に入れた怪文書二枚、拓斗が独自に手に入れた怪文書三枚、それぞれまとめてあるはずだよ。それは一枚目の翻訳だ」
俺は二枚め三枚目と、とりあえず翻訳されたものを口に出す。
「光の先に真の救世主……意味のない争いはやめ……目をそらさず見極めろ……真実はすぐそばにある……」
「全て繋がっているだろう、一応ね」
「いやいや、翻訳の意味ねえって。結局何が言いたいのか不明すぎる」
この中二病構文を考えたのがあの生徒会長だって言うのか? しかも、わざわざ英語にする意味はあったのだろうか。
「君も感じるかい? この差を」
「差? なんのことだ」
「君はこれがただの英語だと、そう思うんだろう?」
「結局英語を翻訳した結果がこれなんだろ? まあ、日本人が考えてるから日本語から英訳したのがこの怪文書なんだろうけど」
友人は遠回しに何か伝えようとしている。俺にはさっぱりだ。
「気づいていないのか? この文書、翻訳回数が違うんだ」
「翻訳回数? そんなの何回やったって一緒の結果になるはずだろ」
「それは一人の人間が何回もやったらの話だ。これを翻訳したのは人間じゃない」
「人間じゃないって、どういうことだ」
「人工知能、AI、簡単に言えば、スマホの翻訳機能にでもかけたんだろう」
頭がいいのか、悪いのか、よく分からない行動だ。確かに俺がこの日本語を英語に直せと言われたら絶対に出来ない。だが、あの生徒会長が苦戦するほどの文章なのか?
「益々、何がしたいのか分かんねえよ」
「あとさ、最初の二枚と後の三枚、文章の構成方法が違う」
「もう、簡潔に言ってくれよ……」
「分かった分かった。まず最初の二枚、これは日本語から英語の翻訳を二回ほど往復している。しかし、後の三枚は英語から日本語の翻訳を三回ほど往復しているんだ」
「それ、何が違うんだ? やってることは一緒だろ?」
というか、そんなことどうやって分かるんだ。
「はあ、君は本当に頭が回らないのか。本来なら同じでいいはずで、こんな凝ったマネをする必要はないと僕も思うさ。この情報から導き出される結論は二つ、わざとやり方を変えている、もしくは考えた人物が違う、このどっちかしかない」
俺の頭がショートしそうだ。もうばかなのは認めるから、これ以上難しい話をしないでくれ。
「もし後者だった場合、犯人は複数人いることになるのか?」
「まあ、そうなるだろうね」
「お前は犯人までも見つけ出そうとしているのか?」
「そこまで出来たら万々歳だけどね、出来なかったらそれはそれで仕方がないことさ。僕の頭が相手より劣っているということだから」
変に割り切ってるんだよなあ、こいつ。プライドがあるのかないのか、まあ、そんなプライド聞いたって何もならないけど。
「俺が犯人だって言ったらどうする?」
「それはない。君、頭悪いじゃないか」
「おい、純粋に傷つくんだが」
「もし君が犯人だとしたら、心の中なんてお見通しさ。きっと、こんなこと考えて実行している俺かっけーって感じで思いあがっているんだろう。案外周りは気にも留めていないってのにさ」
くそ、当ててくんのが余計ムカつく。俺は絶対こんなことしないからな、絶対に!
「あーあ、お前と友人になれたことが奇跡だよ」
「そりゃ光栄だね」
「褒めてねえよ」
「へいへい」
冗談はさておき、結局この文章の意味はなんだろうか。
「天使と悪魔入り乱れる時……これはえっと」
「この学校の者たちを指してるんだろう、その次の『光が差し込む』は、二枚目の『真の救世主』と繋がっていて、まあ、恩人みたいな意味合いなんじゃないかな」
もう怖いよ俺は。ここまで分かるのは逆に犯人かもしれないと思ってしまうだろ。だが、犯人は紛れもない生徒会長の奥出だ。俺はこの目で見たのだから。
「じゃあ、三枚目からは?」
「三枚目からは、僕からすると繋がってないように思える」
「十分繋がってるだろ。資料にも一応考察を書いてるじゃないか」
「そりゃ無理やり繋げたらそういう結果になっただけで、どうしても腑に落ちないんだよ」
資料には『救世主を恩人だとするならば、信頼や信仰を他者に強制するような意味合い』と記載されている。これの何が腑に落ちないというのか。
「俺は完璧に納得なんだが」
「もし、最初の二枚と後の三枚をそれぞれ別人が考えたのなら、最初の二枚が真犯人、後の三枚は模倣犯、という結果になり、わざと似せた上で自分の思いを伝えようとしたらこの文章になったんじゃないかと僕は思うのだよ」
何が何でも考察が深すぎる。たったこれだけの文書からどう導き出したらそうなる。中二病の考えることは理解できないぜ。
「つまり、別の意味があるってことか?」
「うん。何かを伝えたい内容であることは変わりないけど、伝えたい相手が多分違う。最初の二枚はその『救世主』に、後の三枚は多分『天使と悪魔』に」
「それ分かるのお前だけだって。さっきから思ったけど、お前犯人側か?」
「もしそうなら、君のようなちんちくりんにこんな考察を教えるわけがないだろう?」
「まあな、バレちまうもんな。っておい」
教室にたった二人、夏に入りつつある今日この頃、俺は抜け出せないとこまできてしまったのかもしれない。これでもまだ、友人は興味範囲だというつもりだろうか。
「そういえば拓斗、最近忙しそうにしているけれど、一体何を隠しているんだい?」
「おおおお前こそ、おおお俺に隠していることがあるんじゃないか?」
相変わらずごまかしのスキルがゼロ過ぎて萎える。どうしてこうなっちゃうんだろうな。
「まあ、言いたくないことなんだろう。それぐらい予感してたさ、君の友人なのだからね」
「別にお前ほど忙しくはない。ちょっと野暮用が増えただけだ」
「野暮用ねえ、それが本当に野暮用と切り捨てるだけの出来事なのか、僕には計り知れないよ」
「いいから、お前は怪文書の解読でも楽しんでおけよ」
「僕はもう十分、楽しませてもらっているけどね。君のおかげで」
俺のおかげだなんて、変なことを言う奴だ。怪文書を作っているのは俺ではなく生徒会長だ。いや、それはまあ言えないのだが、久々に知的なやり取りができて楽しいということだろうか。
「そういえば、『英語のようで英語でない』ってどういう意味だったんだ?」
「はあ、ここまで丁寧に説明したというのに分からないとは、呆れたもんだよ。もうちょっと理解できる奴だと思ってたんだけど」
そんなこと言われても困る。結局何だったんだよ。